(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年7月1日16時50分
三重県鳥羽港南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船新若豊丸 |
貨物船氏神丸 |
総トン数 |
199トン |
199トン |
全長 |
58.17メートル |
56.85メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
735キロワット |
3 事実の経過
新若豊丸は、船尾船橋型貨物船で、A及びB両受審人ほか1人が乗り組み、空倉のまま、船首0.8メートル船尾2.2メートルの喫水をもって、平成14年7月1日14時40分三重県松阪港を発し、兵庫県東播磨港に向かった。
A受審人は、船橋当直を自らとB受審人とによる単独5時間2直制とし、14時50分出港操船を終えて当直を交替したとき、三重県全域に濃霧注意報が発表されていたが、船舶所有者で船長経験もある同人に当直を任せておけば大丈夫と思い、自ら操船指揮を執ることができるよう、視界が狭められる状況となった際には速やかに報告させる指示を与えることなく自室で休息した。
ところで、B受審人は、通常レーダーを相対方位方式で、また、他船の航跡を表示させるためエコートレイルモードで使用しており、レーダー画面が他船の航跡で見にくくなると、同モードのタッチパネルを3秒以上押し続けて航跡を消去するようにしていた。
B受審人は、単独で当直に当たって桃取水道を通過し、16時39分誓願島灯標から099度(真方位、以下同じ。)450メートルの地点で、針路を加布良古水道のほぼ中央部を通航する133度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて11.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で進行した。
16時43分B受審人は、加布良古水道を通航し終えて誓願島灯標から124度1,650メートルの地点で、針路をほぼヨセマル灯浮標に向首する109度に転じ、そのころ霧模様で視程が1,500メートルばかりに狭められて視界制限状態となったが、速やかにA受審人に報告しなかったばかりか、安全な速力とすることなく、法定灯火を表示することや霧中信号を行うこともなく続航した。
16時45分B受審人は、ヨセマル灯浮標から291度850メートルの地点に達したころ、右舷船首13度1.3海里のところに、北上する氏神丸をレーダーで探知できる状況であったが、視程が1,000メートルばかりあったので他船を視認してからでも対処できるものと思い、レーダーによる見張りを十分に行わなかったので、これに気付かず、更に視界が悪化する中、肉眼による見張りを行いながら進行した。
16時46分半B受審人は、氏神丸が右舷船首14度1,550メートルとなり、同船と著しく接近することを避けることができない状況であったが、依然レーダーによる見張りを十分に行わなかったので、これに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを停止することなく続航した。
16時47分半B受審人は、ヨセマル灯浮標を右舷側50メートルばかりに並航したとき、6マイルレンジのレーダーで次の転針目標であるタナバシ灯浮標を確認しようとし、他船の航跡を消去するためエコートレイルパネルを押すつもりで誤ってその隣のモード選択パネルを押した。そのときレーダー画面が真方位方式に切り替わり、同画面の右斜め下に船首輝線が出て、中心部付近に氏神丸のレーダー映像を初めて探知したが、同線がいつものように真上に向いていないことから気が動転してどうしてよいのか分からない状態となり、微速力前進の6.0ノットの速力に減じただけで、依然A受審人に報告しないまま肉眼による見張りを行いながら進行した。
16時48分半少し過ぎB受審人は、氏神丸が行った汽笛による短音1回を右舷船首方に聞いて機関を停止するとともに、手動操舵に切り替えて少し左舵をとり、同時50分少し前右舷船首至近に同船を視認して全速力後進としたが及ばず、16時50分ヨセマル灯浮標から096度430メートルの地点において、新若豊丸は、4.0ノットの速力で、079度に向首したとき、その船首が氏神丸の左舷側中央部に後方から60度の角度で衝突した。
当時、天候は霧で風はなく、視程は約50メートルで、同日11時20分に濃霧注意報が発表されており、潮候は上げ潮の中央期であった。
A受審人は、自室で機関が停止したことに気付いて昇橋したところ、至近に迫った氏神丸を視認したが、どうすることもできないまま衝突し、事後の措置に当たった。
また、氏神丸は、船尾船橋型貨物船で、C受審人が父である機関長とともに2人で乗り組み、鋼材647トンを載せ、船首2.8メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、同年6月30日17時30分岡山県水島港を発し、愛知県名古屋港に向かった。
翌7月1日15時30分C受審人は、大王埼を通過して間もなく、自室の窓を通して霧により視程が1,000メートルばかりに狭められて視界制限状態となったことを知り、昇橋して機関長から船橋当直を引継いだが、法定灯火を表示しただけで、安全な速力とすることなく、霧中信号を行わないまま北上した。
16時36分C受審人は、石鏡灯台から070度580メートルの地点で、レーダーにより針路をヨセマル灯浮標の200メートルばかり東方に向首する315度に定め、機関を全速力前進にかけて10.0ノットの速力で、機関長を手動操舵に当たらせて進行した。
16時40分C受審人は、視程が500メートルばかりに狭められたので半速力前進の8.0ノットの速力に減じ、更に視界が悪化する中、レーダー監視を行いながら続航した。
16時45分C受審人は、ヨセマル灯浮標から128度1,600メートルの地点に達したころ、左舷船首13度1.3海里のところに東行する新若豊丸のレーダー映像を初めて探知し、その後同レーダー映像の監視を行いながら進行した。
16時46分半C受審人は、新若豊丸の映像が左舷船首12度1,550メートルばかりとなり、同船と著しく接近することを避けることができない状況であったが、新若豊丸はヨセマル灯浮標に並航したところで右転して左舷を対して替わるものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを停止しないまま続航した。
16時48分半少し過ぎC受審人は、左舷船首方500メートルばかりに迫った新若豊丸に右転の様子がないので衝突の危険を感じ、機関長に右舵を命じ、汽笛による短音1回を行って回頭中、同時50分少し前左舷正横至近に同船を視認し、機関を中立としたが及ばず、氏神丸は、原速力のまま、019度に向首したとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、新若豊丸は船首部に、氏神丸は左舷側中央部にそれぞれ凹損を生じたが、のち両船とも修理された。
(原因)
本件衝突は、霧のため視界が制限された三重県鳥羽港南東方沖合において、東行する新若豊丸が、安全な速力に減じることも、霧中信号を行うこともしなかったばかりか、レーダーによる見張りが不十分で、氏神丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを停止しなかったことと、北上する氏神丸が、安全な速力に減じることも、霧中信号を行うこともしなかったばかりか、新若豊丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを停止しなかったこととによって発生したものである。
新若豊丸の運航が適切でなかったのは、船長が、船橋当直者に対して視界が狭められる状況となった際の報告について指示を与えなかったことと、船橋当直者が、視界が狭められる状況となった際にその旨の報告及び措置を適切に行わなかったこととによるものである。
(受審人の所為)
A受審人は、松阪港の出港操船を終えて単独の船橋当直を交替する場合、濃霧注意報が発表されていたから、自ら操船指揮を執ることができるよう、当直者に対し、視界が狭められる状況となった際には速やかに報告させる指示を与えるべき注意義務があった。しかるに、同人は、船舶所有者で船長経験もある当直者に任せておけば大丈夫と思い、速やかに報告するよう指示を与えなかった職務上の過失により、当直者から視界が狭められる状況となった際に報告が得られなかったので自ら操船指揮を執ることができず、氏神丸との衝突を招き、新若豊丸船首部及び氏神丸左舷側中央部にそれぞれ凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、霧のため視界が制限された三重県鳥羽港南東方沖合を東行する場合、北上する氏神丸を見落とさないよう、レーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、視程が1,000メートルばかりあったので他船を視認してからでも対処できると思い、レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、氏神丸と著しく接近することを避けることができない状況であることに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、また、必要に応じて行きあしを停止することもしないまま進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、霧のため視界が制限された三重県鳥羽港南東方沖合を北上中、レーダーにより左舷船首方に認めた新若豊丸と著しく接近することを避けることができない状況であった場合、針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、また、必要に応じて行きあしを停止すべき注意義務があった。しかるに、同人は、新若豊丸がヨセマル灯浮標に並航したところで右転して左舷を対して替わるものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、また、必要に応じて行きあしを停止することもしないまま進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。