(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年10月13日05時15分
広島県尾道糸崎港
2 船舶の要目
船種船名 |
遊漁船アクア・テック |
プレジャーボート有直丸 |
全長 |
15.05メートル |
6.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
297キロワット |
44キロワット |
3 事実の経過
アクア・テックは、船体中央部の船尾寄りに操舵室を配したFRP製遊漁船で、A受審人(一級小型船舶操縦士、平成14年8月免許取得)が1人で乗り組み、釣り客15人を乗せ、大下瀬戸付近の釣り場に向かう途次更に釣り客を乗せる目的で、船首0.5メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成14年10月13日05時05分広島県尾道糸崎港第1区の戸崎フェリー桟橋を発し、航行中の動力船の灯火を表示して、同県三原市須波に向かった。
A受審人は、操舵室内右舷側に設置されたいすに腰掛けて手動操舵にあたり、徐々に増速しながら第1航路を経て第2航路(以下「航路」という。)を西航し、05時13分わずか過ぎ尾道灯台から060度(真方位、以下同じ。)1,920メートルの地点に至り、針路を航路の屈曲部を斜航する252度に定め、機関を全速力前進にかけて18.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)とし、このころ左舷船首12度950メートルの航路外に有直丸の白、緑2灯を初めて視認して動静を監視するうち、間もなく同緑灯が見えなくなって同船が左転していることを知った。
05時14分わずか前A受審人は、尾道灯台から057度1,520メートルの地点に達し、針路を航路に沿う245度に転じたとき、白灯1個を見せて航路外から航路に入る有直丸が左舷船首7度560メートルとなり、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近することを認め得る状況であったが、有直丸が航路外を西航するものと思い、同船に対する動静監視を十分に行っていなかったので、この状況に気付かず、同じ速力で進行した。
A受審人は、05時14分わずか過ぎ有直丸が420メートルに接近し、避航の気配がなかったものの、依然としてこのことに気付かず、警告信号を行うことも、さらに、同船が間近に接近してその動作のみでは衝突を避けることができなくなったが、速やかに行きあしを止めるなど衝突を避けるための協力動作をとることもなく続航し、同時15分わずか前左舷船首至近に有直丸の船体を視認してとっさに右舵をとるも効なく、05時15分尾道灯台から051度900メートルの地点において、アクア・テックは、原針路、原速力のまま、左舷船首部が有直丸の右舷側中央部に後方から15度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期にあたり、日出は06時10分であった。
また、有直丸は、船外機を備え、船体後部の右舷側に操縦席を配したFRP製プレジャーボートで、B受審人(四級小型船舶操縦士、平成6年8月免許取得)が1人で乗り組み、魚釣りの目的で、船首0.2メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、同日05時07分尾道糸崎港第2区の向島北岸に設けられた係留地を発し、航行中の動力船の灯火を表示して、向島の西方に隣接する岩子島周辺の釣り場に向かった。
B受審人は、操縦席で立って手動操舵にあたり、係留地が河川状の入江内にあって、尾道水道に面した入江の西岸付近で魚釣りが行われていたことから、機関をほぼ最低回転数にかけ、同東岸に寄せて右転しながら同水道に出たのち、航路に入ってこれを西航するために左舵をとって北上を始め、05時13分わずか過ぎ尾道灯台から060度960メートルの地点で、353度に向首したころ、右舷船首67度950メートルの航路内をアクア・テックが西航していたものの、同船の存在を認めないまま、機関回転数をわずかに上げて3.0ノットの速力とした。
05時14分わずか前B受審人は、尾道灯台から057度960メートルの地点に達し、船首が301度に向いたとき、右舷船尾63度560メートルにアクア・テックの白、紅2灯を視認でき、その後航路を航行している同船と衝突のおそれがある態勢で接近することを認め得る状況であったが、これから向かう左舷方の見張りに気をとられ、右舷方の見張りを十分に行っていなかったので、この状況に気付かず、航路外でアクア・テックの通過を待つなど同船の進路を避けることなく、左転しつつ北上を続けた。
B受審人は、05時14分少し過ぎ航路に進入し、同時15分わずか前波音を聞いて右舷後方を振り返り、至近にアクア・テックの船体を視認したものの避航する間もなく、操縦席から左舷側に逃れた直後、有直丸は、260度に向首し、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、アクア・テックは左舷船首部及び左舷側前部両外板に擦過傷を生じたが、のち修理され、有直丸は右舷側中央部舷縁及び操縦席の風防を破損したほか、オーニングバーの折損とハンドレールの曲損を生じ、B受審人が右腰背部打撲を負った。
(原因)
本件衝突は、日出前の薄明初期、尾道糸崎港の第2航路において、航路外から航路に入る有直丸が、見張り不十分で、航路を航行するアクア・テックの進路を避けなかったことによって発生したが、アクア・テックが、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、日出前の薄明初期、尾道糸崎港において、左転しつつ航路外から第2航路に入る場合、航路を航行するアクア・テックを見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、これから向かう左舷方の見張りに気をとられ、右舷方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、航路を航行するアクア・テックと衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず、航路外で同船の通過を待つなどアクア・テックの進路を避けることなく第2航路に進入して同船との衝突を招き、アクア・テックの左舷船首部及び左舷側前部両外板に擦過傷を生じさせ、有直丸の右舷側中央部舷縁及び操縦席の風防を破損せしめたほか、オーニングバーの折損とハンドレールの曲損を生じさせ、自らが右腰背部打撲を負うに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、日出前の薄明初期、尾道糸崎港において、第2航路を西航中、左舷前方の航路外に有直丸の白、緑2灯を視認し、間もなく同緑灯が見えなくなって同船が左転していることを知った場合、衝突のおそれがあるかどうか判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、有直丸が航路外を西航するものと思い、同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、航路外から航路に入る有直丸と衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず、警告信号を行うことも、速やかに行きあしを止めるなど衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、B受審人を負傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。