(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年12月28日12時30分
広島県福山港東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
旅客船おれんじ ぷりんせす |
漁船増栄丸 |
総トン数 |
695トン |
4.94トン |
全長 |
60.794メートル |
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登録長 |
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10.30メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
2,206キロワット |
44キロワット |
3 事実の経過
おれんじ ぷりんせす(以下「お号」という。)は、2機2軸を備え広島県福山港と香川県多度津港との間を1日6往復の定期運航に従事する前部船橋型旅客船兼自動車渡船で、A受審人ほか5人が乗り組み、旅客35人車両21台を載せ、船首2.7メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、平成14年12月28日12時05分福山港フェリーふ頭を発し、多度津港に向かった。
A受審人は、船橋当直を自らを含め一等航海士及び甲板員の3人で1時間45分を要する片道交替の単独当直制とし、今航海の船橋当直に一等航海士をあてることに決めて第4便の出航操船に就き、港内を東行して福山港第9号灯浮標に差し掛かり、基準航路に乗せるため右転を始め、12時21分百間礁灯標から293度(真方位、以下同じ。)2.6海里の地点で、針路を大飛島山頂に向け154度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、14.0ノットの対地速力で進行した。
定針後、A受審人は、船橋前部中央にあるレピーターの右横で見張りに就き前方を見たところ、右舷船首10度2.5海里前後のところに大型の錨泊船1隻と数隻の漁船の群れを認め、それまで多くの通航経験からその漁船群が底びき網漁の操業中であることが分かり、それらに近づいてから替わすつもりで漁船群の動きに注目した。そして、そのころ右舷船首3度2.25海里の、大飛島の西端とほぼ重なるところに増栄丸を視認できる状況であったものの、前路の見張りを厳重に行っていなかったので同船を見落とし、また、船橋前面の幅18.5センチメートルの窓枠により見張り位置から船首左方の見通しがやや妨げられる状態であったのに、見張り位置を変えずに同じ姿勢でいたので、やがて東行中の増栄丸が窓枠の陰に入ったことにも気付かなかった。
12時26分A受審人は、百間礁灯標から270度1.9海里の地点に達したとき、左舷船首4度1.1海里のところにトロールにより漁ろうに従事していることを示す形象物を掲げ、そのころ左転して北西方に向けえい網する増栄丸を認めることができ、その後衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況であったが、定針時に視認した右舷前方の漁船群のほかに他船はいないものと思い、顔を動かすなり、見張り位置を移動して見る角度を変えて左舷船首方の見張りを十分に行わなかったので、増栄丸に気付かず、速やかに右転するなどして同船の進路を避けないまま続航した。
こうして、A受審人は、12時29分左舷船首500メートルばかりに迫った増栄丸に依然として気付かず、一方、右舷船首30ないし40度1,000メートルばかりに近づいた漁船群がいずれも西方に向首しているのを認めて安心し、そのころ昼食を終えて昇橋した一等航海士に対し翌年早々の入渠にかかるドックオーダーの説明のため同航海士を船橋左舷側後部の海図台に伴い船尾方を向いた姿勢で話を始め、同時30分少し前前路を見張ろうと振り返ったところ、左舷船首至近に増栄丸を初めて視認して驚き、機関を停止に操作したが及ばず、12時30分百間礁灯標から240度1.7海里の地点において、お号は、原針路、ほぼ原速力のまま、その左舷船首部に、増栄丸の船首が前方から25度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、視界は良好で、潮候は上げ潮の初期であった。
また、増栄丸は、全長12メートル以上の小型機船底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人(昭和49年9月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、えび、しゃこ漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日06時00分岡山県笠岡港を発し、07時ごろ福山港沖合の漁場に到着し、操舵室前方のマストと船尾部のやぐらとに渡したロープに鼓形の形象物を掲げて操業を開始した。
ところで、増栄丸の底びき網漁は、船尾から延出した長さ100メートルのワイヤー製引き綱1本の先端に2本の股綱を連結してそれをビーム用パイプで三角形を構成し、更にパイプ両端に備えた股綱に重さ約55キログラムの桁をそれぞれ取り付け、各桁に長さ6メートルの漁網を設けたものを漁具として使い、30分ばかりえい網し、揚網に5ないし6分を要したのち、再び投網してえい網を繰り返すというもので、えい網中に漁獲物の選別作業が行われていた。
B受審人は、目的の漁場で操業を続け、12時18分百間礁灯標から235度2.0海里の地点で再びえい網を始め、針路を高島南端に向けて060度に定め、機関を回転数毎分2,500にかけ、えい網速力を2.5ノットとし、舵を中央にしてえい網により針路を保持して進行した。
えい網開始後、B受審人は、後部甲板右舷側でいすに腰をかけて体を左舷方に向け、漁獲物を選別してバケツに入れる作業を始め周囲の見張りを厳重に行っていなかったので、12時21分百間礁灯標から235度1.85海里の地点に達したとき、左舷正横前7度2.25海里のお号を見落としたまま続航した。
B受審人は、南方沖合いの大飛島と六島との位置関係を確かめ北西方に向けてえい網を続けることとし、12時26分百間礁灯標から234度1.65海里の地点に至ったとき、針路を309度に転じた。
転針したとき、B受審人は、右舷船首21度1.1海里のところにお号を認めることができ、その後衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況であったが、漁獲物の選別作業に気を取られ、前路の見張りを十分に行わなかったので、同船に気付かず、警告信号を行うことも、更に間近に接近したとき衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行中、突然衝撃を感じ、増栄丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、お号は、左舷船首部外板に擦過傷を生じただけで、増栄丸は、船首部を圧壊したが、のち修理された。
(原因)
本件衝突は、広島県福山港東方沖合において、お号が、見張り不十分で、トロールにより漁ろうに従事している増栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、増栄丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、広島県福山港東方沖合を南下中、船橋前面の窓枠の側で見張りを行う場合、その見張り位置からでは窓枠により船首左方の見通しがやや妨げられる状態にあったから、トロールにより漁ろうに従事している増栄丸を見落とすことのないよう、顔を動かすなり、見張り位置を移動して見る角度を変えて左舷船首方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、定針時に視認した右舷前方の漁船群のほかに他船はいないものと思い、左舷船首方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、増栄丸に気付かず、その進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き、お号の左舷船首部外板に擦過傷を生じさせ、増栄丸の船首部を圧壊させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、広島県福山港東方沖合において、北西方に向けて底びき網をえい網しながら船尾甲板で漁獲物の選別作業を行う場合、自船に向かって接近するお号を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、選別作業に気を取られ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、同船に気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行してお号との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。