日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成15年広審第24号
件名

漁船第十五暉祥丸防波堤衝突事件
二審請求者〔理事官 亀井龍雄〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年7月8日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(供田仁男、関 隆彰、道前洋志)

理事官
亀井龍雄

受審人
A 職名:第十五暉祥丸船長 海技免許:四級海技士(航海)

損害
船首及び球状船首両外板に凹損等
船長と甲板員5人及び、機関長と機関員2人が鼻骨骨折頭部打撲等

原因
見張り不十分

主文

 本件防波堤衝突は、見張りが十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年9月8日22時32分
 島根県浜田漁港
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第十五暉祥丸
総トン数 75トン
登録長 26.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット

3 事実の経過
(1)浜田漁港
 浜田漁港は、日本海に面する島根県西岸のほぼ中央部に位置し、漁港ふ頭と呼ばれる、南方を基部として北北西方に延びる突堤を有しており、その西方に同ふ頭と230メートル隔てて西防波堤が、同防波堤と500メートル隔てて西沖防波堤が、いずれも漁港ふ頭とほぼ平行に築造され、さらに、西防波堤と西沖防波堤との間にその北端を両防波堤の北端よりも170メートル北方として南南東方に延びる西内防波堤、同防波堤北端の西南西方260メートルを南端とする沖防波堤及び同北端の北西方170メートルを南西端とする北防波堤がそれぞれ築造されていた。
 港口は、西沖防波堤北端と沖防波堤南端との間で、同南端と西内防波堤及び漁港ふ頭の両北端とがほぼ東西方向に一線に並び、このため、漁港ふ頭北端部から出港するには、いったん西方に進み、西内防波堤と北防波堤との間で針路を南西方に転じ、港口に至ってこれを西行することとなり、その際左舷側に航過する西内防波堤及び西沖防波堤の両北端に灯色赤の灯台が、また右舷側に航過する北防波堤南西端及び沖防波堤南端に灯色緑の各灯台が設置されていたが、西防波堤に灯台は設置されていなかった。
(2)本件発生に至った経過
 第十五暉祥丸(以下「暉祥丸」という。)は、第十三暉祥丸(以下「主船」という。)と共に2そうびきの沖合底びき網漁業に従事する、船首船橋型の鋼製漁船で、平成14年9月8日15時15分浜田漁港に入港し、漁獲物の水揚げと氷の積込みを終了後、A受審人ほか9人が乗り組み、船首2.1メートル船尾4.0メートルの喫水をもって、浜田漁港西内防波堤灯台(以下、灯台名については「浜田漁港」の冠称を省略する。)から092度(真方位、以下同じ。)430メートルにあたる、漁港ふ頭北端部近くの西面に右舷付けしている主船の左舷側に右舷側を接舷し、出港に備えて待機した。
 A受審人は、22時25分乗組員を出港配置に就け、自身は操舵室内ほぼ中央部で手動操舵と機関の遠隔操縦操作にあたり、船尾のスプリングラインを残して機関を短時間後進にかけ、船首を左方に振ったのち、同時27分同ラインを解いて浜田漁港を出港し、同漁港沖合の漁場に向かった。
 出港直後、A受審人は、西方700メートルに赤色不動光中に6秒毎の赤色2閃光を発する港口の西沖防波堤灯台と西北西方560メートルに6秒間隔で3秒間緑色光を発する北防波堤灯台の各灯光を視認し、このころ両灯光間の手前に4秒毎に赤色1閃光を発する西内防波堤灯台の灯光を視認することができる状況であったが、同灯光を視認しないうち、操舵室前部右舷側のレーダー画面に目を移し、0.25海里レンジとした同画面上に西防波堤の映像を認めて、これを西内防波堤のものと間違えたままレーダーに頼り、同灯光を視認して両防波堤を見分けることができるよう、周囲の見張りを十分に行うことなく、同映像を見ながら舵及び機関を使用して左回頭を始めた。
 22時30分A受審人は、西内防波堤灯台から091度360メートルの地点で、針路を西防波堤の映像の北方に向く256度に定めたところ、西内防波堤のほぼ中央部に向首することとなったものの、依然として周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、機関を全速力前進にかけ、速力が徐々に上昇するなか、レーダー画面の西防波堤の映像だけを注視して進行し、同時31分半同防波堤北端を左舷側に90メートル隔てて航過した。
 22時32分少し前A受審人は、西内防波堤灯台から116度140メートルの地点に達し、速力が9.0ノットとなったとき、顔を上げて左舷船首少し左400メートルに西沖防波堤灯台の赤色及び右舷船首少し右に沖防波堤灯台の緑色の各灯光を視認し、西内防波堤をかわしたつもりでいたうえ、平素同防波堤航過後は西沖防波堤灯台を右舷前方に望む態勢としていたことから、同灯台の灯光が右舷前方となるよう、針路を250度に転じ、その後相次いで出港した主船の漁撈長から無線電話で「どこに向かっているのか。」と言われたものの、何のことか分からずに続航中、22時32分西内防波堤灯台から156度100メートルの地点において、暉祥丸は、原針路のまま、10.0ノットの速力で、西内防波堤に直角に衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
 その結果、船首及び球状船首両外板に凹損と居住区床材に歪損を生じ、魚倉隔壁が破損し、食堂の食卓が倒壊したほか、乗組員全員が転倒したり構造物に身体を強打したりして、A受審人が鼻骨骨折等、甲板員M及び同Sが肋骨骨折等、同Fが上腕骨骨幹部骨折、同Tが大腿打撲等、同Kが頭部打撲等、機関長Wが頚椎捻挫等、機関員Cが前腕打撲等及び同Dが頭部擦挫創をそれぞれ負った。

(原因)
 本件防波堤衝突は、夜間、多数の防波堤が築造された浜田漁港において、港内の西内防波堤北端を左舷側に航過して港口に向かう際、見張り不十分で、同防波堤に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、多数の防波堤が築造された浜田漁港において、港内の西内防波堤北端を左舷側に航過して港口に向かう場合、同防波堤の手前にはこれとほぼ平行に灯台が設置されていない西防波堤が存在したから、西内防波堤灯台の灯光を視認して両防波堤を見分けることができるよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、近距離レンジとしたレーダー画面上に西防波堤の映像を認めて、これを西内防波堤のものと間違えたままレーダーに頼り、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、同映像を見ながら西防波堤北端を左舷側に航過し、西内防波堤に向首していることに気付かないまま進行して同防波堤との衝突を招き、船首及び球状船首両外板に凹損と居住区床材に歪損を生じさせ、魚倉隔壁を破損せしめたほか、自身を含む乗組員全員に鼻骨骨折や肋骨骨折等を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION