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平成15年神審第16号
件名

油送船第2昭永丸プレジャーボートにしき丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年7月23日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(甲斐賢一郎、田邉行夫、相田尚武)

理事官
前久保勝己

受審人
A 職名:にしき丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
昭永丸・・・・正船首外板に擦過傷
にしき丸・・・右舷中央部外板に亀裂を伴う破口、転覆し、船外機を流失
船長が腰部捻挫、同乗者2人が右肩鎖骨部打撲及び頸椎捻挫

原因
昭永丸・・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
にしき丸・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第2昭永丸が、見張り不十分で、漂泊中のにしき丸を避けなかったことによって発生したが、にしき丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年10月11日15時35分
 播磨灘
 
2 船舶の要目
船種船名 油送船第2昭永丸 プレジャーボートにしき丸
総トン数 697.77トン  
全長 61.20メートル 7.02メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 1,176キロワット 36キロワット

3 事実の経過
 第2昭永丸(以下「昭永丸」という。)は、船尾船橋型の鋼製液化ガスばら積船で、船長N及び二等航海士S(昭和11年1月17日生、五級海技士(航海)免状受有、受審人に指定されていたところ、平成15年6月20日死亡により、同月24日同指定が取り消された。)ほか3人が乗り組み、空倉で、船首2.00メートル船尾3.80メートルの喫水をもって、平成14年10月11日12時45分大阪港堺泉北区を発し、広島県岩国港に向かった。
 ところで、N船長は、船橋における当直体制として、自らが08時から12時及び20時から24時に、S二等航海士が00時から04時及び12時から16時に、一等航海士が04時から08時及び16時から20時にそれぞれ単独で就く4時間3直体制をとっていた。
 S二等航海士は、同日13時00分ごろ、大阪港出港操船を終えたN船長から船橋当直を引き継いで立直し、明石海峡を通過したのち、15時01分富島(としま)港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から010度(真方位、以下同じ。)3.6海里の地点で、針路を249度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、自動操舵により進行した。
 15時32分少し前S二等航海士は、北防波堤灯台から290度4.7海里の地点に達したとき、正船首1,000メートルのところににしき丸が存在し、やがて同船が漂泊しており、これに衝突のおそれのある態勢で接近しているのを認めることができる状況にあったが、そのころかかってきた運航会社からの電話への対応や通話内容の記録に気をとられ、前路の見張りを十分に行うことなく、このことに気付かないまま続航した。
 15時34分S二等航海士は、北防波堤灯台から287度5.0海里の地点に至り、にしき丸まで320メートルのところに接近したが、依然、前路の見張りを十分に行わないで、にしき丸に気付かないまま進行中、15時35分北防波堤灯台から286度5.1海里の地点において、昭永丸は、原針路、原速力のまま、その船首がにしき丸の右舷中央部に直角に衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好で、潮候は下げ潮の初期にあたり東北東への微弱な潮流があった。
 S二等航海士は、衝突の衝撃を感じないまま通話内容の記録を続けていたが、海上から叫び声を聞いて左舷ウイングに出ると、にしき丸から飛び込んだ漂流者を認めたので、N船長に報告した。N船長は、直ちに昇橋して操船の指揮をとり、A受審人及び同乗者2人を救助するなど事後の措置に当たった。
 また、にしき丸は、和船型のFRP製プレジャーボートで、平成14年7月24日交付の四級小型船舶操縦士の免状を有するA受審人が1人で乗り組み、息子及び船舶所有者の2人を同乗させ、魚釣りの目的で、船首尾0.3メートルの等喫水をもって、10月11日09時ごろ兵庫県東播磨港の係留地を発し、09時20分過ぎ同港南方沖合の釣場に到着したのち、2度ほど釣場を変更してさらに播磨灘を南下し、14時ごろ鹿ノ瀬灯浮標東方2海里ばかりの釣場に至って、同釣場で潮上りを繰り返しながら魚釣りを続けた。
 15時32分少し前A受審人は、前示衝突地点において、船首が339度を向いて漂泊を開始し、同人が船尾、同乗者2人が船首と中央に位置してそれぞれ左舷側を向いて釣竿を出していたとき、右舷正横1,000メートルのところに、自船に向首する昭永丸を視認でき、その後、同船が衝突のおそれのある態勢で接近するのを認めることができる状況にあったが、魚釣りに熱中していて、周囲の見張りを十分に行わなかったので、昭永丸に気付くことなく、船外機を始動して前進するなど、衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊を続けた。
 15時34分A受審人は、昭永丸が自船に向首したまま320メートルに接近したが、依然、周囲の見張りを十分に行うことなく、同船に気付かないまま漂泊中、同時35分わずか前同乗者の叫び声を聞いて右舷側を振り返り、至近に迫った昭永丸の船首部を認めたが、どうすることもできず、同乗者2人とともに海に飛び込み、にしき丸は、船首を339度に向けたまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、昭永丸は、正船首外板に擦過傷を生じ、のち修理され、にしき丸は、右舷中央部外板に亀裂を伴う破口を生じて転覆し、船外機を流失した。また、A受審人が腰部捻挫、同乗者2人が右肩鎖骨部打撲及び頚椎捻挫などを負った。

(原因)
 本件衝突は、播磨灘において、西行中の昭永丸が、見張り不十分で、漂泊中のにしき丸を避けなかったことによって発生したが、にしき丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、播磨灘において、魚釣りを行いながら漂泊する場合、衝突のおそれのある態勢で接近する昭永丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、魚釣りに熱中して、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれのある態勢で接近する昭永丸に気付かず、船外機を始動して前進するなど衝突を避けるための措置をとることなく漂泊を続けて同船との衝突を招き、昭永丸の正船首外板に擦過傷を、にしき丸の右舷中央部外板に亀裂を伴う破口の損傷などを生じさせ、また自ら腰部捻挫を負い、同乗者2人に右肩鎖骨部打撲及び頚椎捻挫などを負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 


参考図
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