(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年6月3日13時50分
兵庫県津名港
2 船舶の要目
船種船名 |
押船喜池鶴丸 |
土運船第六芳石 |
総トン数 |
123トン |
約2,728トン |
全長 |
32.00メートル |
87.00メートル |
幅 |
10.00メートル |
16.00メートル |
深さ |
4.99メートル |
5.55メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
2,059キロワット |
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3 事実の経過
喜池鶴丸は、2機2軸及び2舵を備えた鋼製の押船兼引船で、空倉で船首尾とも1.50メートルの喫水となった非自航式鋼製土運船第六芳石(以下「芳石」という。)の船尾に船首を連結器で結合するとともに、船尾甲板の左右から芳石の船尾左右各舷にそれぞれワイヤロープを取って連結し、全長約119メートルの押船列(以下「喜池鶴丸押船列」という。)を構成し、A受審人ほか4人が乗り組み、船首2.40メートル船尾3.20メートルの喫水をもって、平成14年6月3日11時47分大阪湾東部の関西国際空港沖合にある埋立工事区域を発し、兵庫県津名港北部の土砂積出桟橋(以下「桟橋」という。)に向かった。
ところで、桟橋は、津名港北部護岸の、津名港佐野東防波堤灯台(以下「佐野防波堤灯台」という。)から230度(真方位、以下同じ。)660メートルの地点から141度の方向に延びる全長135メートル、最大幅14.5メートルのドルフィン式桟橋で、海底に打ち込んだ多数の鋼管上にコンクリートの床が張られ、先端から約97メートルのところに土運船が係留されるようになっており、土砂積込みは、桟橋上に据え付けられた移動式ローダーによって行われ、3,800トン型土運船の積込みに30分ないし1時間かかった。また、桟橋付近の水深は約12メートルで、桟橋先端近くの海面に潮流状況が分かるようにブイが設置され、桟橋付近には係留作業の補助などにあたるため引船が待機していた。
A受審人は、平成12年11月から喜池鶴丸に乗船して一等航海士又は船長の職務を執り、桟橋への係留回数は50回を超え、離着桟操船には慣れており、平素桟橋に係留する際、舵が効く最低速力の3.0ノットで前進中に、機関を半速力後進にかければ約60メートルで停止することを経験的に知っていた。
発航後A受審人は、機関を回転数毎分650の全速力前進にかけ、8.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で大阪湾を西行し、13時40分佐野防波堤灯台から112度1,500メートルの地点で、桟橋まで1海里のところに達したとき、桟橋の管理事務所から、桟橋南側で別の土運船が積込み作業をしているので、北側に着けるよう指示を受けるとともに、桟橋付近の潮流はやや強めの北流である旨の連絡を受けて、桟橋北側に入船左舷係留することとし、針路を桟橋先端に向首する270度に定め、その後機関の回転数を徐々に下げて両舷機とも回転数毎分420の微速力前進とし、平均6.3ノットの速力で進行した。
A受審人は、桟橋係留にあたり、一等航海士と二等機関士を芳石の船首に、機関長と一等機関士を同船尾にそれぞれ配置し、一等航海士に桟橋までの距離をトランシーバーによって適宜報告させ、ときどきGPSを見て速力を確認しながら船橋で機関の遠隔操作と手動操舵にあたった。
13時46分半A受審人は、佐野防波堤灯台から170度550メートルの地点に達し、桟橋先端が正船首500メートルとなったとき、針路を246度に転じるとともに、GPSの表示速力が、予定の速力となっていることを確かめ、その後機関を微速力前進としたまま4.5ノットの速力で続航した。
A受審人は、当時の天候から引船の補助は必要ないと判断し、13時48分半佐野防波堤灯台から196度680メートルの地点で桟橋先端まで280メートルとなったとき、針路を301度に転じ、普段と同じように桟橋への進入角度を20度として係留位置の中央より少し陸側に向首して進行し、同時49分芳石の船首が桟橋先端まで100メートルとなったとき、機関を両舷機とも中立にするとともに、左舷側の舵を右舵一杯、右舷側の舵を左舵一杯として船首方向を保ち、一等航海士から桟橋の接近模様について報告を受け、自らも船橋から桟橋までの距離を目測しながら、惰力で桟橋に接近した。
13時49分半A受審人は、芳石の左舷船首が桟橋先端に20メートルで並び、係留位置まで約100メートルとなったが、潮流の影響で右方に圧流されるので桟橋とは衝突しないと思い、予測した潮流や目測距離に多少の誤差があっても桟橋との衝突を避けられるよう、機関を適宜使用して右転し、係留位置の十分手前で桟橋に沿う方向に向けるなど適切な操船を行わず、GPS表示速力が約3ノットとなっていることを確かめ、機関を半速力後進にかけて速力を減じながら、20度の進入角度で桟橋に向首したまま進行し、13時50分喜池鶴丸押船列は、原針路のまま、残存速力が約1ノットとなったとき、佐野防波堤灯台から223度660メートルの地点において、芳石の左舷船首が、先端から45メートル陸側の桟橋側面に取り付けられた防舷材に、桟橋と20度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期にあたり、付近には微弱な北東流があった。
A受審人は、船体が停止したあと、桟橋で待機していた引船の援助により係留を終え、損傷個所を確認した。
衝突の結果、芳石の左舷船首部に破口及び凹損を生じ、桟橋の防舷材及びその支持鋼材が損傷、変形したが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件桟橋衝突は、兵庫県津名港において、桟橋に係留する際、操船が不適切で、桟橋に向首したまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、兵庫県津名港の桟橋に入船左舷係留するため、同桟橋北側の係留位置に接近した場合、予測した潮流や目測距離に多少の誤差があっても桟橋との衝突を避けられるよう、機関を適宜使用して右転し、係留位置の十分手前で桟橋に沿う方向に向けるなど適切な操船を行うべき注意義務があった。しかし、同人は、潮流の影響で右方に圧流されるので桟橋とは衝突しないと思い、機関を適宜使用して右転し、係留位置の十分手前で桟橋に沿う方向に向けるなど適切な操船を行わなかった職務上の過失により、桟橋に向首したまま進行して衝突を招き、芳石の左舷船首部に破口及び凹損を生じさせ、桟橋の防舷材及びその支持鋼材を損傷、変形させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。