(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年9月6日00時36分
石川県金沢港北西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船天快丸 |
漁船第十専西丸 |
総トン数 |
1,499トン |
41.68トン |
全長 |
88.49メートル |
27.70メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
2,060キロワット |
411キロワット |
3 事実の経過
天快丸は、船尾船橋型の鋼製油送船で、船長C及びA受審人ほか8人が乗り組み、空倉で海水バラスト約1,000トンを張り、船首2.1メートル船尾4.2メートルの喫水をもって、平成14年9月5日12時45分新潟港を発し、関門港へ向かった。
C船長は、船橋における当直体制として、8時から0時の間を同人が、0時から4時の間をA受審人が、4時から8時の間を一等航海士がそれぞれ各1人の甲板手とともに4時間交替で行う3直輪番制をとっていた。
発航後、C船長は、出航操船を終えていつもの当直体制として能登半島北西方沖合に至り、21時55分猿山岬灯台から002度(真方位、以下同じ。)4.6海里の地点で、針路を211度に定め、13.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、航行中の動力船の灯火を表示して自動操舵により進行し、23時40分石川県金沢港の北北西方28海里ばかりの地点に達したとき、A受審人が早めに昇橋してきたので、同人に船橋当直を引き継ぎ、降橋して休息した。
A受審人は、相当直の甲板手とともに船橋当直に就き、翌6日00時30分ごろ左舷船首方2海里ばかりに第十専西丸(以下「専西丸」という。)の白1灯を初めて視認し、しばらくして、同船の白、緑2灯を認め、その方位変化が少ないことから、航過距離を少しでも離すこととし、同時31分少し過ぎ金沢港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から326度20.5海里の地点で、針路を225度に転じたが、その後、衝突のおそれの有無を判断できるよう、専西丸の動静監視を十分に行わなかった。
00時33分A受審人は、西防波堤灯台から325度20.4海里の地点に達したとき、専西丸が左舷船首36度1,680メートルとなり、その方位が変わらないまま前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近していたものの、転針によって専西丸が自船の船尾方を替わっていくものと思い、依然、動静監視が不十分で、このことに気付かず、警告信号を行わず、更に間近に接近したとき行きあしを止めるなど、衝突を避けるための協力動作もとらなかった。
00時36分少し前A受審人は、左舷船首至近に迫った専西丸をようやく認めて衝突の危険を感じ、右舵をとり、更に甲板手が右舵一杯としたが及ばず、00時36分西防波堤灯台から323度20.1海里の地点において、天快丸は、原速力のまま233度に向首したその左舷後部に、専西丸の船首部が直角に衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北北東風が吹き、視界は良好であった。
また、専西丸は、沖合底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか5人が乗り組み、甘えび漁の目的で、船首1.0メートル船尾2.7メートルの喫水をもって、同月5日22時30分金沢港を発し、同港北西方沖合30海里付近の漁場へ向かった。
ところで、専西丸は、甘えび漁が解禁となった9月1日から毎日23時ごろ金沢港を出港し、前示漁場において、投網から揚網まで約4時間の操業を一昼夜に4回行い、翌日21時ごろ帰港して水揚げしたのち再び出港するという出漁パターンを、9月3日の休漁日を挟んで繰り返し行っていたものであった。
また、船橋当直は、漁場までの往航時には甲板員とB受審人が一日おきに、出入港操船と操業中及び復航時には漁労長が、それぞれ単独で当たっていた。
B受審人は、23時00分西防波堤灯台から326度2.5海里の地点で船橋当直に就き、針路を323度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、11.0ノットの速力で、航行中の動力船の灯火を表示して進行した。
定針後、B受審人は、他船の接近を知らせる警報装置の組み込まれたレーダーを使用していたところ、自船に遅れて金沢港を出漁した僚船が右舷後方に接近し、同警報が鳴り始めてうるさいので、警報装置を休止させ、右舷方1海里ばかりのところを追い越していく同船の動向を見ながら続航した。
翌6日00時00分ごろB受審人は、自船を追い越していった僚船以外には付近に他船が見当たらないことから、操舵室左舷側の床に腰を降ろし、冷蔵庫にもたれかかった姿勢でレーダー画面を見ながら見張りに当たっていたところ、眠気を催すようになったが、あと1時間ばかりで船橋当直を漁労長に引き継ぐので、それまで、まさか眠ることはないと思い、居眠り運航とならないよう、警報装置を作動させ、外気に当たるなど、居眠り運航の防止措置をとることなく当直を続け、いつしか居眠りに陥った。
こうして、B受審人は、00時33分西防波堤灯台から323度19.5海里の地点に達したとき、右舷船首46度1,680メートルのところに天快丸の白、紅2灯を視認でき、その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近したが、居眠りしていてこのことに気付かず、右転するなど、天快丸の進路を避けることができないまま進行中、専西丸は、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、天快丸は、左舷後部外板に破口を伴う凹損を生じ、専西丸は、船首部を圧壊したが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、夜間、石川県金沢港北西方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、専西丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路を左方に横切る天快丸の進路を避けなかったことによって発生したが、天快丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、夜間、金沢港北西方沖合において、単独の船橋当直に就いて漁場へ向け西行中、他船の接近を知らせる警報装置を休止させ、同装置の組み込まれたレーダー画面を見ながら見張りに当たっていたとき、眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、警報装置を作動させ、外気に当たるなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、あと1時間ばかりで船橋当直を漁労長に引き継ぐので、それまで、まさか眠ることはないと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥って、天快丸と衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、右転するなど、同船の進路を避けることができないまま進行して衝突を招き、自船の船首部に圧壊を、天快丸の左舷後部外板に破口を伴う凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の六級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
A受審人は、夜間、金沢港北西方沖合を南下中、左舷船首方に方位変化の少ない専西丸の灯火を視認し、航過距離を離すために転針した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、転針後、同船の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、転針によって専西丸が自船の船尾方を替わっていくものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、専西丸と衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、警告信号を行うことも、間近に接近したとき行きあしを止めるなど、衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。