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平成14年横審第129号
件名

プレジャーボート飛天プレジャーボートすずき丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年7月30日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(阿部能正、吉川 進、黒田 均)

理事官
織戸孝治

受審人
A 職名:飛天船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:すずき丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
飛 天・・・・船首部外板に擦過傷
すずき丸・・・右舷後部外板に破口
船長が骨盤骨折

原因
すずき丸・・・法定灯火不表示、見張り不十分、注意喚起信号不履行

主文

 本件衝突は、すずき丸が、航行中の法定灯火を表示しなかったばかりか、見張り不十分で、注意喚起の措置をとらなかったことによって発生したものである。
 受審人Bの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年8月21日19時15分
 静岡県浜名港
 
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート飛天 プレジャーボートすずき丸
全長 10.52メートル 6.15メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 128キロワット 7キロワット

3 事実の経過
 飛天は、FRP製プレジャーボートで、A受審人(平成11年10月8日四級小型船舶操縦士免状を取得)が単独で乗り組み、同乗者1人を乗せ、魚釣りの目的で、船首0.1メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、平成14年8月21日11時30分静岡県浜名港港域内の千鳥園北側にある係留地を発し、同港南方1.5海里沖合にあたる、遠州灘の釣り場に到着して釣りを行った。
 18時32分日没となり、A受審人は、操舵輪(ホイール)により操舵に当たる本船において、浜名港港域内であっても、静岡県河川管理規則(昭和40年静岡県規則第35号)第2条の2第1項の規定(以下「静岡県条例」という。)により、浜名湖内のうち、天神松と称する湖西市新所字東岡17番地の1から鳥冠岩と称する浜松市舘山寺町2,231番地先を結んだ直線以南の水域(以下「浜名湖南部水域」という。)を、日没後航行することができないこととなっていたものの、同時40分法定灯火を表示し、釣り場を発進して帰途についた。
 A受審人は、18時50分ごろ遠州灘から今切口と称する水路を通航して浜名湖南部水域に入域したのち、中央水路2番と称する標識杭(以下「中2杭」という。)の南方を経て、和田水路を東行する予定で北上した。
 ところで、浜名湖内には13個の水路があり、和田水路は、同湖南部水域の観月園と乙女園の北西側沖合に開設された長さ約1,300メートル幅約70メートルの東西水路で、同水路西側出入口と西方に接続する中央水路との分岐点にあたる、浜名港背割堤灯標(以下「背割堤灯標」という。)から334度(真方位、以下同じ。)2,030メートルの地点に中2杭が設置されていた。
 また、和田水路北縁には、中2杭から順次、070度190メートルに和田水路1番と称する標識杭(以下「和1杭」といい、和田水路の各杭の名称は番号以外、和の名称を使用する。)、和1杭から070度250メートルに和2杭、同杭から068度260メートルに和3杭及び同杭から040度245メートルに和4杭がそれぞれ設置されており、同水路南縁には、和1杭の東側付近から和3杭に至るまでの間に、水路に沿ってかき養殖棚(以下「養殖棚」という。)が設置されていた。
 各標識杭は、鉄筋コンクリート構造で、上部に反射、表示両シートが取り付けられている、水面上の高さ約2メートル太さ0.3メートルのものであった。
 19時12分少し前A受審人は、中2杭から180度50メートルの地点において、針路を和田水路に沿う070度に定め、主機の回転数を微速力前進の毎分1,500にかけ、7.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)とし、キャビン左舷後方で同乗者が見張りに当たり、手動操舵により進行した。
 A受審人は、和1杭を通過したとき、養殖棚に接近して東行することとして少し右転したのち、19時13分わずか過ぎ同杭から112.5度98メートルの地点で、針路を再び070度に定め、右舷側に養殖棚を3メートル離し、暗いので、点灯させたコード付き携帯用サーチライト(以下「サーチライト」という。)を右手に持ち、操舵室右舷側の窓から身を乗り出して標識杭や養殖棚を照射しながら続航した。
 19時13分半A受審人は、和1杭から098度135メートルの地点に達したとき、左舷船首10度150メートルのところに、低速力で東行中のすずき丸が存在したが、同船が航行中であることを示す法定灯火を表示することも、白灯の携帯電灯(以下「携帯電灯」という。)で飛天の船体やすずき丸の船内を照射するなど、注意喚起の措置をとらなかったので、同船の存在に気付くことができなかった。
 19時15分少し前A受審人は、和田水路を北上することとし、サーチライトで和3、和4両杭を確かめ、同ライトを消灯し、左舵を取り、左舷船首方至近となったすずき丸の前方に向けて左転進行した。
 こうして、A受審人は、19時15分和3杭から210度80メートルにあたる、背割堤灯標から352.5度2,020メートルの地点において、飛天は、船首を038度に向け、原速力のまま、その左舷船首部が、すずき丸の右舷側後部に後方から32度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力3の西風が吹き、潮候は下げ潮の初期にあたり、視界は良好であった。
 また、すずき丸は、船外機付きFRP製プレジャーボートで、B受審人[平成11年8月16日四級小型船舶操縦士免状(区域出力限定)を取得]が1人で乗り組み、同人の息子を同乗させ、魚釣りの目的で、同日18時30分浜名港港域内の観月園南側にある係留地を発し、中2杭の北西方の釣り場に向かった。
 ところで、B受審人は、すずき丸の航行中の最大速力が7ノットを超えるものであったが、同船に、航行中の長さ12メートル未満の動力船が表示するマスト灯1個及び船尾灯1個(又はこれらに代わる白色の全周灯1個)並びに舷灯一対(又はこれに代わる両色灯1個)の法定灯火を備えていなかった。
 B受審人は、18時32分日没となったが、携帯電灯を持っていれば大丈夫と思い、航行中であることを示す法定灯火を表示しないまま航行した。
 携帯電灯は、単一乾電池6個を電源とする松下電池工業株式会社製BF-777F(豆球7.2ボルト0.85アンペア使用、定格電圧時の 明るさ約15,000ルクス)と称する局所照明用の灯具で、ビーム状の光域から外れると照度が著しく低下し、発光面からの光をほとんど視認することができないものであった。
 B受審人は、船体中央部に息子を座らせ、自らは船尾右舷側のさ蓋の上に前方を向いて座り、左手で船外機を操作し、和田水路を西行して中2杭の北西方沖合に達したところ、風が強いので、中浜名橋北側水域の釣り場に向かうこととして反転した。
 19時10分少し過ぎB受審人は、中2杭から104度70メートルの地点において、針路を和田水路に沿う070度に定め、4.0ノットの速力とし、周囲が暗くなっていたので、携帯電灯を点灯して右手で持ち、時折前方を照射しながら進行した。
 B受審人は、19時13分半和2杭から138度45メートルの地点に達したとき、右舷船尾10度150メートルのところに、飛天のマスト灯と左舷灯を視認し得る状況であったが、右舷前方の養殖棚などを確認することに気を取られ、見張りを十分に行わなかったので、同船の存在と接近に気付かず、行きあしを停止したうえで、自船の存在及び状態を示すため、携帯電灯で飛天の船体や自船の船内を照射するなど、注意喚起の措置をとることなく続航した。
 こうして、B受審人は、19時15分少し前後方に飛天の機関音を聞き、左手で船外機を操作したまま、右後方を振り返ったところ、右舷船尾方至近に、飛天のマスト灯のみを初めて視認し、急ぎ右手で持った携帯電灯を右肩越しに右斜め後方に向けたり、前方に向けたりしたが効なく、すずき丸は、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、飛天は、船首部外板に擦過傷を生じたのみであったが、すずき丸は、右舷後部外板に破口を伴う損傷を生じ、B受審人が2箇月の入院加療を要する骨盤骨折を負った。

(主張に対する判断)
 本件は、日没後、港則法が適用される浜名港にあたる、浜名湖南部水域を東行中の飛天とすずき丸とが衝突したものである。
 すずき丸側補佐人は、操舵輪により操舵に当たる飛天が、静岡県条例に違反して、日没後浜名湖南部水域を航行したことが、本件発生の主因である旨を主張するので、この点について検討する。
 本件発生地点付近は、浜名港港域内にあたり、港則法の適用水域であるが、静岡県条例が優先して適用されることには異論はない。
 たしかに、飛天は、日没8分後に釣り場を発進し、日没18分後ごろ遠州灘から今切口を通航して浜名湖南部水域に入域し、同水域を航行して、日没後43分に衝突したものであった。
 しかしながら、操舵輪により操舵に当たる飛天が、日没後浜名湖南部水域を航行したことは、静岡県条例に違反してはいるが、その違反事実と衝突という結果の発生との間に、経験則上、通常若しくは一般的にみて、例えば、操舵輪の有無に左右される夜間航行禁止の適用船舶の多様性からして、相当の因果関係があるとは認めることができない。
 したがって、条例に違反した事実は、本件発生の原因とならない。
 よって、すずき丸側補佐人の主張は、これを採用することはできない。

(原因の考察)
 前示の事実から、港則法及び海上衝突予防法(以下「予防法」という。)の定型航法に適用すべき航法がないので、予防法第39条の船員の常務を適用して律することが相当である。
 しかしながら、次の3点を総合勘案すると、飛天がすずき丸を認識できる要素は皆無であったから、飛天側に本件発生の要因を求めることはできない。
(1)すずき丸は、無灯火であった。すなわち、すずき丸が予防法に規定する航行中の灯火を表示していたならば、飛天からその存在及び状態を認識することができた。
(2)すずき丸が見張りを十分に行い、飛天を認めていれば、自船の存在及び状態を示すため、早期に携帯電灯で飛天の船体や自船の船内を照射するなど、注意喚起の措置をとることができた。
(3)飛天は、法定灯火を表示し、注意深い船長の通常、かつ一般的な見張りを行っていた。

(原因)
 本件衝突は、夜間、静岡県浜名港にあたる、浜名湖南部水域において、すずき丸が、航行中の法定灯火を表示しなかったばかりか、見張り不十分で、注意喚起の措置をとらなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、静岡県浜名港にあたる、浜名湖南部水域を航行中、日没となった場合、航行中の法定灯火を表示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、携帯電灯を持っていれば大丈夫と思い、航行中の法定灯火を表示しなかった職務上の過失により、自船の存在及び状態を示すことができずに飛天との衝突を招き、同船の船首部外板に擦過傷を、すずき丸の右舷後部外板に破口を伴う損傷をそれぞれ生じさせ、自らが2箇月の入院加療を要する骨盤骨折を負うに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図1


参考図2
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