(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年4月23日12時53分
名古屋港第4区
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船龍衛 |
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総トン数 |
109トン |
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全長 |
37.91メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
330キロワット |
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船種船名 |
押船第三十八南海丸 |
被押バージ名龍 |
総トン数 |
19トン |
1,709トン |
全長 |
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55.00メートル |
登録長 |
14.70メートル |
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幅 |
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22.00メートル |
深さ |
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4.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
963キロワット |
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3 事実の経過
龍衛は、船尾船橋型鋼製油送船で、A受審人ほか2人が乗り組み、C重油24キロリットルを積載し、船首0.4メートル船尾2.2メートルの喫水をもって、平成14年4月23日12時30分名古屋港第2区D社名古屋油槽所BA桟橋を発し、名古屋港西航路(以下「西航路」という。)経由で四日市港に向かった。
ところで、西航路は、港則法施行規則第29条の2第3項の規定により、同航路屈曲部にある名古屋港西航路第9号灯浮標と同第10号灯浮標とを結ぶ線の両側それぞれ500メートル以内の部分を船舶が航行しているときは、その付近にある他の船舶は、航路外から航路に入り、航路から航路外に出、又は航路を横切って航行してはならない区域(以下「航路内指定水域」という。)が設けられていた。
A受審人は、発航時から単独で操船に当たり、12時44分名古屋港高潮防波堤西信号所(交通)(以下「西信号所」という。)から057度(真方位、以下同じ。)3,800メートルの地点で、針路を252度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵により進行した。
12時49分A受審人は、西信号所から048度2,350メートルの地点に至り、西航路に入って航路内指定水域に向かって続航したところ、同時51分西信号所から040度1,800メートルの地点に達し、まもなく同水域に入域しようとしたとき、右舷船首16度800メートルのところに、航路内指定水域を横切る態勢の第三十八南海丸(以下「南海丸」という。)被押バージ名龍(以下「名龍」といい、両船を総称するときには「南海丸押船列」という。)を視認できる状況であったが、無線電話による会社との業務連絡に気を奪われ、右舷方の見張りを十分に行わなかったので、南海丸押船列の存在に気付かなかった。
A受審人は、その後南海丸押船列が、航路内指定水域において衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、警告信号を行うことも、更に間近に接近したとき、機関を後進にかけて行きあしを止めるなど、衝突を避けるための措置をとることもしないで進行した。
A受審人は、12時53分わずか前ふと前方を見たとき、船首至近に迫った南海丸押船列を初めて視認し、直ちに機関を後進とし、右舵を取ったが効なく、12時53分西信号所から025度1,300メートルの地点において、龍衛は、原針路原速力のまま、その船首部が名龍の左舷後部に前方から58度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力2の南風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
また、南海丸は、2機2軸の船首船橋型鋼製押船で、B受審人(昭和62年1月一級小型船舶操縦士免状を取得)ほか1人が乗り組み、トラックなど7台を積載して、船首1.20メートル船尾1.75メートルの喫水となった、C指定海難関係人ほか作業員6人が乗り組みの鋼製バージ名龍の船尾凹部に船首部を組み合わせ、ワイヤロープ2本により両船を結合し、全長約71メートルの押船列を構成して、船首1.00メートル船尾2.65メートルの喫水をもって、同日12時36分名古屋港第4区弥富ふ頭を発し、同区ポートアイランド北西側の物揚場に向かった。
12時47分B受審人は、西信号所から358度1,700メートルの地点で、針路を130度に定めて、機関を半速力前進にかけ、4.2ノットの速力で手動操舵により進行した。
ところで、南海丸の船橋からの見通しは、名龍の船首部クレーン、左舷船尾部にある船橋及びその後部に装備されたオイルフェンスにより、正船首から左舷船首約35度にかけて死角を生じていた。
12時51分B受審人は、西信号所から015度1,400メートルの地点に達したとき、左舷船首42度800メートルのところに、西航路を西行し、航路内指定水域に入域直前の龍衛を視認できる状況であったが、定針したころ、前方を一瞥し、西航路を航行中の他船が見当たらなかったことから、航路内指定水域に向かって航路を航行する船舶はいないものと思い、レーダーを活用するなど、死角を補う見張りを十分に行わなかったので、龍衛の存在に気付かなかった。
こうして、B受審人は、その後龍衛が航路内指定水域を航行して接近中であることに気付かず、同水域の横切りを中止しないまま続航した。
一方、C指定海難関係人は、B受審人から名龍の船首部で見張りに当たるよう指示がなかったので、作業員と荷揚げ作業の打合せを行い、12時52分半ふと前方を見たところ、左舷船首50度170メートルばかりに龍衛を初めて視認し、少しの間見守ったのち、B受審人に、航路内指定水域を西行している同船が間近に存在する旨をトランシーバーで報告した。
B受審人は、C指定海難関係人から他船接近の報告を受け、死角に入った龍衛を視認することができないまま、機関を後進にかけたが効なく、南海丸押船列は、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、龍衛は船首部に破口等を、名龍は左舷後部に凹損等をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理され、また、龍衛一等機関士は、衝突の衝撃で転倒し、10日間の通院加療を要する右小指側副靱帯損傷等を負った。
(航法の適用)
本件は、港則法施行規則第8条の2に規定する国土交通省令の定める船舶交通が著しく混雑する特定港にあたる名古屋港第4区において、航路内指定水域内を航行している龍衛と同水域を横切って航行する南海丸押船列が衝突したものであるが、以下、適用される航法について、港内で発生しているのでまず港則法から検討する。
1 雑種船及び小型船の航法
龍衛及び南海丸押船列は、いずれも港則法第3条の雑種船ではない。
龍衛は、総トン数109トンで、港則法第18条第2項の総トン数500トン以下の小型船である。
南海丸押船列は、総トン数1,709トンの名龍を総トン数19トンの南海丸が押航しているが、次のことから船体合成トン数の大きさのみをもって、小型船及び雑種船以外の、総トン数500トン以上の船舶とは認められない。
(1)南海丸船長の免許が小型船舶操縦士であること
(2)本件発生時、同押船列の最短停止距離が約100メートル、最短停止時間が約1分間であることから操縦性能が劣るとは認められないこと
(3)押船列の全長が約71メートルであること
(4)小型船及び雑種船以外の船舶の標識である国際信号旗数字旗1を表示していないこと
(5)南海丸の船舶検査証書に一体型プッシャーバージと明記されていないこと
従って、龍衛及び南海丸押船列は、いずれも小型船に相当するので、本件衝突は、港則法第18条第1項及び同条第2項の規定は適用できない。
2 名古屋港の特定航法
本件は、名古屋港航路内指定水域で発生しているので、港則法施行規則第29条の2第3項に規定する特定航法を適用し、南海丸押船列が横切りを中止しなかった点を摘示して律するのが相当である。
3 船員の常務等
前示の特定航法を適用すれば、龍衛に対する航法上の規定は存在しない。
港則法を適用するので、海上交通安全法の適用はなく、海上衝突予防法の定型航法の規定も適用はないが、龍衛に対しては、海上衝突予防法第40条によって、他の法令において定められた航法及び信号にも適用があるので、同法第34条第5項の警告信号を行うほか、同法第39条の船員の常務により、南海丸押船列との衝突を避けるための措置をとらなくてはならなかったものである。
(原因)
本件衝突は、名古屋港第4区において、南海丸押船列が、見張り不十分で、名古屋港の航路内指定水域の横切りを中止しなかったことによって発生したが、同水域へ入域する龍衛が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人等の所為)
B受審人は、名古屋港第4区において、航路内指定水域を横切って航行する場合、左舷船首方に死角があったから、西航路を西行し、同水域に入域直前の龍衛を見落とさないよう、レーダーを活用するなど、死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、定針したころ、前方を一瞥し、西航路を航行中の他船が見当たらなかったことから、同水域に向かって航路を航行する船舶はいないものと思い、死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、その後龍衛が航路内指定水域を航行して接近中であることに気付かず、同水域の横切りを中止しないまま進行して衝突を招き、龍衛の船首に破口等を、名龍の左舷後部に凹損等をそれぞれ生じさせ、龍衛一等機関士に、右小指側副靭帯損傷等を負わせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、名古屋港第4区において、航路内指定水域を西行する場合、同水域を横切る態勢で接近する南海丸押船列を見落とさないよう、右舷方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、無線電話による会社との業務連絡に気を奪われ、右舷方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、航路内指定水域を横切り、衝突のおそれがある態勢で接近する南海丸押船列に気付かず、間近に接近したとき、機関を後進にかけて行きあしを止めるなど、衝突を避けるための措置をとらないで進行して衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。