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平成14年横審第42号
件名

貨物船甲希丸漁船第五十八事代丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年7月16日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(黒田 均、吉川 進、稲木秀邦)

理事官
織戸孝治

受審人
A 職名:甲希丸次席二等航海士 海技免許:三級海技士(航海)
B 職名:第五十八事代丸船長 海技免許:四級海技士(航海)

損害
甲希丸・・・右舷船首部外板に破口を伴う損傷
事代丸・・・左舷中央部ブルワークなどに損傷

原因
甲希丸・・・動静監視不十分、追い越しの航法(避航動作)不遵守(主因)
事代丸・・・動静監視不十分、警告信号不履行、追い越しの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第五十八事代丸を追い越す甲希丸が、動静監視不十分で、その進路を避けなかったことによって発生したが、第五十八事代丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年3月3日04時28分
 千葉県洲崎西方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船甲希丸 漁船第五十八事代丸
総トン数 3,748トン 439トン
全長 108.95メートル 58.01メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 4,471キロワット 735キロワット

3 事実の経過
 甲希丸は、船首船橋型の混載自動車専用船で、A受審人ほか9人が乗り組み、車両など535台を積載し、船首4.70メートル船尾5.80メートルの喫水をもって、平成13年3月2日18時10分愛知県衣浦港を発し、千葉県千葉港に向かった。
 A受審人は、3直4時間交替制の船橋当直のうち、4時から8時までを受け持つこととしており、翌3日04時00分伊豆大島灯台から035度(真方位、以下同じ。)9.5海里の地点において、二等航海士と同当直を交替し、針路を055度に定め、機関を全速力前進にかけ、14.7ノットの速力(対地速力、以下同じ。)とし、所定の灯火を表示して自動操舵により進行した。
 定針したときA受審人は、右舷船首27度4.0海里のところに、同航中の第五十八事代丸(以下「事代丸」という。)が表示した船尾灯を視認したが、レーダーにより進路が交差していて自船より速力が遅いことを知り、東京湾に向かっているので危険な関係になることはないものと思い、その後の動静監視を十分に行わないで続航した。
 04時18分ごろA受審人は、海図室に入り海図の入れ替え作業を開始したところ、同時20分半洲埼灯台から271度9.4海里の地点に達したとき、事代丸が同じ方位のまま1.0海里に近づき、その後、自船が事代丸を追い越し、衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然動静監視を行わなかったので、このことに気付かなかった。
 A受審人は、事代丸を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けることなく進行し、04時28分洲埼灯台から278度8.0海里の地点において、甲希丸は、原針路原速力のまま、その右舷船首部が、事代丸の左舷側中央部に、後方から29度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力5の北東風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
 また、事代丸は、船体中央部に船橋を備えた、まぐろはえ縄漁に従事する鋼製漁船で、B受審人ほか8人が乗り組み、まぐろ352トンを積載し、船首2.8メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、同年2月18日10時00分(現地時間)アメリカ合衆国ホノルル港を発し、神奈川県三崎港に向かった。
 B受審人は、越えて3月2日18時ごろ八丈島付近から操船の指揮に当たり、伊豆大島の東方を北上し、翌3日02時54分伊豆大島灯台から087度5.5海里の地点において、針路を026度に定め、時間調整のため機関を回転数毎分220にかけ、8.2ノットの速力とし、一等航海士を補佐に就け、所定の灯火を表示して自動操舵により進行した。
 04時00分B受審人は、洲埼灯台から257度9.9海里の地点に達したとき、左舷正横後34度4.0海里のところに、同航中の甲希丸のマスト灯と右舷灯を初めて視認したが、同船が自船を無難に追い越していくものと思い、その後の動静監視を十分に行わないで続航した。
 04時20分半B受審人は、洲埼灯台から272度8.3海里の地点に達したとき、甲希丸が同じ方位のまま1.0海里に近づき、その後、同船が自船を追い越し、衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然動静監視を行わなかったので、このことに気付かなかった。
 B受審人は、警告信号を行わず、甲希丸が間近に接近しても右転するなど衝突を避けるための協力動作をとらずに進行し、04時28分わずか前至近に迫った甲希丸を認めて衝突の危険を感じ、手動操舵に切り替え右舵一杯としたが効なく、事代丸は、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、甲希丸は、右舷船首部外板に破口を伴う損傷を、事代丸は、左舷中央部ブルワークなどに損傷をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、千葉県洲崎西方沖合において、両船がともに東行中、事代丸を追い越す甲希丸が、動静監視不十分で、その進路を避けなかったことによって発生したが、事代丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、千葉県洲崎西方沖合を東行中、右舷船首方に同航中の事代丸を視認した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、その後の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、東京湾に向かっているので危険な関係になることはないものと思い、その後の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船を追い越し、衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けることなく進行して同船との衝突を招き、甲希丸の右舷船首部外板に破口を伴う損傷を、事代丸の左舷中央部ブルワークなどに損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、夜間、千葉県洲崎西方沖合を東行中、左舷船尾方に同航中の甲希丸を視認した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、その後の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、相手船が自船を無難に追い越していくものと思い、その後の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、甲希丸が自船を追い越し、衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、警告信号を行うことも、右転するなど衝突を避けるための協力動作をとることもしないまま進行して甲希丸との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 


参考図
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