(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年7月7日06時26分
名古屋港
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船ふがく丸 |
貨物船宇佐丸 |
総トン数 |
11,573トン |
747トン |
全長 |
165.00メートル |
86.552メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
12,841キロワット |
1,765キロワット |
3 事実の経過
ふがく丸は、船橋前面から船首端まで約36メートルの船首船橋型混載自動車運搬船で、A受審人ほか10人が乗り組み、トレーラーシャーシ93本、車輌82台、コンテナ8個及び雑貨5トンを積載し、船首6.15メートル船尾6.95メートルの喫水をもって、平成14年7月5日18時10分北海道苫小牧港を発し、名古屋港に向かった。
翌々7日06時04分A受審人は、名古屋港高潮防波堤中央堤(以下、港湾施設及び航路標識の名称については「名古屋港」を省略する。)と同知多堤との間を通過し、自ら操船の指揮を執り、三等航海士を補佐に、甲板手を操舵に当て、船橋上部マストに、第2区潮見ふ頭BQ2桟橋に着桟する船舶の進路を表示する信号旗、小型船及び雑種船以外の船舶としての標識である数字旗1の各国際信号旗を掲げ、東航路を経て北航路を北上した。
A受審人は、06時18分半名港東大橋橋梁灯(C1灯)(以下「C1灯」という。)から227.5度(真方位、以下同じ。)3,100メートルの地点において、針路を潮見ふ頭南岸と第3区東海元浜ふ頭北岸西部との間に向かう045度に定め、機関を微速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で進行した。
ところで、潮見ふ頭南岸と東海元浜ふ頭北岸西部との間の水域は、幅約850メートルで、潮見ふ頭南岸東部から南方沖合約350メートルの地点には、左舷標識の潮見ふ頭南方灯浮標(以下「南方灯浮標」という。)が、その西方約450メートルの地点には、私設の灯浮標(以下「西方灯浮標」という。)が設置され、両灯浮標を結ぶ線と潮見ふ頭南岸との間は錨泊・停留制限区域となっており、また、東海元浜ふ頭北岸西部北方沖合約150メートルの地点には、水深6メートルの浅瀬もあって10メートル等深線の北側外縁に、私設の灯浮標(以下「北方灯浮標」という。)が設置されていた。
そのため、潮見ふ頭南岸と東海元浜ふ頭北岸西部との間の可航幅は、約350メートルと狭められた水路(以下「航路筋」という。)となっていた。
A受審人は、06時20分半C1灯から228度2,500メートルの地点で、転針して航路筋を航行することとしたが、前方の目的地付近からの出航船はなく、これまで航路筋の右側にある新日本製鐵岸壁からの出航船は総トン数500トン未満の船舶しか見かけず、これら出航船は自船を避航してくれたので、小型の出航船が避航するものと思い、その右側端に寄って航行することなく、針路を航路筋の中央部に向かう057度に転じ、9.6ノットの対地速力で北上した。
06時21分半A受審人は、C1灯から227度2,220メートルの地点に達したとき、右舷船首20.5度1,910メートルのところに、東海元浜ふ頭北側の油タンクの背後から現れた出航中の宇佐丸を初めて視認した。
A受審人は、宇佐丸の船橋上部レーダーマスト右舷側桁に進路を表示する信号旗及び数字旗1が表示されていたが、一見して数字旗1の表示に気付かず、総トン数500トン以下の小型船であると速断し、数字旗1の表示状況、小型船及び雑種船以外の船舶であるか否か、及び衝突のおそれの有無などが判断できるよう、動静監視を十分に行わないまま、機関を極微速力に減じ、9.4ノットの対地速力で続航した。
こうして、A受審人は、その後、宇佐丸に衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、機関を停止するなど、衝突を避けるための措置をとることなく進行し、06時23分同船を右舷船首22度1,330メートルのところに視認する状況となったとき、同船の避航を促すため汽笛により短音数回の吹鳴を行った。
A受審人は、06時24分半宇佐丸が右舷船首21.5度700メートルに接近し、ようやく、衝突の危険を感じて機関を停止、ついで同時25分機関を全速力後進にかけて短音3回を吹鳴し、同時25分少し過ぎ同船が右舷船首17度370メートルのところに迫ったとき、左舵一杯を取ってバウスラスタを左一杯としたが、及ばず、06時26分C1灯から216度1,120メートルの地点において、ふがく丸は、船首を059度に向け、約4.3ノットの対地速力で、その右舷船首部が、宇佐丸の右舷船首部に前方から11度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力2の南東風が吹き、視界は良好であった。
また、宇佐丸は、船橋前面から船首端まで約70メートルの船尾船橋型貨物船で、B受審人ほか4人が乗り組み、鋼材2,078.61トンを積載し、船首4.00メートル船尾5.00メートルの喫水をもって、同日06時17分東海元浜ふ頭北岸のF4岸壁を発し、千葉県木更津港に向かった。
これより先、B受審人は、06時10分積み荷役が終了したので、乗組員をハッチカバーの閉鎖作業に当たらせ、自らは船橋上部に赴き、レーダーマスト右舷側桁の外側揚旗線に進路を表示する第1代表旗の下に文字旗Eを、同桁の内側揚旗線に小型船及び雑種船以外の船舶としての標識である数字旗1の各国際信号旗をそれぞれ掲揚した。
発航後、B受審人は、出航作業を終えて昇橋した一等航海士を補佐に、機関長を主機遠隔操縦装置の操作に当て、機関を微速力前進にかけ、徐々に速力を上げ、東海元浜ふ頭北岸に沿って手動操舵により西行したのち、06時19分半C1灯から160度1,280メートルの地点において、対地速力が5.0ノットになったとき、航路筋を航行することとしたが、入航船と左舷対左舷で航過できるものと思い、同筋の右側端に寄って航行することなく、針路を南方灯浮標を右舷船首に見る289度に定めて進行した。
06時21分半B受審人は、C1灯から172度1,130メートルの地点に達したとき、左舷船首31.5度1,910メートルのところに、前示の油タンクの背後から現れた入航中のふがく丸を初めて視認したが、同船の速力が遅いように感じたので、その前方を航過できると速断し、衝突のおそれの有無が判断できるよう、動静監視を十分に行わなかった。
B受審人は、06時23分ふがく丸を左舷船首30度1,330メートルのところに視認する状況となったとき、機関を半速力前進に上げ、その後、ふがく丸に衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、右転するなど、衝突を避けるための措置をとることなく続航した。
06時24分半B受審人は、ふがく丸が左舷船首30.5度700メートルに接近し、対地速力が8.0ノットとなった06時25分少し過ぎC1灯から205度1,020メートルの地点で、同船が左舷船首35度370メートルのところに迫ったとき、ようやく、衝突の危険を感じ、機関を全速力後進にかけ、ついで同時25分半左舵一杯を取ってバウスラスタを左一杯としたが、及ばず、宇佐丸は、船首を250度に向け、約4.5ノットの対地速力で、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、ふがく丸は右舷船首部に凹損を伴う擦過傷を、宇佐丸は右舷船首部ブルーワークに曲損、同部甲板に破損及同部マストに倒壊をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。
(航法の適用)
本件は、港則法が適用され、国土交通省令(以下「命令」という。)の定める船舶交通が著しく混雑する特定港にあたる名古屋港において、入航するふがく丸と出航する宇佐丸とが衝突したものであるが、以下、適用される航法について検討する。
1 港則法
(1)第17条関係
両船は、互いに衝突の4分半前1,910メートルで相手船を初めて視認し、その後も互いに視認することができる状況で接近したもので、時間的、距離的及び関係船舶の大きさ等からして、防波堤、ふ頭その他の工作物の突端又は停泊船等による、両船間の見通しを妨げる条件を満足する状況ではなかったと認められる。
従って、出会いがしらの衝突の危険を防止するために規定した本条の適用はない。
(2)第18条関係
本条第2項は、命令の定めるトン数以下の小型船は、命令の定める船舶交通が著しく混雑する特定港内においては、雑種船及び小型船以外の船舶(以下「大型船」という。)の進路を避けなければならない旨、同法施行規則第8条の2は、名古屋港をその特定港とし、同港においては命令の定めるトン数を500トンとする旨それぞれ定めている。
また、本条第3項は、大型船は前項の特定港を航行するとき、命令の定める標識をマストに見やすいように掲げなければならない旨、同法施行規則第8条の3は、その標識を国際信号旗数字旗1とする旨それぞれ定めており、このことは、大型船であるかどうかの識別を容易にするためである。
ふがく丸及び宇佐丸は共に500トン以上の船舶であり、本件時、それぞれの船舶が数字旗1を掲げていた。
従って、雑種船及び小型船と大型船間の避航義務について規定した本条の適用はない。
以上の外、特別法である港則法には、本件に適用する航法がないので、本件は、一般法である海上衝突予防法(以下「予防法」という。)で律することになる。
2 予防法
予防法の航法には、航行に関する規定と、避航に関する規定があり、まず、航行に関する規定が適用され、その後、避航に関する規定が適用されることとなる。
(1)航行に関する規定
第9条関係
次の4点を総合勘案すると、同種海難の再発を防止するうえでも、本件においては、同条の狭い水道等の規定を適用して律するのが相当である。
ア 本件当時、両船が航行し、衝突した水域の可航幅は約350メートルである点
イ 両船の全長がふがく丸165.00メートル、宇佐丸86.552メートルである点
ウ 南方灯浮標と西方灯浮標を結ぶ線と潮見ふ頭南岸との間は錨泊・停留制限区域となっているが、海難を避けようとする場合、その他やむを得ない事由のある場合はこの限りでない点
エ A受審人に対する質問調書中で「仮に、宇佐丸を大型船と認識すれば、機関を停止して左舷対左舷で航過した。」旨及び里受審人の当廷で「仮に、衝突地点付近の水域で入航船と出会ったとき左舷対左舷で航過する予定の針路に定めた。」旨それぞれ述べている点
(2)避航に関する規定
ア 第15条関係
事実を検討すると、両船が互いに相手船を初めて視認した06時21分半から宇佐丸が機関を全速力後進にかけた同時25分少し過ぎまでの相対位置関係は次表のとおりである。
時刻 |
ふがく丸から宇佐丸の方位 |
両船間の距離 |
宇佐丸からふがく丸の方位 |
06時21分半 |
右舷船首20.5度 |
1,910メートル |
左舷船首31.5度 |
同時23分 |
右舷船首22度 |
1,330メートル |
左舷船首30度 |
同時24分半 |
右舷船首21.5度 |
700メートル |
左舷船首30.5度 |
同時25分少し過ぎ |
右舷船首17度 |
370メートル |
左舷船首35度 |
(ア) この相対位置関係から、両船とも方位が、わずかに右方へ変化したのち、左方へ変化しており、このことは、両船が互いに相手船を初めて視認したのち、ふがく丸は、機関を微速力の8.5ノットから極微速力の6.7ノットに減速し、また、宇佐丸は、微速力の5.0ノットから半速力の8.0ノットに増速し、両船は共に速力が一定でない。
(イ) 衝突に至るまでに両船が航行した水域は、狭く、しかも、周囲に数個の灯浮標、浅瀬及びふ頭が存在し、避航、協力各動作をとるうえで、十分な余地があるとはいえない
以上のことから、互いに進路が交差し、一定の針路で進行して衝突しているが、予防法第15条の横切り船の航法の適用はない。
イ 第38条及び同39条関係
更に、予防法上の適用すべき定型航法もないので、両船が衝突を避けるための措置をとらなかった点を挙げ、船員の常務を適用して律するのが相当である。
(原因)
本件衝突は、名古屋港の可航幅の狭い航路筋において、潮見ふ頭BQ2桟橋に入航するふがく丸が、航路筋の右側端に寄って航行しなかったばかりか、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、東海元浜ふ頭F4岸壁を出航した宇佐丸が、航路筋の右側端に寄って航行しなかったばかりか、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、名古屋港において、潮見ふ頭BQ2桟橋に入航する目的で、可航幅の狭い航路筋を航行する場合、その右側端に寄って航行すべき注意義務があった。しかるに、同人は、前方の目的地付近からの出航船はなく、これまで航路筋の右側にある新日本製鐵岸壁からの出航船は総トン数500トン未満の船舶しか見かけず、これら出航船は自船を避航してくれたので、小型の出航船が避航するものと思い、航路筋の右側端に寄って航行しなかった職務上の過失により、宇佐丸との衝突を招き、自船の右舷船首部に凹損を伴う擦過傷を、宇佐丸の右舷船首部ブルーワークに曲損、同部甲板に破損及び同部マストに倒壊をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、名古屋港において、東海元浜ふ頭F4岸壁を出航して可航幅の狭い航路筋を航行する場合、その右側端に寄って航行すべき注意義務があった。しかるに、同人は、入航船と左舷対左舷で航過できるものと思い、航路筋の右側端に寄って航行しなかった職務上の過失により、ふがく丸との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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