(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年10月10日10時20分
青森県八戸港東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第十八隆輝丸 |
プレジャーボートセーフティ号 |
総トン数 |
19トン |
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全長 |
24.2メートル |
7.58メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
478キロワット |
77キロワット |
3 事実の経過
第十八隆輝丸(以下「隆輝丸」という。)は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、平成11年2月17日交付の一級小型船舶操縦士免状を受有するA受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首1.20メートル船尾2.80メートルの喫水をもって、同14年10月10日03時00分青森県八戸港内にある八戸漁港館鼻の船溜りを発し、同港の東方18海里沖合の漁場に向かった。
A受審人は、05時ころ目的地に至って操業を開始したが、漁模様が悪く、加えて天候が崩れる気配があったので、いか約35キログラムを漁獲したところで、帰航することとし、08時50分鮫角灯台から091度(真方位、以下同じ。)15海里ばかりの地点を発進し、八戸漁港に向け、僚船らとともに帰途に就いた。
A受審人は、乗組員を船内で休ませ、自らは操舵室の右舷寄りに立った姿勢で操船にあたり、10時10分鮫角灯台から060度1.9海里の地点で、針路を八戸港の第2中央防波堤北端付近に向首する262度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
10時18分A受審人は、鮫角灯台から036度1,880メートルの地点に至ったとき、正船首620メートルに、漂泊中のセーフティ号を視認することができる状況となり、その後同船に向けて衝突のおそれがある態勢で接近したが、そのころ僚船との無線交信に気を奪われていて見張りが不十分となり、このことに気付かず、セーフティ号を避けることなく続航し、同時20分わずか前同船に気付いて急ぎ左舵一杯をとったが及ばず、10時20分鮫角灯台から019度1,500メートルの地点において、隆輝丸の右舷船首が、ほぼ原速力のまま、252度に向いたとき、セーフティ号の船尾左舷端に後方から63度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力4の北風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
A受審人は、衝突後セーフティ号から離れながら後方を振り向いて同船を見たところ、衝突時の衝撃が軽く損傷しているようには見えなかったのでそのまま帰航し、その後八戸海上保安部から指摘されて同船に損傷を与えたことを知った。
また、セーフティ号は、FRP製プレジャーボートで、昭和52年6月10日交付の四級小型船舶操縦士免状を受有するB受審人が乗り組み、友人2人を乗せ、魚釣りの目的で、船首0.2メートル船尾0.7メートルの喫水をもって、同日05時50分八戸港に流入する新井田川右岸の定係地を発し、同港北部の釣り場に至っていなだの引き釣りを行った。
B受審人は、しばらく引き釣りを試みたが釣果がなかったので、いなだを諦め、釣り場を港外に変更してひらめ釣りを行うこととし、09時00分前示衝突地点付近に移動し、機関を中立としたのち、船首からパラシュートアンカーを投入し、約25メートル延出した索をクリートに結び、全員が腰掛けた姿勢で舷側から竿を出して釣りを開始した。
B受審人は、折からの北西風により船首が315度に向いて風に立ち、ほとんど停留している状態で、船尾左舷端付近に座って釣りをしていたところ、10時18分右舷船尾53度620メートルに隆輝丸を初認し、その後同船が自船に向首して接近することを知ったが、それまで自船の傍らを航過して行った他の漁船は避けてくれたので、隆輝丸も避けてくれるものと思い、機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとることなく釣りを続けた。
10時20分少し前B受審人は、隆輝丸が避航する気配のないまま接近するので、立ち上って大声で手を振って合図したが効なく、危険を感じ、急いで船首方に移動したとき前示のとおり衝突した。
衝突の結果、隆輝丸は、右舷船首部外板に擦過傷を、セーフティ号は、船尾外板に亀裂と船内外機外側駆動部のカバーの割損をそれぞれ生じ、同機の損傷で操舵不能となったセーフティ号は、通報を受けて来援した巡視艇により八戸港に曳航された。
(原因)
本件衝突は、八戸港東方沖合において、隆輝丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中のセーフティ号を避けなかったことによって発生したが、セーフティ号が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、操業を終え、単独で操船にあたって八戸港東方沖合を同港に向け帰航する場合、前路で漂泊中のセーフティ号を見落とさないよう、前路の見張りを厳重に行う注意義務があった。しかるに同人は、ともに帰航する僚船との無線交信に気を奪われ、前路の見張りを厳重に行わなかった職務上の過失により、セーフティ号に気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、隆輝丸の右舷船首部外板に擦過傷を、セーフティ号の船尾外板に亀裂と船内外機外側駆動部のカバーの割損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、八戸港東方沖合において、パラシュートアンカーを使用して漂泊しながら魚釣り中、隆輝丸が自船に向首して接近するのを認めた場合、機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに同人は、それまで自船の傍らを航過して行った他の漁船は避けてくれたので、隆輝丸も避けてくれるものと思い、衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、そのまま釣りを続けて衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。