(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年5月27日03時00分
北海道落石岬南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第七海鷹丸 |
漁船第五十八栄福丸 |
総トン数 |
9.7トン |
9.7トン |
全長 |
19.80メートル |
18.92メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
354キロワット |
496キロワット |
3 事実の経過
第七海鷹丸(以下「海鷹丸」という。)は、さけ・ます流し網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人(昭和52年6月一級小型船舶操縦士免状取得)ほか6人が乗り組み、操業の目的で、船首0.6メートル船尾2.4メートルの喫水をもって、平成14年5月18日12時30分北海道歯舞漁港を発し、翌19日01時00分同港南方120海里ばかりの漁場に至り、操業を開始した。
ところで、さけ・ます流し網漁は、約2時間かけて投網し、7ないし10時間網を流したのち、揚網する一連の作業を繰り返すものであった。
A受審人は、漁場を移動しながら操業を続けたのち、27日02時ごろ投網を終え、次の揚網まで投網開始地点付近で漂泊待機することとし、02時20分落石岬灯台から139.5度(真方位、以下同じ。)40.7海里の地点付近で、機関を中立運転とし、航行中の動力船が掲げる灯火を表示せず、停泊灯及び前後部に作業灯を点灯して漂泊を開始し、網の流れ具合などを観察したのち、02時30分しばらく仮眠をとることにしたが、航行中の船舶が漂泊している自船を避けてくれるものと思い、乗組員を見張りに就かせて船橋当直を維持することなく、操舵室の床に横になって仮眠した。
02時50分A受審人は、自船が065度を向首しているとき、右舷船尾87度1.5海里のところに、自船に向首して衝突のおそれのある態勢で接近する第五十八栄福丸(以下「栄福丸」という。)の白、紅、緑3灯を認め得る状況となったが、依然として船橋当直を維持しなかったので、このことに気付かずに漂泊を続けた。
こうして海鷹丸は、自船に向首接近する栄福丸に対し、警告信号を行うことも、更に接近して機関を前進にかけるなどの衝突を避けるための措置をとることもできないまま漂泊中、03時00分落石岬灯台から139.5度40.7海里の地点において、その右舷中央部に栄福丸の船首部が後方から87度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力1の南西風が吹き、視界は良好であった。
また、栄福丸は、さけ・ます流し網漁業に従事する軽合金製漁船で、B受審人(昭和61年6月一級小型船舶操縦士免状取得)ほか6人が乗り組み、操業の目的で、船首0.6メートル船尾2.2メートルの喫水をもって、同月18日07時30分歯舞漁港を発し、23時00分同港南南東方140海里ばかりの漁場に至って操業を開始した。
B受審人は、漁場を移動しながら操業を続けたのち、26日23時00分落石岬灯台から150.5度57.2海里の地点において、さけなど約13トンを漁獲して操業を終え、航行中の動力船が掲げる灯火を表示し、単独で船橋当直に当たって帰途に就き、僚船の流し網を避けながら北上した。
ところで、B受審人は、出漁中、操業の指揮だけでなく、漁場移動中の船橋当直も単独で行っており、毎日、投網終了から揚網開始までの間は漂泊して操舵室内で仮眠をとっていたが、その間も約1時間毎に起きて船位の確認などを行ったので、仮眠は断続的なものとなり、連日の操業により疲労が蓄積した状況となっていた。
27日02時20分B受審人は、落石岬灯台から142度46.4海里の地点に達したとき、針路を338度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、9.0ノットの対地速力で進行した。
定針したときB受審人は、正船首6海里ばかりに海鷹丸のレーダー映像を認め、同映像を見ながら自動操舵の針路設定ダイヤルを回して1度ばかり右転したつもりでいたものの、転じた針路を確認せず、同一針路のまま続航した。
間もなくB受審人は、船首が振れたとき船首わずか左方に海鷹丸の灯火を初認し、漂泊している同船を左方に替わしたものと思い込んで進行中、蓄積した疲労により眠気を催したが、帰途についてしばらく漁獲物の裁割作業を行わせた乗組員を気遣い、休息している乗組員を輪番で見張りに就かせて2人当直とするなど、居眠り運航の防止措置をとらずに、操舵室のいすに腰掛けて見張りに当たっているうち、いつしか居眠りに陥った。
02時50分B受審人は、落石岬灯台から140度42.1海里の地点に至り、正船首1.5海里のところに、漂泊している海鷹丸の掲げる白1灯のほか作業灯を認め得る状況となり、同船に衝突のおそれのある態勢で向首接近したが、居眠りに陥って海鷹丸を避けずに続航中、栄福丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、海鷹丸は、右舷中央部外板を圧壊して転覆し、花咲港に引き付けられたが廃船となり、栄福丸は、球状船首部及び船首ブルワークに凹損を生じ、のち修理された。また、海鷹丸の乗組員は栄福丸に全員救助された。
(原因)
本件衝突は、夜間、北海道落石岬南東方沖合において、栄福丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路で漂泊中の海鷹丸を避けなかったことによって発生したが、海鷹丸が、船橋当直の維持が不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、夜間、北海道落石岬南東方沖合において帰航中、眠気を催した場合、連日の操業により疲労が蓄積した状況であったから、居眠り運航とならないよう、休息している乗組員を輪番で見張りに就かせて2人当直とするなど、居眠り運航防止措置をとるべき注意義務があった。ところが、同受審人は、帰途についてしばらく漁獲物の裁割作業を行わせた乗組員を気遣い、居眠り運航防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、前路で漂泊中の海鷹丸を避けずに進行して衝突を招き、同船の右舷中央部外板を圧壊し転覆させて廃船に至らせ、栄福丸の球状船首部及び船首ブルワークに凹損を生じさせた。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
A受審人は、夜間、北海道落石岬南東方沖合において漂泊中、仮眠する場合、乗組員を見張りに就かせて船橋当直を維持すべき注意義務があった。ところが、同受審人は、航行中の船舶が漂泊している自船を避けてくれるものと思い、船橋当直を維持しなかった職務上の過失により、接近する栄福丸に気付かず、衝突を避けるための措置をとらないまま同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。