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平成15年函審第10号
件名

プレジャーボートイーグルプレジャーボートヴィーナス衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年7月4日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(黒岩 貢、古川隆一、野村昌志)

理事官
千手末年

受審人
A 職名:イーグル船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:ヴィーナス所有者 操縦免許:小型船舶操縦士
指定海難関係人
C 職名:ヴィーナス操縦者 

損害
イーグル・・・・左舷船首外板に擦過傷
ヴィーナス・・・右舷側外板を破損
操縦者が下顎骨骨折、右腕神経叢損傷等

原因
イーグル・・・・動静監視不十分、追い越しの航法(船間距離)不遵守(主因)
ヴィーナス・・・無資格者運航、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、ヴィーナスを追い抜くイーグルが、動静監視不十分で、十分な船間距離をとらなかったことによって発生したが、ヴィーナスが、有資格者が乗り組まないで運航されたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 ヴィーナスの所有者が、有資格者を乗り組ませる措置をとらなかったことは本件発生の原因となる。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年8月18日10時30分
 北海道屈斜路湖

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートイーグル プレジャーボートヴィーナス
全長 5.64メートル 2.07メートル
機関の種類 電気点火機関 電気点火機関
出力 110キロワット 36キロワット

3 事実の経過
(1)A受審人
 A受審人は、昭和54年1月四級小型船舶操縦士免状を取得して以来、プレジャーボートに乗り始めた。同人は、友人2人と共同で北海道東部の屈斜路湖畔に別荘を借りており、休日になると、ボート仲間を募り、同別荘に保管していた自分や仲間の所有するプレジャーボート数台のうち何台かを同湖に運び出し、同湖中央部に位置する中島に渡ってプレジャーボートによる航走を楽しむ会(以下「レジャー」という。)を催していた。平成14年8月18日のレジャーでは、自分の所有船が機関不調であったため、友人の所有するイーグル、B受審人の所有するヴィーナス及びもう1隻の水上オートバイ(以下「A号」という。)をトレーラーにより屈斜路湖畔の係留地点まで搬送していた。
 また、レジャーにおいてボート仲間が何台かのプレジャーボートに分乗して中島に向かう際には、A受審人の乗るプレジャーボートが先行して中島に到達し、他のプレジャーボートの係留場所を決定することになっていた。
(2)B受審人
 B受審人は、昭和60年7月四級小型船舶操縦士免状を取得して以来、プレジャーボートに乗り始めたが、その後、A受審人と知り合い、レジャーに参加するようになった。B受審人は、平成6年にヴィーナスを購入し、夏期の間、前示別荘に保管していたが、自ら乗ることはほとんどなく、同船は、別荘に集まるボート仲間により使用されていた。また、B受審人は、ボート仲間に何人かの無資格者がおり、C指定海難関係人もその一人であることを知っていた。
(3)C指定海難関係人
 C指定海難関係人は、操縦免許を受有していなかったが、平成13年夏、知人であったA受審人からレジャーに誘われ、そのボート仲間の何人かが無資格のまま水上オートバイを操縦しているのを見て、自らも水上オートバイを操縦するようになった。C指定海難関係人は、同年には5回、翌14年に3回水上オートバイの操縦経験があったが、ヴィーナスを操縦したことはなく、今回、初めて同船で中島に渡ることとなった。
(4)イーグル
 イーグルは、最大搭載人員6人、最高速力毎時50キロメートルのFRP製プレジャーボートで、船体中央の風防ガラス船尾側がオープンコックピットになっており、その前列に2個の座席が、後列にソファーが配置され、前列右舷側が舵輪、スピードメーター、機関操縦装置が備わった操縦席となっていた。また、風防ガラス船首側の甲板開口部にも、2個の座席が左右向かい合わせに配置されていた。
(5)ヴィーナス
 ヴィーナスは、スタンディングタイプの1人乗りウォータージェット推進式FRP製水上オートバイで、最高速力は毎時60キロメートルであった。また、ステアリングハンドルの付いたハンドポールが船首部を基点に上下できるため、操縦者は、立ち乗りでも、膝をついた姿勢でも操縦できる構造となっていた。
(6)イーグル及びヴィーナスの各係留地点
 両船は、屈斜路湖南岸から北方に突き出した和琴半島の216.2メートル頂所在の三角点(以下「和琴山三角点」という。)から161.5度(真方位、以下同じ。)2,700メートルの地点において、A号とともに船首を湖岸に向けて係留されていた。
(7)本件発生に至る経緯
 イーグルは、A受審人が1人で乗り組み、B受審人ほか5人を乗せ、レジャーに参加する目的で、船首0.3メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、平成14年8月18日10時20分係留地点を発し、中島に向かった。
 これより先、B受審人は、係留地点において中島へ渡る準備中、ヴィーナスに無資格であるC指定海難関係人が乗船しているところを認めたが、以前、同人が水上オートバイを操縦しているのを何度か見かけたので、支障あるまいと思い、同人に代わって自らが乗り組むとか、他の有資格者を乗り組ませるなどの措置をとることなく、自らはそのままイーグルに同乗した。
 A受審人は、自船に最大搭載人員を超える人数が乗ったことに気付かないまま、B受審人を前列左舷側の座席に、1人を船首甲板開口部の座席に、他の同乗者を後列のソファーにそれぞれ座らせ、機関を後進にかけて係留地点を離れたところ、ヴィーナスが発進に手間取っていたため、A号とともに係留地点の100メートル沖合で待機した。
 A受審人は、10時26分少し前になってようやくヴィーナスが合流し、そのまま中島に向けて発進したため、同船の後を追うこととし、同時26分50秒和琴山三角点から159.5度2,750メートルの地点において、船首方の死角を避けるため操縦席で立ち上がり、針路を中島の頂上に向く351度に定めて発進し、機関を半速力前進にかけ、毎時28.0キロメートルの速力(対地速力、以下同じ。)で、操舵輪を握り進行した。
 A受審人は、自船が先に中島に到着して他船の係留場所を決めることになっており、いずれ追い抜くヴィーナスを船首わずか左方に、少し遅れて発進したA号を右舷後方にそれぞれ見る態勢で続航した。
 ところで、水上オートバイは、風浪の影響を受け易いため、一定の針路で航行することは難しく、また、操縦者が後方を振り向くなどの何気ない動作でも体重が移動して針路がずれることもあるため、水上オートバイを追い抜く際には十分な船間距離をとる必要があった。
 そしてA受審人は、水上オートバイの操縦経験があり、その針路安定性の悪いことを知っていたものの、平素、水上オートバイを追い抜く際、船間距離について格別注意しないで無難に追い抜いていたことから、ヴィーナスとの関係においても、同距離について注意しないまま、同船を追い抜く態勢で接近した。
 10時29分44秒A受審人は、和琴山三角点から149度1,460メートルの地点に達し、ヴィーナスを左舷船首12度30メートルに認めるようになったとき、このまま続航すると追い抜き時の船間距離が4.5メートルばかりとなり、わずかな針路のずれでも著しく接近し、互いの航走波の影響により衝突のおそれがある状況となっていたが、無難に追い抜くことができるものと思い、動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かず、右転するなどして十分な船間距離をとらないまま進行した。
 10時29分50秒A受審人は、ヴィーナスを左舷船首20度20メートルに認めるようになったとき、右舷船尾方を振り返ってA号の針路模様を確認し、同時30分わずか前視線を船首方に戻したところ、左舷船首至近に右方を向首したヴィーナスを認め、右舵一杯をとったが及ばず、10時30分和琴山三角点から147度1,350メートルの地点において、イーグルは、ほぼ原針路、原速力のままその左舷船首部が、ヴィーナスの右舷船首部に後方から60度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力1の南南東風が吹き、湖面は穏やかであった。
 また、ヴィーナスは、C指定海難関係人が無資格のまま一人で乗船し、レジャーに参加する目的で、船首尾とも0.2メートルの喫水をもって、同日10時25分係留地点を発し、中島に向かった。
 10時25分50秒C指定海難関係人は、和琴山三角点から159.5度2,750メートルの地点に達し、係留地点の100メートル沖合で待機していたイーグル及びA号と合流したとき、そのまま針路を中島の頂上に向く351度に定めて発進し、機関を半速力前進にかけ、毎時21.6キロメートルの速力で進行した。
 C指定海難関係人は、膝をついた姿勢でハンドルを握り、いずれA受審人の乗るイーグルが自船を追い抜くことから、ときどき後方を振り返り、徐々に接近するイーグルの位置を確認しながら続航した。
 10時29分44秒C指定海難関係人は、和琴山三角点から149度1,430メートルの地点に至り、右舷後方を振り返ってイーグルを右舷船尾12度30メートルに認めたとき、追い抜き時の船間距離がかなり近い状態で接近していることが分かったものの、衝突のおそれがあることに思い及ばず、左転するなどの衝突を避けるための措置をとらないまま続航した。
 ヴィーナスは、その後、C指定海難関係人がイーグルの位置を確認しようと振り返ったものか、いつしか針路がわずかに右偏して同船と著しく接近する態勢となり、10時29分59秒イーグルの船首がヴィーナスの船尾に並んだ直後、イーグルの船首航走波の影響を受けて急激に右転し、原速力のまま051度を向首したとき前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、イーグルは、左舷船首外板に擦過傷を生じるとともに推進器翼を折損し、ヴィーナスは、船首から船尾にかけての右舷側外板を破損した。また、C指定海難関係人が、長期間の入院、加療を要する下顎骨骨折、右腕神経叢損傷等を負った。

(原因)
 本件衝突は、北海道屈斜路湖において、ヴィーナスを追い抜くイーグルが、動静監視不十分で、十分な船間距離をとらなかったことによって発生したが、ヴィーナスが、有資格者が乗り組まないで運航されたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 ヴィーナスの所有者が、有資格者を乗り組ませる措置をとらなかったことは本件発生の原因となる。

(受審人等の所為)
 A受審人は、北海道屈斜路湖において、ヴィーナス及びA号とともに同湖中央部の中島に向け航行中、ヴィーナスを追い抜く態勢で接近する場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに同受審人は、無難に追い抜くことができるものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、追い抜き時の船間距離が不十分で衝突のおそれのあることに気付かず、右転するなどして十分な船間距離をとらないまま進行し、ヴィーナスのわずかな針路の右偏により著しく接近して同船との衝突を招き、イーグルの左舷船首外板及び推進器翼に、ヴィーナスの船首から船尾にかけての右舷側外板にそれぞれ損傷を生じさせ、C指定海難関係人に、長期間の入院、加療を要する下顎骨骨折、右腕神経叢損傷等を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、北海道屈斜路湖において、友人の所有するプレジャーボートに乗船するため湖岸の係船地点において準備作業中、自らが所有するヴィーナスに仲間の無資格者が乗船しているところを認めた場合、同人の代わりに自らが乗り組むなどの有資格者を乗り組ませる措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、その無資格者が水上オートバイを操縦しているところを何度か見かけたことから、支障あるまいと思い、有資格者を乗り組ませる措置をとらなかった職務上の過失により、ヴィーナスは有資格者による運航が行われず、イーグルとの衝突を招き、両船及びヴィーナスの操縦者に前示の事態を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C指定海難関係人が、北海道屈斜路湖において、無資格のまま水上オートバイを操縦したばかりか、イーグルが後方から接近した際、同船との衝突を避けるための措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
 C指定海難関係人に対しては、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。 


参考図





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