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平成15年函審第14号
件名

漁船第三十六結誠丸プレジャーボート第十五正勝丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年7月3日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(岸 良彬、古川隆一、野村昌志)

理事官
千手末年

受審人
A 職名:第三十六結誠丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:第十五正勝丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
結誠丸・・・船首部船底に擦過傷
正勝丸・・・右舷側中央部外板を圧壊、浸水し、水船、のち廃船

原因
結誠丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
正勝丸・・・注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第三十六結誠丸が、見張り不十分で、漂泊中の第十五正勝丸を避けなかったことによって発生したが、第十五正勝丸が、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年12月22日11時30分
 北海道八雲漁港沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十六結誠丸 プレジャーボート第十五正勝丸
総トン数 4.9トン 0.9トン
全長   7.32メートル
登録長 11.86メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力   29キロワット
漁船法馬力数 90

3 事実の経過
 第三十六結誠丸(以下「結誠丸」という。)は、刺網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人(平成2年8月一級小型船舶操縦士免状取得)ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.7メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成14年12月22日03時00分北海道八雲漁港を発し、同港北北東18海里の漁場に着いて操業を開始し、八雲漁港東北東約4海里の漁場に移動してかれい等を漁獲して操業を終え、11時15分同漁場を発進して帰途に就いた。
 ところで、八雲漁港の約0.6海里沖合には、海岸線に沿ってほたて貝養殖の区画漁業権が設定されており、同港から同区画の沖合に出漁できるように長さ約2.3海里可航幅約400メートルの水路が設けられ、水路の側端を示す簡易灯浮標が八雲港東防波堤灯台(以下「東防波堤灯台」という。)から東北東約0.6海里、同約1.7海里及び同約2.7海里にそれぞれ2基ずつ設置されていた。
 また、結誠丸は、全速力前進で航行すると船首が浮上し、舵輪後方の位置において、船首両舷にわたって約30度の範囲で死角を生じるので、平素、A受審人は、同水路航行中、体を左右に移動するなどして船首方の死角を補う見張りを行っていた。
 A受審人は、単独当直で帰途に就き、11時20分半前示水路に入って西航し、同時25分少し過ぎ東防波堤灯台から069度(真方位、以下同じ。)1.7海里の地点に至り、針路を248度に定め、全速力前進の14.0ノットの対地速力とし、操舵室中央部にある舵輪後方のわずか右舷寄りに立って自動操舵により進行した。
 11時28分少し前A受審人は、東防波堤灯台から069度1.1海里の地点に達したとき、漂泊中の第十五正勝丸(以下「正勝丸」という。)を正船首0.5海里に認め得ることができ、衝突のおそれがある態勢で向首接近する状況となったが、レーダーの船首輝線付近に映像1個を探知し、体を左舷側に寄せて前方を一瞥したところ、船首わずか左舷方にほぼ停留中の漁船(以下「第三船」という。)を視認したことから、同船のほか前路に他船はいないものと思い、体を左右に移動するなど、死角を補う見張りを十分に行わなかったので、この状況に気付かず、正勝丸を避けることなく続航した。
 間もなく、A受審人は、船首方の第三船が左舷方に少し移動したのを認めたものの、依然として死角を補う見張りを十分に行わずに進行中、11時30分東防波堤灯台から070度1,070メートルの地点において、結誠丸は、原針路、原速力のまま、その船首部が正勝丸の右舷中央部に直角に衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の西風が吹き、視界は良好で潮候は上げ潮の中央期であった。
 A受審人は、衝突の衝撃を感じて直ちに停船し、事後の措置に当たった。
 また、正勝丸は、FRP製小型遊漁兼用船で、B受審人(平成3年8月四級小型船舶操縦士免状取得)が1人で乗り組み、知人2人を同乗させ、釣りの目的で、船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、同日10時10分八雲漁港を発し、第三船が釣りをしている前示衝突地点付近の釣り場に着き、釣りを行った。
 B受審人は、11時20分釣りのポイントから外れたので、潮のぼりを行って衝突地点付近で機関を停止して漂泊し、同乗者と共に左舷側へ釣り竿を出して釣りを再開した。
 11時25分B受審人は、船首を338度に向けているとき、右舷正横1.1海里のところに来航する結誠丸を初認し、同時28分少し前同船が同方位0.5海里となり、自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近していることを認めたが、そのうち結誠丸が避けてくれるものと思い、同船に対して有効な音響による注意喚起信号を行わず、更に接近しても機関を始動して移動するなど、衝突を避けるための措置をとることなく、同船を注視していたところ、同時30分わずか前至近に迫った結誠丸に自船を避ける気配がないことに驚き、急いで機関の始動を試みたが、間に合わず、正勝丸は、船首を338度に向けたまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、結誠丸は、船首部船底に擦過傷を生じ、正勝丸は、右舷側中央部外板を圧壊し、浸水して水船となり、廃船となった。

(原因)
 本件衝突は、北海道八雲漁港沖合において、漁場から帰航する結誠丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中の正勝丸を避けなかったことによって発生したが、正勝丸が、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、北海道八雲漁港沖合において、漁場から帰航する場合、全速力前進で航行すると船首が浮上して船首方に死角を生ずる状況であったから、前路で漂泊中の正勝丸を見落とさないよう、体を左右に移動するなど、船首方の死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、レーダーの船首輝線付近に映像1個を探知し、左舷船首方を一瞥したところ、船首わずか左舷に第三船を視認したことから、同船のほか前路に他船はいないものと思い、船首方の死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、正勝丸の存在に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、結誠丸の船首部船底に擦過傷を生じさせ、正勝丸の右舷側中央部外板を圧壊して廃船させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、北海道八雲漁港沖合において漂泊中、右舷正横に来航する結誠丸を認め、同船が自船に向首したまま避けずに接近することを知った場合、機関を始動して移動するなど、衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、そのうち結誠丸が避けてくれるものと思い、衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、結誠丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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