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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 浸水事件一覧 >  事件





平成15年神審第10号
件名

漁船第八栄福丸浸水事件(簡易)

事件区分
浸水事件
言渡年月日
平成15年5月21日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(中井 勤)

理事官
杉崎忠志

受審人
A 職名:第八栄福丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
主機クランク室及び逆転減速機ケーシング内にビルジが浸入し、航行不能

原因
主機付逆転減速機用冷却海水配管の点検不十分

裁決主文

 本件浸水は、主機付逆転減速機用冷却海水配管の点検が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年7月11日09時30分
 富山湾 

2 船舶の要目
船種船名 漁船第八栄福丸
総トン数 19.32トン
全長 23.42メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 257キロワット
回転数 毎分1,160

3 事実の経過
 第八栄福丸(以下「栄福丸」という。)は、昭和49年6月に進水し、いか一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、昭和61年2月主機が、ヤンマーディーゼル株式会社製造のS160-ST2型と呼称するディーゼル機関に換装され、富山県魚津港(うおづこう)を基地として、能登半島周辺海域を主たる漁場とし、夕刻出港して翌朝帰港する形態で、年間230日ばかり出漁していた。
 主機は、燃料油としてA重油を使用する清水冷却機関で、湿式多板クラッチ内蔵の歯車式逆転減速機を介して推進軸系に動力を伝達するほか、クランク軸の前端部から動力を取り出し、油圧クラッチを介して集魚灯用発電機を駆動できるようになっていた。
 主機の冷却海水は、船底弁から主機直結の渦巻式冷却海水ポンプで吸引、加圧され、空気冷却器及び逆転減速機用潤滑油冷却器へと分岐し、両冷却器を出たのち、再び合流して主機用潤滑油冷却器及び清水冷却器を順次経由し、右舷側から船外に排出されるようになっていた。
 逆転減速機用潤滑油冷却器は、冷却面積0.63平方メートルの単流多管式熱交換器で、冷却海水が外径40ミリメートル(以下「ミリ」という。)の銅管で導かれ、同管と同冷却器側蓋との接続には、外径52ミリ長さ150ミリで90度の曲がりをもたせたゴム製管継手(以下「ゴム継手」という。)を用い、その両端部を鋼製バンドで締め付けて水密が保たれていた。
 ところで、主機は、前示換装後、航行時の常用回転数を毎分1,150とし、年間約3,500時間運転され、鉄工所による点検整備がほぼ2年毎に行われていたほか、日常的な保守が甲板員によって実施されていたものの、同換装時に新替えされたゴム継手が交換されないまま長期間使用されているうち、その表面に経年劣化による微細な亀裂(きれつ)が生じ、これらが次第に進行する状況で運転されていた。
 A受審人は、昭和55年6月から栄福丸の船長職を執っており、使用時間に伴ってゴム継手材料の強度が低下することを承知していたものの、主機を常用回転数に増速し、冷却海水が常用圧力に達した際、漏水することがなかったから大丈夫と思い、同継手表面の状態について十分に点検を行わなかったので、同継手表面に生じた亀裂に気付かないまま、操業を繰り返していた。
 こうして、栄福丸は、A受審人ほか2人の甲板員が乗り組み、平成12年7月10日11時00分魚津港を発し、19時00分舳倉(へぐら)島沖合の漁場に至って操業を開始し、翌11日04時00分操業を終えて帰途につき、主機回転数を毎分1,150として航行中、ゴム継手曲がり部に生じていた亀裂が進展して破口が生じ、機関室が浸水したので、2台の電動ビルジポンプが自動始動したものの、それらの排水量が浸水量に追いつかず、09時30分生地鼻灯台(いくじはなとうだい)から真方位342度9.6海里の地点において、折しも機関室の点検に赴いたA受審人が、逆転減速機ケーシング上部まで上昇したビルジを認め、主機を停止した。
 当時、天候は曇で風はなく、海上は穏やかであった。
 浸水の結果、栄福丸は、主機クランク室及び逆転減速機ケーシング内にビルジが浸入したほか、主機始動用蓄電池及び集魚灯用発電機などにも濡損を生じたことから、航行不能となり、救援を依頼した僚船に曳航されて魚津港に帰港したのち、主機及び逆転減速機システム油を新替えするなどの修理が行われた。

(原因)
 本件浸水は、主機冷却海水が常用圧力に達した際、逆転減速機用潤滑油冷却器の同海水入口管に用いられていたゴム継手の点検が不十分で、同継手表面の経年劣化による亀裂が進展する状況で運転が続けられ、航行中、同継手に破口が生じたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機冷却海水が常用圧力に達した場合、ゴムが硬化するなどの経年劣化を回避できないのであるから、逆転減速機用潤滑油冷却器の同海水入口管に用いられていたゴム継手について、同劣化の進行状況を判断できるよう、触手及び目視などの手段を用いるなどして、同継手表面の亀裂の有無を十分に点検すべき注意義務があった。ところが、同人は、漏水することがなかったので大丈夫と思い、同点検を行わなかった職務上の過失により、同継手表面に生じた亀裂に気付かず、運転中に同亀裂が進展して破口を招き、機関室が浸水し、主機、同始動用蓄電池及び集魚灯用発電機などに濡損を生じて航行不能とさせるに至った。





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