(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年12月15日20時05分
岩手県大船渡港
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船百洋丸 |
総トン数 |
4,992.39トン |
全長 |
125.28メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
5,736キロワット |
3 事実の経過
百洋丸は、専ら日本沿岸を航行区域とする船尾船橋型の鋼製セメント専用船で、A受審人ほか12人が乗り組み、石炭灰3,046トンを積載し、船首5.37メートル船尾6.25メートルの喫水をもって、平成13年12月15日12時12分福島県原町市東北電力原町火力発電所専用港を発し、岩手県大船渡港に向かった。
ところで、大船渡港は、港内のほぼ中央に存在する珊琥島により東西両水路(以下各水路については「東水路」、「西水路」という。)を形成し、同島周辺及び東岸に多数のかき養殖施設が設けられていることもあり、両水路の可航幅が狭まっていたので、通常、いずれか一方の水路を2隻の船舶が南北に行き会う態勢で同時に航行しなかった。また、A受審人は、同港への入出航経験が多かったので、両水路の航行については十分に知っていた。
発航後、A受審人は、本州東岸に沿って北上し、大船渡港に接近したころ、代理店から自船が同港に入航するとき、出航船が南下して港口に向かうが、珊琥島東西両水路のどちらを航行して入航予定かの問い合わせを受けたので、東水路を北上する旨を伝え、その準備を行った。
同日19時45分ごろA受審人は、大船渡港入航のため昇橋して操船指揮を執り、三等航海士を主機の操作に、操舵手を手動操舵に当たらせ、同時48分機関用意を令し、同時52分機関回転数を減じて微速力前進にかけ、6.2ノットの対地速力として大船渡港湾口防波堤を通過し、同時53分少し前大船渡港珊琥島南灯台(以下「南灯台」という。)から193度(真方位、以下同じ。)1,400メートルの地点で、針路を005度に定めて進行した。
定針したころ、A受審人は、珊琥島北方の港奥部に出航船の灯火を視認し、19時55分半南灯台から197度920メートルの地点に達したとき、自船が西水路に向けて北上すると出航船と同水路内で行き会うおそれのある状況になっていたが、同船の南下模様を一べつして、低速で航行しているようなので自船が先に西水路を航過できるものと思い、あらかじめ予定した東水路に向く針路とすることなく、西水路を航行することに翻意して同一針路で続航した。
20時01分半A受審人は、南灯台から217度360メートルの地点に達したとき、正船首方向の出航船が西水路の北端付近に達し速力を上げて南下しているのを認め、慌てて東水路に向かうこととして右舵一杯を取り、針路を065度に転じて進行し、間もなくレーダーで大船渡港東岸に設けられたかき養殖施設に接近していることに気付き、左舵一杯を取って回頭中、百洋丸は、20時05分南灯台から091度370メートルの地点において、船首が060度に向いたとき、原速力のまま同養殖施設に乗り入れた。
当時、天候は晴で風力2の西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
その結果、百洋丸に損傷はなく、多数のかき養殖施設に損傷を生じたが、のち修理された。
(原因)
本件かき養殖施設損傷は、夜間、大船渡港に入航するにあたり、珊琥島両側の狭い東西両水路に接近し、西水路に向かう出航船があってこれを認めた際、針路の選定が不適切で、早期にあらかじめ予定した東水路に向く入航針路とせず、西水路に向け進行中、珊琥島至近で東水路に向け転針し、同港内東岸のかき養殖施設に向け進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、大船渡港に入航するにあたり、珊琥島両側の狭い東西両水路に接近し、西水路に向かう出航船を認めた場合、同水路を2船が反航することが困難であったから、あらかじめ予定した東水路を通航する針路を選定すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、出航船の南下模様を一べつして、低速で航行しているようなので自船が先に西水路を航過できるものと思い、あらかじめ予定していた東水路を通航する針路を選定しなかった職務上の過失により、西水路に向け進行して珊琥島至近で東水路に向け転針し、大船渡港東岸に設けられたかき養殖施設への乗り入れを招き、多数の同養殖施設に損傷を生じさせるに至った。