(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年5月4日23時00分
沖縄県喜屋武埼南西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船大進丸 |
総トン数 |
9.99トン |
全長 |
16.00メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
117キロワット |
回転数 |
毎分1,000 |
3 事実の経過
大進丸は、昭和56年に進水したまぐろ延縄漁業に従事するFRP製漁船で、主機として、三菱重工業株式会社が製造した6ZDAC-11型と呼称するディーゼル機関を装備していた。
主機の燃料油は、燃料油タンクから主機燃料油供給ポンプ、燃料油こし器、燃料噴射ポンプ及び燃料噴射弁へと供給され、主機運転中の燃料油供給を受け持つ主機燃料油供給ポンプは、主機停止時の燃料油系統の空気抜きに用いる手動プライミングポンプ(以下「手動ポンプ」という。)を付属させており、燃料カム軸に設けられた専用の偏心カムにより駆動するようになっていた。
また、燃料油こし器は、取扱説明書によると、120時間毎に同こし器のドレンプラグを抜いてその底部の水やゴミを除く、いわゆるドレン抜きを行い、ドレン抜きを行うと空気が燃料油系統に入るので、燃料油系統の空気抜きを行うよう注意が促されていた。
ところで、手動ポンプでの油圧は、同ポンプのシリンダとピストンとの間の燃料油により気密が保持されるようになっており、その気密保持により、ドレン抜き後、手動ポンプを操作して燃料油系統の空気抜きができるかどうかを調べて同ポンプの作動状況の確認ができるようになっていた。しかしながら、手動ポンプのシリンダとピストンとが摩耗したりして、その摩耗部での気密性が低下した場合、主機運転中、同部から燃料油供給ポンプ吸入側を経て燃料油系統に空気が漏入し、空気漏入後、燃料油系統の空気抜きができない構造となっていたことから、主機の運転が不能となるおそれがあり、手動ポンプを新替えする必要があった。
A受審人は、昭和60年1月11日に一級小型船舶操縦士免許を取得し、まぐろ延縄漁船員として乗船していたところ、自らが船長として乗り組み、同漁業を営むこととして平成14年2月に中古の大進丸を購入したが、その際、前所有者と同乗して試運転も兼ねた3日間ほどの操業に立ち会った。同船は前年3月の中間検査後11箇月が経っていたものの、主機をはじめ各部の調子が良く、外見上も問題になるところがなかったので、整備を行わせることなく、そのまま購入した。
その後、A受審人は、沖縄県泊漁港を基地として沖縄島周辺漁場で、1航海1週間(約160時間)程度の操業を5回ほど行ったが、主機の調子が良かったことから、大丈夫と思い、燃料油こし器のドレン抜きを行ったのち、手動ポンプを操作して空気抜きができるかどうかを調べることにより、同ポンプの作動状況を確認しなかったので、経年劣化により同ポンプのシリンダとピストンとの摩耗で、シリンダの気密性が低下気味になっていることに気付かなかった。
こうして、大進丸は、A受審人が船長として息子と2人で乗り組み、船首1.0メートル船尾1.4メートルの喫水をもって、同年5月2日13時00分泊漁港を発し、翌3日06時ごろ喜屋武埼南方漁場に至り操業を始め、翌々4日22時50分ごろ2回目の操業を終え、主機を全速力前進にかけて漁場移動中、手動ポンプのシリンダとピストンとの摩耗が進行して燃料油系統に空気が漏入し始め、主機回転数が徐々に下がり出し、23時00分喜屋武埼灯台から真方位235度42海里の地点において、燃料油が主機に供給されなくなり、主機が自停した。
当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、主機自停の原因が燃料油系統だと考え、手動ポンプを操作して同系統の燃料油こし器、燃料噴射ポンプ及び燃料噴射弁までの空気抜きを行ったが、空気抜き及び主機の再始動ができず、操業を断念して僚船に救助を求めた。
本船は、僚船に曳航され同月5日17時ごろ沖縄県糸満漁港に着岸し、中古の手動ポンプを仮に取付けたのち、泊漁港に入港して水揚げを行い、後日、手動ポンプを新替えした。
(原因)
本件運航阻害は、主機の運転管理に当たる際、主機燃料油供給ポンプ付属の手動ポンプの作動状況の確認が不十分で、沖縄島近海で漁場移動中、同ポンプのシリンダとピストンとの摩耗で、シリンダの気密性が低下し、空気が燃料油系統に漏入し、燃料油が主機に供給されなくなったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、主機の運転管理に当たる場合、定期的に燃料油こし器のドレン抜きを行い、ドレン抜きに伴い主機燃料油供給ポンプ付属の手動ポンプを操作し、燃料油系統の空気抜きができるかどうかを調べることにより、同ポンプの作動状況を十分に確認すべき注意義務があった。ところが、同人は、本船を購入して日が浅かったうえ、主機の調子が良かったことから、大丈夫と思い、同ポンプの作動状況を十分に確認しなかった職務上の過失により、沖縄島近海で漁場移動中、経年劣化により同ポンプのシリンダとピストンとの摩耗が進行し、シリンダの気密性が低下して空気が燃料油系統に漏入し、燃料油が主機に供給されなくなり、主機が始動不能となる運航阻害を招き、僚船に救助されるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。