日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 死傷事件一覧 >  事件





平成15年那審第11号
件名

プレジャーボート隼被引ウェイクボーダー遊泳者負傷事件(簡易)

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成15年6月11日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(小須田 敏)

副理事官
神南逸馬

受審人
A 職名:隼船長 操縦免許:小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:ウェイクボーダー

損害
ヤビク丸・・・前部外板に亀裂
遊泳者・・・・頭部打撲

原因
隼・・・・・・遊泳者に対する安全措置不十分

裁決主文

 本件遊泳者負傷は、遊泳者に対する安全確保の措置が不十分で、ウェイクボーダーが遊泳者などに著しく接近したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年8月4日16時20分
 沖縄県屋我地島東岸沖

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート隼
総トン数 0.1トン
全長 3.12メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 107キロワット

3 事実の経過
 隼は、川崎重工業株式会社製のJTT20Aと称するFRP製3人乗り水上オートバイで、A受審人が知人の船舶所有者から借り、ウェイクボーダーのB指定海難関係人を曳航する目的で、同受審人が1人で乗り組み、平成14年8月4日16時15分沖縄県名護市屋我地島東岸の砂浜を発した。
 これより先、A受審人は、平成5年に四級小型船舶操縦士の免許を取得し、その後ホテルのマリンスタッフとして水上オートバイでウェイクボーダーを曳航するなどの経験を有しており、また、自らもウェイクボーダーとして滑走を楽しんでいたことから、ウェイクボーディングを行う際の水上オートバイの操縦方法及び同オートバイが旋回したときのウェイクボーダーの滑走状況などについて十分承知していた。
 また、A受審人は、同日11時ごろ前示砂浜に到着し、十数人の知人達と海水浴やウェイクボーディングなどをしていたため、子供達を含む他のグループが、発進地点の南東側において水上オートバイで航走したり、水際近くで遊泳などをしていたことも、また、別のグループが、約60メートル沖に2個の簡易ブイを砂浜に沿って設置し、さらにその沖に数個の同ブイを入れ、水上オートバイでこれらのブイを周回していたことも知っていた。
 こうして、A受審人は、隼の船尾にウェイクボーダーの曳航索として長さ約20メートルの合成繊維製索の一端を取り付け、発進地点の北西方約150メートルの地点と南東方約80メートルの地点をそれぞれ反転地点と決め、砂浜に沿って両地点間を往復するつもりで発進したものであった。
 発進するとき、A受審人は、発進地点の南東方約40メートルの水際沖に錨泊している水上オートバイのヤビク丸とその周辺に数人の遊泳者がいることを認めたことから、水上オートバイが周回する水域とこれら遊泳者などがいる水域の間は、ウェイクボーダーを曳いて旋回するにはやや狭いように感じたが、ウェイクボーダーは進行方向に対して容易に横移動できることから、B指定海難関係人が遊泳者などに著しく接近することはないものと思い、遊泳者などから離れた水域で曳航するなど、遊泳者に対する安全確保の措置を十分にとらなかった。
 一方、B指定海難関係人は、同日正午過ぎに前示砂浜に到着し、友人が操縦する水上オートバイに曳かれてウェイクボーディングを行ったのち、A受審人に曳航を依頼したもので、滑走中は専ら先行する水上オートバイの動向に注意を向けるなど、前方の見張りを十分に行う余裕がなかったものの、発進するにあたり、同受審人に遊泳者などから離れた水域で曳航するように進言しなかった。
 A受審人は、発進地点の約40メートル沖に至ったところで左転し、スロットルを調整して毎時35キロメートルの曳航速力で砂浜に沿って北西進し、北西側の反転地点に差し掛ったところで、旋回速力の毎時20キロメートルに減じるとともに、右舵をとって沖側に旋回したのち、増速して自らの航跡をたどるように南東進し、南東側の反転地点で再度砂浜側に右旋回した。
 A受審人は、右旋回を終えたころ、B指定海難関係人が滑走しながら外側に振られ、ヤビク丸及び遊泳者の近くを通過したことを認めたものの、その後遊泳者などから離れた水域で航走するなど、遊泳者に対する安全確保の措置をとらないまま、北西側の反転地点で再び右旋回して南東進し、16時20分少し前南東側の反転地点付近にあたる、名護市屋我地区にある三角点(標高40メートル、以下「屋我三角点」という。)から007度(真方位、以下同じ。)990メートルで、右舵をとって砂浜側に旋回を始めた。
 このとき、B指定海難関係人は、折から隼の右舷後方に位置していたため、その後外側に大きく振られ、ヤビク丸及び遊泳者に著しく接近するおそれのある態勢で滑走することとなったものの、隼の動向などに気をとられていて、このことに気付かなかった。
 A受審人は、16時20分わずか前屋我三角点から006度990メートルの地点に達したとき、B指定海難関係人がヤビク丸及び遊泳者に著しく接近するおそれのある態勢で滑走していることを知り、増速してこの事態を避けようとしたが、また、同指定海難関係人は、前方至近にヤビク丸を初めて認め、急いで曳航索を放したが及ばず、同指定海難関係人は、16時20分屋我三角点から003.5度1,000メートルの地点において、ヤビク丸の前部に勢いよく倒れ込み、折から同船上にいた遊泳者に接触した。
 当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、潮候はほぼ高潮時であった。
 その結果、B指定海難関係人に負傷はなかったものの、遊泳者が頭部打撲などを負い、ヤビク丸の前部外板に亀裂を生じた。

(原因)
 本件遊泳者負傷は、沖縄県名護市屋我地島東岸沖において、水上オートバイでウェイクボーダーを曳航する際、遊泳者に対する安全確保の措置が不十分で、ウェイクボーダーが、水上オートバイの旋回に伴って外側に大きく振られ、遊泳者などに著しく接近したことによって発生したものである。
 遊泳者に対する安全確保の措置が十分でなかったのは、船長が遊泳者などから離れた水域で曳航しなかったことと、ウェイクボーダーが遊泳者などから離れた水域で曳航するように進言しなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、沖縄県名護市屋我地島東岸沖において、水上オートバイでウェイクボーダーを曳航する場合、遊泳者などから離れた水域で曳航すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、ウェイクボーダーは進行方向に対して容易に横移動できることから、遊泳者などに著しく接近することはないものと思い、遊泳者などから離れた水域で曳航しなかった職務上の過失により、ウェイクボーダーが、水上オートバイの旋回に伴って外側に大きく振られ、遊泳者などに著しく接近して接触する事態を招き、ウェイクボーダーに負傷はなかったものの、遊泳者に頭部打撲などを負わせ、錨泊中の水上オートバイの前部外板に亀裂を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、沖縄県名護市屋我地島東岸沖において、水上オートバイに曳かれて発進する際、船長に遊泳者などから離れた水域で曳航するように進言しなかったことは、本件発生の原因となる。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION