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平成14年神審第119号
件名

プレジャーボートファントムボードセーラー負傷事件
二審請求者〔理事官前久保勝己〕

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成15年6月20日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(竹内伸二、甲斐賢一郎、小金沢重充)

理事官
前久保勝己

受審人
A 職名:ファントム船長 操縦免許:小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:ボードセーラー

損害
ファントム・・・・損傷ない
ボードセーラー・・左足関節脱臼骨折、左肘関節捻挫血腫及び胸部打撲傷

原因
ファントム・・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
セールボード・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件ボードセーラー負傷は、ファントムが、見張り不十分で、帆走中のボードセーラーを避けなかったことによって発生したが、ボードセーラーが、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年8月17日16時40分
 兵庫県東播磨港加古川河口
 
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートファントム
登録長 1.87メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 52キロワット

3 事実の経過
 ファントムは、ウォータージェット推進式のFRP製水上オートバイで、A受審人が、単独で乗り組み、水上オートバイ競技の航走練習のため、平成14年8月17日14時30分兵庫県東播磨港の加古川河口左岸に接する砂州(以下「左岸砂州」という。)を発進し、同砂州沖で遊走を始めた。
 A受審人は、平成10年12月に当時の四級小型船舶操縦士免許を取得し、翌11年の夏からファントムを運航し、その後各地で行われる水上オートバイ競技に出場するようになり、月に数回、主に加古川河口で航走練習を行っていた。
 ところで、A受審人が航走練習を行っていた水域(以下「練習水域」という。)は、川幅約600メートルの加古川河口で、左岸砂州から50ないし200メートル沖の、東西約120メートル南北約180メートルの水域で、東播磨港の港域内にあたることから、港則法により端艇競争その他の行事をしようとする際には予め港長の許可が必要なところであったが、同人より先に来ていた水上オートバイ競技練習者が、港長の許可を得ないまま、近くの水上オートバイ関連商品販売店に保管されていたゴム製の航走練習用ブイ9個を設置し、各ブイを高速力で周回する航走練習を行っていたもので、A受審人は、港則法の規定を知らないまま練習仲間とともに同水域で航走練習を行っていた。
 9個の航走練習用ブイは、いずれも直径約55センチメートル(以下「センチ」という。)、水面上高さ約50センチで、移動しないようにロープを結んだ重りを川底に沈めただけの簡単なもので、航走練習が終われば、その都度撤去されていた。
 A受審人が練習を始めたときの各ブイの配置状況は、1番ブイが、左岸砂州から約50メートル沖にあたる、東播磨港高砂東防波堤灯台(以下「東防波堤灯台」という。)から055度(真方位、以下同じ。)1,300メートルの地点に設置され、同ブイから川の中央に向かって順に2、3、4、5番の各ブイが、約30メートル間隔で、各ブイを結ぶ線がジグザグになるように、さらに、5番ブイの約140メートル下流に6番ブイ、同ブイから左岸砂州に向かって順に7、8、9番の各ブイが25ないし30メートルの間隔でジグザグにそれぞれ設置されていた。
 航走練習者は、赤色の1、3、5、6、7及び9番の各ブイを左舷側に、黄色の2、4及び8番の各ブイを右舷側に、それぞれ番号順に通過して1番ブイに戻る、1周約510メートルの練習コースをできるだけ速く周回する練習を行っていた。
 A受審人は、練習水域及びその付近に数隻の水上オートバイやセールボードが遊走する中、ヘルメット及び透明のゴーグルを着け、途中で休憩しながら、練習仲間とともに航走練習を繰り返した。
 16時35分ごろA受審人は、東防波堤灯台から056度1,350メートルの左岸砂州を発進して3回目の航走練習を始め、そのころ練習水域にはファントムほか2隻の水上オートバイが互いに間隔を開けて航走練習を行っており、練習水域から離れたところに数隻のセールボードを認めたものの、同水域の近くには見かけなかったので、セールボードは同水域に近づかないだろうと考え、練習コースを2周したあと、同時39分半1番ブイを左舷側に航過して3周目の航走を始め、2、3、4番の各ブイを航過したあと、同時39分50秒東防波堤灯台から054度1,260メートルの地点で、針路を320度に定め、16.2ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、5番ブイに向けて進行を開始した。
 そのときA受審人は、左舷船首32度65メートルの川の中央に、B指定海難関係人が乗り、折からの北東風をセールに受けて5番ブイから6番ブイへの進路に接近するセールボード(以下「西山セールボード」という。)を視認することができ、そのまま5番ブイを回って6番ブイに向かえば同セールボードと衝突するおそれがあったが、西日が水面に反射して眩しかったことと、それまで練習水域に入ってくるセールボードを見かけなかったことから、まさか近くに西山セールボードがいるとは思わず、次の進行目標の5番ブイに気を奪われて前路の見張りを十分に行わなかったので、自船の進路に接近中の西山セールボードに気付かず、速やかに航走練習を一時中止して西山セールボードを避けることなく続航した。
 A受審人は、5番ブイの手前で減速して同ブイを左舷側30センチばかりに航過し、増速しながら左に急旋回したあと、16時39分55秒東防波堤灯台から050.5度1,260メートルの地点で、6番ブイに向首する186度の針路に転じ、進行目標の6番ブイを注視しながら再び16.2ノットの速力として同ブイに向け航走を始めた直後、右舷船首方至近に西山セールボードを初認し、急いでステアリングハンドルバーを左に曲げスロットルレバーを緩めたが及ばず、ファントムは、16時40分東防波堤灯台から052度1,225メートルの地点において、181度を向いたとき、16.2ノットの速力のまま、その船首が、西山セールボードの左側に、後方から46度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力4の北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
 また、B指定海難関係人は、10年ほど前からボードセーリングを始め、冬季を除き毎月3ないし4回加古川河口や京都府由良川河口などでボードセーリングを行っていた。
 同日13時ごろB指定海難関係人は、ボードセーリングを行う目的で加古川河口の左岸に到着し、その後川岸で帆走に適した風が吹くのを待っている間、数隻の水上オートバイが、左岸砂州沖合で、ブイからブイへジグザグに走りながら、川上側のブイ群と川下側のブイ群との間を往復しているのを見て、水上オートバイが練習水域に多数のブイを設置して航走練習をしていることを知った。
 16時10分B指定海難関係人は、適当な強さの北東風が吹き出したので帆走を始めることとし、全長2.67メートル幅0.55メートル重量7.0キログラムのセールボード上に高さ4.60メートルのマストを立て、これに面積が6.9平方メートルの透明なセールとブームを取り付け、腰にハーネスを装着するとともに、ブームとハーネスとをロープで繋ぎ、両手でブームを持ってセールボードの上に立ち、東防波堤灯台から063度1,300メートルの地点を発進し、右岸に向けて帆走を開始した。
 B指定海難関係人は、練習水域の9番ブイから6番ブイの近くを通過して加古川を横切ったのち、右岸の手前でタッキングを行って左岸に向かい、その後右岸と練習水域との間を、タッキングを繰り返しながら上流に向けて北上し、16時30分ごろ右岸の砂州近くに達したとき、川下に向かうこととし、その後ジャイビングを繰り返しジグザグに帆走しながら同川を下った。
 16時39分少し過ぎB指定海難関係人は、東防波堤灯台から041度1,220メートルの地点に達したとき、進行方向を南東方に転じ、その後折からの北東風を背に受け、風によって多少進行方向が振れるものの、ほぼ135度の方向に10.8ノットの速力で、左岸砂州の南端付近に向かって進行した。
 16時39分50秒B指定海難関係人は、5番ブイの西方42メートルの地点で、練習水域の5番ブイと6番ブイの間を横切る態勢で135度の方向に帆走していたとき、進行方向の左方27度65メートルのところに、練習水域の川上側にある4番ブイから5番ブイに向け航走練習中のファントムを視認することができ、それまでの水上オートバイの航走状況から、同船が川上側の5番ブイで左転して川下側に航走すると衝突のおそれがある態勢となって互いに接近することを知り得たが、セールの状態と進行目標の左岸砂州南端付近に気を奪われ、進行方向の左方に対する見張りを十分に行わなかったので、接近するファントムに気付かず、速やかに進行方向を風下に転じるなど衝突を避けるための措置をとらないで、135度の方向に帆走中、5番ブイを回って6番ブイに向かったファントムを認めたもののどうすることもできず、前示のとおり衝突した。
 その結果、ファントムに損傷はなかったが、B指定海難関係人が、左足関節脱臼骨折、左肘関節捻挫血腫及び胸部打撲傷を負って約2箇月の入院加療を要した。

(原因)
 本件ボードセーラー負傷は、水上オートバイやセールボードが遊走する東播磨港の加古川河口において、ファントムが、多数のブイを設置した練習水域で水上オートバイ競技の航走練習中、見張り不十分で、帆走中のボードセーラーを避けなかったことによって発生したが、ボードセーラーが、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、水上オートバイやセールボードが遊走する東播磨港の加古川河口において、多数のブイを設置した練習水域で水上オートバイ競技の航走練習中、自船の進路に接近する西山セールボードを見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、西日が水面に反射して眩しかったことと、それまで練習水域に入ってくるセールボードを見かけなかったことから、まさか近くに西山セールボードがいるとは思わず、進行目標のブイに気を奪われ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、西山セールボードに気付かないまま進行して同セールボードとの衝突を招き、B指定海難関係人に約2箇月の入院加療を要する左足関節脱臼骨折、左肘関節捻挫血腫及び胸部打撲傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B指定海難関係人が、東播磨港の加古川河口において、セールボードに乗って帆走中、多数のブイが設置された水上オートバイ競技の練習水域に接近した際、進行方向の左方に対する見張りを十分に行わなかったことは本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、見張りが不十分であったことを反省している点に徴し、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





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