日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 死傷事件一覧 >  事件





平成15年仙審第3号
件名

作業船第二よしだ漁船第六十八大林丸乗組員死亡事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成15年6月25日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(内山欽郎、吉澤和彦、勝又三郎)

理事官
弓田邦雄

受審人
A 職名:第二よしだ船長 操縦免許:小型船舶操縦士
指定海難関係人
株式会社Y造船鉄工所 業種名:造船業

損害
大林丸・・・漁労長が出血性ショック及び内臓破裂で死亡

原因
乗船者の安全確保に対する配慮不十分、安全確認に対する指導教育不十分

主文

 本件乗組員死亡は、乗船者の安全確保に対する配慮が不十分で、第二よしだに移乗していた第六十八大林丸の乗組員が、上架中の同船の船尾外板と第二よしだの機関室囲い上のロープガイドとの間に上半身を挟まれたことによって発生したものである。
 造船業者が、作業船の船長に対して、上架中の船舶付近で操船する際には安全確認を十分に行うよう指導教育するなどの安全対策を十分に講じていなかったことは、本件発生の原因となる。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年10月23日09時50分
 宮城県気仙沼港

2 船舶の要目
船種船名 交通船兼作業船第二よしだ 漁船第六十八大林丸
総トン数 6.6トン 289トン
全長 12.00メートル 49.29メートル
2.96メートル 8.30メートル
深さ 1.40メートル 3.55メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 44キロワット 698キロワット

3 事実の経過
 第二よしだ(以下「よしだ」という。)は、株式会社Y造船鉄工所が所有する鋼製の交通船兼作業船(以下「作業船」という。)で、他の1隻の僚船と共に、同鉄工所の作業員及び入渠した船舶の乗組員の送迎や入渠船舶の上・下架作業などに従事していた。
 よしだは、一層甲板型で、甲板上には、船体のほぼ中央部船首寄りに幅1.7メートル長さ2.4メートル高さ1.5メートルの操舵室が、その後方に引き続いて幅1.7メートル長さ2.6メートル高さ約70センチメートル(以下「センチ」という。)の機関室囲いが設けられており、両舷ブルワークと操舵室及び機関室囲いとの間約60センチがそれぞれ通路になっていた。また、同船には、操舵室後壁に高さ約50センチの窓がほぼ全幅にわたって設置され、操船者が操船中でも後方がよく見えるようになっていたほか、操舵室上及び機関室囲い上にハンドレールが設けられ、操舵室上のハンドレールの両舷船尾端から機関室囲い上のハンドレールの両舷船尾端にかけて、斜め下方にロープガイドが取り付けられていた。
 指定海難関係人株式会社Y造船鉄工所(以下「Y造船」という。)は、設立以来、主として船舶の建造及び修繕業務を行っており、宮城県気仙沼港に面する西側に5つの船台を有していた。また、Y造船の各船台(以下、船台についてはY造船を省略する。)には、南側より1番から5番までの順番号が付され、陸上から海中にかけて敷設されたレール上の台車に船舶を着座させて陸上の所定の位置まで引き上げる上架設備が備えられており、2番船台と3番船台の間隔は5.1メートルで、3番船台には、陸上部分40メートル海中部分120メートルの長さのレールが100分の7の傾斜で敷設されていた。
 A受審人は、Y造船の検査課長で船体関係の検査の立会いが本業であったが、一級小型船舶操縦士の免許を受有していたので会社から頼まれて作業船も操船するようになり、同造船の作業員や入渠船舶の乗組員の送迎などに携わっていたところ、平成8年ごろからは作業船の船長も兼務して上・下架作業にも従事するようになり、作業船の操船を年間50回ないし60回行うとともに、そのうち30回ほどは上架中の船舶からの乗組員の下船も経験していたが、会社からは上架中の船舶付近で操船する際には安全確認を十分に行うなどの指導教育を何ら受けていなかった。
 第六十八大林丸(以下「大林丸」という。)は、まぐろはえ縄漁業に従事する鋼製の漁船で、珊瑚海等で漁獲したまぐろを静岡県焼津港で水揚げし、その後Y造船の向かい側の岸壁に回航したのち、船長O及び漁労長Kほか8人が乗り組み、定期検査工事の目的で、平成14年10月23日08時10分同岸壁を発し、3番船台沖の係留ブイに向かった。
 一方、よしだは、A受審人が1人で乗り組み、綱取り作業員1人を同乗させ、入渠する大林丸を3番船台沖の係留ブイまで曳航する目的で、船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同日08時10分気仙沼市浪板に設けられたY造船構内の浮き桟橋(以下「浮き桟橋」という。)を離桟して大林丸付近に至ったものの、同船が自航することになったので3番船台沖の係留ブイ付近で待機し、同時40分係留ブイに係止したロープや陸上から導かれた船体位置調整用のロープを大林丸に送る作業などを終え、同乗の作業員を下船させたのち、09時10分自らも上架作業の様子を見るため浮き桟橋に戻った。
 A受審人は、間もなく大林丸が船首を陸に向けた状態で3番船台の台車に着座し、徐々に同船が陸岸方向に動き始めるのを認めたので、引き続きよしだに1人で乗り組み、大林丸の乗組員を下船させる目的で、09時15分浮き桟橋を離桟した。
 その後、よしだは、大林丸右舷船首部の舷門下に至って左舷付けとし、同船の乗組員が下船してくるのを待ったが、乗組員がなかなか下船してこなかったので、引き上げられる同船に連れて徐々に陸岸方向に移動しているうち、通常の乗組員が下船する位置よりもはるかに水深の浅い陸岸至近まで近づく状況になっていた。
 ところで、台車上に着座した船舶が陸岸に近づくと、次第にその喫水が小さくなり、ついには船尾の湾曲部が海面上に露出するため、作業船が自船よりはるかに大きい上架中の船舶付近で操船する場合には、作業船が上架中の船舶の湾曲した船尾部に入り込むおそれがあるので、十分な注意が必要であった。
 09時40分ごろA受審人は、ようやく大林丸の乗組員が舷門から順次はしごを伝ってよしだの船首甲板に移乗するのを認め、乗組員全員がよしだに移乗したのを確認したのち、同時48分、操舵室の船首側中央より少し右舷寄りにある主機遠隔操縦装置の前に立ち、よしだの船尾を少し右に振りながら後進したところ、付近の水深が浅くなっていて自船の船尾船底が2番船台に接触したので、いったん前進して元の位置付近に戻り、再度後進することにした。
 09時49分A受審人は、機関を微速力後進にかけ、右側に寄らないよう少し左舵をとって後進を開始したが、陸上の目標物を見ながら2番船台との間隔を見定めることに気を取られていたうえ、よしだの左舷外板の防舷材を大林丸の右舷外板に擦りながら後進すれば後方に直進できると考え、後方を十分に確認しなかったので、大林丸船尾の湾曲部が露出していることも、機関室囲い左舷側の通路にK漁労長ともう1人の大林丸乗組員が立っていることにも気付かなかった。
 こうして、よしだは、A受審人が、後方の十分な確認や乗船者への注意など、乗船者の安全確保に対する配慮を十分に行わないまま、左舷外板の防舷材を大林丸の右舷外板に擦りながら後進を続けているうち、船尾部が大林丸の湾曲した船尾部に入り込み、09時50分気仙沼港導灯(後灯)から真方位324度1,080メートルの地点において、機関室囲い左舷側の通路上で大林丸に背を向けて立っていたK漁労長が、上半身を大林丸の船尾外板とよしだの機関室囲い上のロープガイドとの間に挟まれた。
 当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
 A受審人は、左舷後方から大声がしたので操舵室の左舷側から後方を見たところ、K漁労長がうずくまっているのを認めたので、直ちに前進してよしだの船体を大林丸から離したのち、救急車を手配するなどの事後の措置に当たった。
 その結果、大林丸のK漁労長(昭和20年6月4日生)は、救急車で病院に搬送されたものの、出血性ショック及び内臓破裂で死亡した。
 その後、Y造船は、同種事故の防止を図るため、原則として上架中は乗組員の下船を禁止し、止むを得ず上架中に下船する場合には造船所が指定する時期に下船するよう入渠船の乗組員に申し入れるとともに、毎日の始業前に打合せを行い、当日の作業の危険性を説明して具体的に安全対策を指示するなど、事故防止に努めることにした。

(原因)
 本件乗組員死亡は、宮城県気仙沼港の造船所において、上架中の船舶付近で操船する際、乗船者の安全確保に対する配慮が不十分で、後進したよしだが上架中の大林丸の湾曲した船尾部に入り込み、よしだに移乗していた大林丸の乗組員が、同船の船尾外板とよしだの機関室囲い上のロープガイドとの間に上半身を挟まれたことによって発生したものである。
 造船業者が、作業船の船長に対して、上架中の船舶付近で操船する際には安全確認を十分に行うよう指導教育するなどの安全対策を十分に講じていなかったことは、本件発生の原因となる。

(受審人等の所為)
 A受審人は、上架中の船舶付近で操船する場合、よしだが上架中の船舶の湾曲した船尾部に入り込むと危険であるから、後進するときは後方を十分に確認するとともに乗船者にも注意を促すなど、乗船者の安全確保に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、陸上の目標物を見ながら2番船台との間隔を見定めるのに気を取られていたうえ、よしだの左舷外板の防舷材を大林丸の右舷外板に擦りながら後進すれば後方に直進できると考え、後方の十分な確認や乗船者への注意など、乗船者の安全確保に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、よしだが上架中の大林丸の湾曲した船尾部に入り込んで、よしだに移乗していた大林丸の乗組員が同船の船尾外板とよしだの機関室囲い上のロープガイドとの間に上半身を挟まれる事態を招き、同乗組員を出血性ショック及び内臓破裂で死亡させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 Y造船が、作業船の船長に対して、上架中の船舶付近で操船する際には安全確認を十分に行うよう指導教育するなどの安全対策を十分に講じていなかったことは、本件発生の原因となる。
 Y造船に対しては、その後、同種事故の再発防止を図るため、原則として上架中の船舶からの乗組員の下船を禁止し、やむを得ず上架中に下船する場合は造船所が指定した時期に下船するよう入渠船の乗組員に申し入れを行うとともに、始業前の打合せ時に当日作業の危険性に対して具体的に安全対策を指示するなど、事故防止に努めている点に徴し、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION