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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 死傷事件一覧 >  事件





平成15年横審第4号
件名

漁船第三十一山仙丸乗組員死亡事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成15年5月23日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(西山烝一、吉川 進、黒田 均)

理事官
米原健一

受審人
A 職名:第三十一山仙丸船長 海技免状:五級海技士(航海)

損害
甲板員1人が海中に転落、行方不明、のち死亡と認定

原因
浮子寄せ網を解らんする際その作業位置不適切

主文

 本件乗組員死亡は、まき網漁における漁獲物の積取り終了後、第三十一山仙丸から浮子寄せ綱を解らんする際、その作業位置が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年3月12日09時10分
 千葉県犬吠埼東方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十一山仙丸
総トン数 266トン
全長 53.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 860キロワット

3 事実の経過
 (1)第三十一山仙丸の船体
 第三十一山仙丸(以下「山仙丸」という。)は、まき網漁業船団の漁獲物運搬に従事する船首楼・船尾楼付一層甲板型の鋼製漁船で、船尾楼前部の上層の甲板に船橋を有し、両船楼間の甲板下に魚倉及び氷庫などが設けられていた。
 船首楼と船尾楼との間の甲板は、魚倉の倉口とほぼ同一の高さで、倉口を除いた一面に木板及び鉄板が敷き詰められた作業甲板となっており、右舷側ブルワークは、作業甲板からの高さが29センチメートル(以下「センチ」という。)で、その上に直径9.5センチのパイプ(以下「ブルワーク上パイプ」という。)が取り付けられ、同甲板上からブルワーク上パイプ頂部までの高さが約45センチとなっていた。また、船尾楼前端と右舷側ブルワークとの接合部付近に、高さ88センチのボラード(以下「右舷ボラード」という。)が備え付けられていた。
 (2)操業方法など
 船団は、山仙丸のほか、漁労長が乗り組みレッコボートを搭載してまき網漁の主体をなす網船及び魚群探索などに従事する探索船の3隻で構成され、操業に使用する漁具は、長さ1,380メートル網丈255メートルの漁網に浮子(あば)及び沈子(ちんし)などが取り付けられたものであった。
 操業方法は、網船が魚群を取り囲むように投網し、漁網上部で浮きの付いた浮子綱が海面に浮き、沈子方と称する錘(おもり)の付いた漁網下部が海中に沈み、漁網を円筒形状に展開したのち、沈子方を網船の甲板上に揚網して包囲形を縮め、魚捕部と称する漁網の一箇所に魚を集めたところで、山仙丸が網船に接近し、魚捕部を挟んで互いの右舷側を向き合わせて、両船の船首部と船尾部にもやい綱をとり、その際、山仙丸の左舷側をレッコボートに、網船の左舷側を探索船により、それぞれ曳き綱に引かれた態勢を保ちながら、山仙丸の右舷側と魚捕部とを接舷し、ブルワーク上パイプの十数箇所と魚捕部の浮子綱とを細索により固縛するとともに、浮子寄せの綱と称する補助索(以下「浮子寄せ綱」という。)を右舷ボラードに係止したあと、山仙丸のデリックを使用して漁獲物を魚倉に積み取っていた。
 ところで、浮子寄せ綱とは、魚の積取り終了後、山仙丸から魚捕部を離舷する際、網船が、次の投網に備え、長大な漁網を船尾部に収納し直すため、甲板上に揚網していた漁網を一旦海中に戻していくとき、漁具の絡まりなどを防止し、網船と山仙丸の距離がある程度離れるまで右舷ボラードに保持しておくための補助索で、直径40ミリメートル長さ20メートルの化学繊維製綱に直径26ミリメートル長さ20メートルの同綱を繋いだ、全体の長さ40メートルの綱が、漁網の船首側先端から15メートルばかり内よりの浮子綱のところに取り付けられていた。
 (3)本件発生に至る経緯
 山仙丸は、A受審人ほか9人が乗り組み、操業の目的で、船首1.2メートル船尾4.5メートルの喫水をもって、平成14年3月12日03時20分僚船とともに千葉県銚子港を発し、犬吠埼東方沖合の漁場に向かった。
 A受審人は、出航後魚群探索をしながら06時50分犬吠埼東方沖合15海里ばかりの漁場に着き、網船が投網したあと揚網を開始して魚捕部に魚が集められ、07時50分同船の右舷側と10メートル隔てて山仙丸の右舷側を魚捕部に接舷し、魚捕部の浮子綱をブルワーク上パイプに固縛させるとともに浮子寄せ綱を右舷ボラードに係止させたのち、08時20分自ら船尾楼甲板前部でデリックウィンチの操作にあたり、漁獲物の積取りを開始した。
 ところで、浮子寄せ綱が、右舷ボラードに8字形で2ないし3重に巻き取られて係止されたあと、同ボラード船尾側に余地がないことなどから、残りの同綱はボラード船首側甲板上にコイルダウンされていた。
 09時07分A受審人は、セグロイワシ120トンの積取りを終了し、魚捕部を離舷させるとともに、浮子寄せ綱の解らん作業を甲板員Tに行わせることにしたが、同甲板員がいつも行っている慣れた作業なので大丈夫と思い、コイルダウンされている同綱から離れた右舷ボラードの船尾側など、安全な位置で同作業を行うよう、安全指導を十分に行うことなく、デリックウィンチの操作場所を離れ船橋へ移動した。
 一方、T甲板員は、上下の雨合羽、救命胴衣、長靴にゴム手袋及び安全帽を着用し、甲板上で漁獲物の積取り作業に従事していたところ、網船からの同作業が終了し、魚捕部を離舷することになり、いつも行っている浮子寄せ綱を右舷ボラードから解らんする作業にあたることにしたが、同ボラードの船尾側などの安全な位置で同作業を行わず、同綱がコイルダウンされている同ボラードの船首側付近で、網船からの合図により同綱を解らんしたところ、09時10分犬吠埼灯台から083.5度15.8海里の地点において、同甲板員は、走出する同綱に足を絡まれて舷外に運ばれ、一旦右舷ボラード付近のブルワーク上パイプを両手でつかんだものの、同綱に引きずられて海中に転落した。
 当時、天候は晴で風力1の南風が吹き、海上は穏やかであった。
 転落を目撃した機関長が救命浮環を投入したり、他の甲板員が海中に飛び込んで救助しようとしているうち、T甲板員は、舷側から離れていき、A受審人がレッコボートに連絡して救助に向かわせたが、間もなく海中に没した。引き続き、海上保安庁の巡視船や僚船により捜索が行われたが、T甲板員(昭和16年10月3日生)は、行方不明となり、のち死亡と認定された。

(原因)
 本件乗組員死亡は、千葉県犬吠埼東方沖合において、まき網漁の操業中、網船から漁獲物の積取りを終了し、山仙丸に係止していた浮子寄せ綱を解らんする際、その作業位置が不適切で、解らん作業にあたっていた乗組員が走出する同綱に足を絡まれ、海中に転落したことによって発生したものである。
 作業位置が適切でなかったのは、船長が、浮子寄せ綱の解らん作業を行う甲板員に対し、安全指導を十分に行っていなかったことと、甲板員が、安全な位置で解らん作業を行わなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、千葉県犬吠埼東方沖合において、まき網漁の操業中、網船から山仙丸に漁獲物の積取り終了後、浮子寄せ綱の解らん作業を甲板員に行わせる場合、コイルダウンされている同綱から離れた右舷ボラードの船尾側など、安全な位置で同作業を行うよう、安全指導を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同受審人は、甲板員がいつも行っている慣れた作業なので大丈夫と思い、安全な位置で同作業を行うよう、安全指導を十分に行わなかった職務上の過失により、甲板員が解らん作業中、走出する同綱に足を絡まれて舷側から海中に転落し、死亡する事態を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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