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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 死傷事件一覧 >  事件





平成14年広審第131号
件名

貨物船松竜丸乗組員死亡事件
二審請求者〔理事官村松雅史〕

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成15年4月10日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(西林 眞、高橋昭雄、佐野映一)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:松竜丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
指定海難関係人
B 職名:M海運有限会社代表取締役

損害
次席一等航海士が虚血性心疾患の疑いで死亡

原因
乗組員に対する安全衛生管理不十分

主文

 本件乗組員死亡は、乗組員に対する安全衛生管理が十分でなかったことによって発生したものであるが、その経過を明らかにすることはできない。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年7月30日07時30分
 香川県坂出港内
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船松竜丸
総トン数 490トン
登録長 70.43メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット

3 事実の経過
 松竜丸は、深さ6.70メートルの船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人、B指定海難関係人、次席一等航海士C(以下「C航海士」という。)及び機関長の4人が乗り組み、主として香川県坂出港の三菱化学株式会社坂出事業所から関門港小倉区の住友金属株式会社小倉製鉄所(以下「荷主」という。)へのコークス輸送に繰返し従事しており、C航海士が上甲板上の、他の3人は端艇甲板上の居住区にそれぞれ居室を定めていた。
 ところで、B指定海難関係人は、平成元年に父親のC航海士からM海運有限会社の経営を引き継ぎ、同4年に建造した松竜丸1隻を所有して内航船舶貸渡業を営み、船員は自社で配乗のうえ、三菱化学物流株式会社(以下「オペレーター」という。)と運航委託契約を結んで前示輸送に携わっているもので、自らも五級海技士(航海)の海技免状を受有して松竜丸に乗船するようにしていたものの、航海中にオペレーターや荷主と連絡をとって航海計画を立てるほか、会合等で船を離れることもあることから、操船を担当してもらうため船長を別途雇い入れ、自身は就航当初から一等航海士として乗り組んでいた。そして、船舶所有者の立場で保守整備を含む船内作業を立案、指示し、作業中に事故を起こさないよう、外板タッチアップなどの舷外作業は必ず交通艇を降ろして海上から行うようにしていた。
 また、C航海士は、同8年以降、乗組員の休暇時や欠員が生じたときに臨時乗船する程度であったところ、同14年2月に甲板員が下船することになった際、オペレーターから4人体制で運航するよう指示されているなか、運賃の値下げなどで会社の財政事情が厳しく船員の雇用が困難な事情から、B指定海難関係人に依頼されて常勤の形で乗り組むことになったもので、乗船中は同人の指示にかかわらず自分で勝手に整備作業を行ったり、身軽で高所などを平気で歩き回るようなことをしていた。ところが、年齢は75歳を越え、不整脈の持病があるほか、3、4年前から10日の1回ぐらいの頻度で一瞬体が硬直するような状態になることがあったり、さらに1年前からは足が冷えるようになったこともあって関門港入港時には通院を続け、精密検査も受けたものの、まだ病名等が確定するまでには至っていなかった。
 B指定海難関係人は、C航海士の健康状態や船内での行動を十分承知したうえで、前示事情でやむを得ず常時乗船させることにしたが、担当医師に乗船の可否について問い合わせなかったばかりか、船内作業を立案、指示する立場から、同人の業務を船橋当直に限定するなど、健康状態を考慮して作業や行動を厳しく制限することはなかった。
 一方、A受審人は、昭和54年以来各種内航船の船長を歴任したのち、平成8年5月から船長として乗り組み、安全衛生担当者として日頃から乗組員の安全管理に気を配り、C航海士の危険な行動を認めたときにはその都度注意するようにしていた。しかし、C航海士が自分で決めて気ままに整備作業を行っていることについては、B指定海難関係人が同作業を立案、指示していることや、同人の父親だという思いもあって、無断で単独作業を行わないよう十分に指示することはなかった。
 こうして、松竜丸は、空倉のまま、船首1.30メートル船尾3.15メートルの喫水をもって、平成14年7月29日14時50分関門港小倉区を発し、翌30日早朝坂出港港外に至り、午後に予定されていた着岸荷役までの間錨泊待機するため、B指定海難関係人から投錨作業に出なくてよいと指示されていたC航海士を除く3人が配置に付き、同日04時55分坂出港西防波堤灯台から真方位047度1.5海里の地点に錨泊したのち、同作業を終えた乗組員3人が休息のためそれぞれ自室に戻った。
 07時前に目覚めたB指定海難関係人は、上甲板に降りて食堂に行くときC航海士の居室を覗いて(のぞいて)同人がいないことを認め、居住区内を探しても見つからなかったので操舵室に上がり、日誌類の記入を行っていた船長にその旨を告げ、上甲板上を船首方に向かって歩いているとき、右舷船首部の通路に電気コードが引かれ、ガンネルにはしごが掛けられているのを発見し、船首上甲板下の船首倉庫やスラスタ室にも姿がなかったことから、07時30分、前示錨泊地点において同人が舷外作業中に海中転落したものと判断し、坂出海上保安署に捜索を要請した。
 当時、天候は曇で風力1の東風が吹き、港内は穏やかで、日出は5時12分であった。
 松竜丸は、潜水夫に依頼して本船の周りを探したが見つからず、巡視艇やB指定海難関係人が手配した漁船で引き続き捜索を続けてもらうこととし、14時過ぎから三菱化学株式会社坂出事業所の専用岸壁に着岸して積み荷役を行っていたところ、16時ごろ捜索中の漁船によってC航海士(大正15年2月3日生)の遺体が発見されたとの知らせを受けた。
 C航海士は、巡視艇により最寄りの病院に搬送された結果、溺死ではなく、虚血性心疾患の疑いで死亡したと検案された。

(原因)
 本件乗組員死亡は、乗組員に対する安全衛生管理が不十分で、荷役待ちのため香川県坂出港内に錨泊中、乗組員が無断で単独の舷外作業を行ったことによって発生したものであるが、その経過を明らかにすることはできない。

(受審人等の所為)
 A受審人は、安全衛生担当者として、乗組員に対し無断で単独の船内作業を行わないよう十分に指示しなかったことは、本件発生の原因となる。しかしながら、死亡した乗組員の危険な行動については日頃から注意していた点に徴し、職務上の過失とするまでもない。
 B指定海難関係人が、一等航海士として乗り組み、乗組員数を充足するために不整脈などの持病を持つ父親をやむを得ず乗船させるにあたり、船舶所有者として船内作業を立案、指示する立場から、同人の健康状態を考慮して作業や行動を厳しく制限しなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、深く反省している点に徴し、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





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