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平成15年広審第25号
件名

旅客船ユメカイナ機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成15年6月20日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(西林 眞、関 隆彰、西田克史)

理事官
平井 透

指定海難関係人
A 職名:西海町産業観光課観光船運航管理者 

損害
高弾性ゴム継手ゴムエレメント歯形形状部からハブが一部破断脱落

原因
主機と逆転減速機関に装着した高弾性ゴム継手のゴムエレメントに疲労亀裂

主文

 本件機関損傷は、主機と逆転減速機間に装着した高弾性ゴム継手のゴムエレメントに疲労亀裂を生じたことによって発生したものである。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年4月3日12時00分
 愛媛県鹿島沖
 
2 船舶の要目
船種船名 旅客船ユメカイナ
総トン数 19トン
全長 17.30メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 672キロワット
回転数 毎分2,035

3 事実の経過
 ユメカイナは、平成8年3月に進水した、航行区域を限定沿海区域とする旅客定員67人の2機2軸を備えた双胴型軽合金製旅客船で、両胴の間に昇降式の海中展望室を装備して宇和海海中公園での観光遊覧業務に従事し、上甲板下の機関室両舷胴に主機を各1機備え、軸系にはブラケットで支持されたゴム軸受装着の張出軸受を設けており、年間の主機運転時間が約1,500時間であった。
 主機は、ドイツ連邦共和国モトーレン・ウント・トゥルビーネン・ウニオン社(以下「MTU社」という。)が製造した6R183TE92型ディーゼル機関で、プロペラ軸との間に油圧クラッチを内蔵した同国製の逆転減速機(以下「逆転機」という。)を配置し、フライホイールと逆転機との間に、軸系のねじり振動や逆転機減速歯車などへの変動トルクの影響を回避するため、株式会社日立ニコトランスミッション(旧新潟コンバータ株式会社、平成15年4月1日付新会社として設立)が製造したVULASTIK-L型と称する、高弾性ゴム継手を取り付けており、逆転機及び同継手とともに、MTU社と提携している株式会社大阪補機製作所(以下「大阪補機」という。平成12年倒産)が一括納入したものであった。
 また、高弾性ゴム継手は、外輪のフランジケーシング、内輪のハブ及びゴムエレメントで構成され、歯形形状をしたゴムエレメントの外周がフランジケーシング内面と噛み合い、同エレメントの内周部がハブの外周に接着された構造となっており、フランジケーシングを主機フライホイールに、ハブを逆転機入力軸フランジにそれぞれボルトで結合されるもので、逆転機側に小さな点検口を有していたものの、機関室に据え付けた状態では主機と逆転機との連結部がカバーで覆われて詳細な点検が困難であることから、主機を開放整備する目安でもある4,000ないし6,000時間ごとに、ゴムエレメントの亀裂や脆化などの有無を点検するよう機関取扱説明書に記載されていた。
 A指定海難関係人は、ユメカイナの就航以来船長として乗務したのち、平成10年から愛媛県西海町が運航する観光船の運航管理者に就くとともに、船体及び機関の整備管理全般を統括し、ユメカイナについては、毎年1回上架して船体整備を行っていたほか、機関の日常保守は船長に行わせ、不具合が生じたときにはMTU機関のサービス工場に指定されている地元の栄山技研に手直しを依頼するようにしていたものの、高弾性ゴム継手の点検要領等を機関取扱説明書によって把握していなかった。
 そして、A指定海難関係人は、納入業者の大阪補機との打合せで主機関係を運転時間で5,000時間、約3年ごとに陸揚げ、開放整備するよう計画していたことから、翌11年3月の初回の開放整備については、同社の強い意向もあって主機及び減速機仕組を同社工場に輸送したうえ、整備内容も任せて実施させたが、主機や高弾性ゴム継手の状態について特段の報告を受けなかった。
 その後、ユメカイナは、主に3月から10月にかけて定期運航されるなか、同14年6月に2回目の主機関係陸揚げ、開放整備を予定していたところ、前年6月の上架工事の際には認められなかった、左舷側ブラケットと張出軸受シェルとの間に海水の浸入による腐食が発生し、やがてゴム軸受を圧迫してプロペラ軸との隙間が著しく減少したため、高弾性ゴム継手にクラッチ嵌合時の過大な衝撃的トルク変動が作用する状況で左舷主機の運転が続けられ、ゴムエレメントの歯形形状部の根本付近に疲労亀裂が生じ、これが進展してハブとの接着部に達した。
 こうして、ユメカイナは、船長Yほか1人が乗り組み、旅客4人を乗せ、船首0.95メートル船尾0.85メートルの喫水をもって、同14年4月3日11時30分西海町船越の係留地を発し、主機を回転数毎分1,900にかけて遊覧航海のため沖合の黒ばえと呼ばれる岩礁を経て鹿島の瀬戸を航行したのち、鹿島の穴と呼ばれる海蝕洞穴内の遊覧を終え、穴を出て旋回後主機を半速力前進にかけたところ、12時00分高茂埼灯台から真方位325度2.6海里の地点において、左舷主機高弾性ゴム継手のゴムエレメントとハブとの接着部が完全に剥離し、同主機が急回転した。
 当時、天候は曇で風力1の北西風が吹き、海上は穏やかであった。
 異常音に気付いたY船長は、左舷機関室を点検したところ、ゴム臭とともに室内に煙が立ち込めていたので直ちに左舷主機を停止したが、原因が分からなかったため、右舷主機のみで航行を続けて西海町中泊の桟橋に帰着した。
 ユメカイナは、右舷主機に異常はなく、上架後整備業者によって左舷主機が陸揚げのうえ精査され、高弾性ゴム継手ゴムエレメントの歯形形状部からハブに至る部分が一部破断脱落し、同エレメントとハブの接着部が完全に剥離していたほか、左舷プロペラの回転が非常に重いことから張出軸受の異状が発見され、のち同継手を取り替えるとともに、同軸受部が修理された。

(原因についての考察)
 本件は、就航後約6年、約9.200時間という比較的短時間の運転で、左舷主機及び逆転機間に装着した高弾性ゴム継手のゴムエレメントに亀裂を生じ、同エレメントとハブとの接着部が完全に剥離するに至ったものであり、本件後の精査で左舷プロペラ軸と張出軸受側の隙間が著しく減少していることが発見された。
 ユメカイナの高弾性ゴム継手は、主機と逆転機との連結部がカバーで覆われている構造上、機関室に備え付けた状態での日常点検は困難であるものの、運転時間5,000時間ごとに計画されていた主機の陸揚げ、開放整備時に、ゴムエレメントの亀裂や脆化などの有無を点検することで、機関取扱説明書中の記載内容からも保守間隔として支障ないものといえる。
 そして、高弾性ゴム継手は、就航3年後に初回の開放整備のため、大阪補機の手により主機及び逆転機とともに陸揚げされた際、A指定海難関係人が整備内容を同社に一任して同継手を点検するよう具体的に指示しておらず、さらに、同社が既に倒産して当時の点検状況は明らかにできないが、開放整備前にはゴムエレメントをフランジケーシングから抜き出して主機と逆転機を切り離す必要があり、このときに同エレメントの目視点検などが全く行われなかったと認定することはできない。また、仮に同エレメントが点検されず、既に亀裂が発生していることが見過ごされていた場合は、クラッチの嵌脱操作を伴う運転時間の経過によってその亀裂が進展するため、本件発生までの約3年間運転を継続できるとは考えらない。
 したがって、本件の原因は、プロペラ軸と張出軸受の隙間が著しく減少したため、高弾性ゴム継手にクラッチ嵌合時の過大な衝撃的トルク変動が作用する状況で左舷主機の運転が続けられたことによると考えるのが相当であるが、同隙間については、毎年の上架工事の際に点検が行われ、本件前年の同工事において異常がないことが確認されていることから、その後の運航中にブラケットと同軸受シェル間に発生した腐食によって生じたものであり、運航状態でこれを察知することは困難であったと思料する。
 以上のことから、A指定海難関係人が、機関の整備管理を統括するにあたり、取扱説明書に記載された高弾性ゴム継手の点検要領等を把握せず、主機開放整備の際、同継手の点検について指示していなかったことは遺憾であるが、同人の所為と本件発生との因果関係は認められない。

(原因)
 本件機関損傷は、上架点検後の運航中、左舷側張出軸受シェルとブラケット間に生じた腐食の進行によってプロペラ軸と同軸受の隙間が著しく減少し、左舷主機及び逆転機間に装着した高弾性ゴム継手に、クラッチ嵌合時の過大な衝撃的トルク変動が作用する状況で運転が続けられ、ゴムエレメントに疲労亀裂を生じたことによって発生したものである。

(指定海難関係人の所為)
 A指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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