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平成14年横審第95号
件名

漁船第十一寿和丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成15年6月12日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(吉川 進、大本直宏、黒田 均)

理事官
井上 卓

受審人
A 職名:第十一寿和丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)

損害
カム軸歯車ほか各電動歯車に欠損、調速機駆動軸にき裂等

原因
主機調速機駆動装置整備不十分

主文

 本件機関損傷は、主機の調速機駆動装置の整備が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年5月19日12時30分
 北太平洋
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第十一寿和丸
総トン数 316トン
全長 59.08メートル
機関の種類 過給機付4サイクル8シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,154キロワット
回転数 毎分610

3 事実の経過
 第十一寿和丸(以下「寿和丸」という。)は、平成3年11月に進水した、大中型まき網漁業に運搬船として従事する鋼製漁船で、主機として株式会社新潟鐵工所が製造した、8MG28HX型と呼称するディーゼル機関を装備していた。
 主機は、直列シリンダ配置のシリンダブロック船首側に伝動歯車装置を装備し、船尾側フライホイール後部のクラッチ付減速歯車を介して可変ピッチプロペラを駆動していた。また、定格出力が2,206キロワット同回転数毎分750の原機に出力制限装置を付加して出力1,154キロワット回転数610として登録されたもので、検査入渠を終える都度、出力制限装置が外されて運転されていた。
 主機の伝動歯車装置は、歯数48のクランク軸歯車が、第一及び第二と呼び分ける2つの中間歯車にかみ合い、第一中間歯車で歯数96のカム軸歯車を駆動し、また第二中間歯車で潤滑油ポンプを増速駆動するもので、カム軸歯車にかみ合わされた、歯数20の調速機駆動歯車で回転する調速機駆動装置を通して調速機と燃料供給ポンプを駆動するようになっており、いずれも平歯車が使用されていた。 また、装置全体の船首側を歯車ケーシングで覆われ、同ケーシング左舷側のハンドル箱の上部には調速機が取り付けられ、ハンドル箱下の左舷側には調速機駆動歯車の点検蓋が取り付けられていた。
 調速機駆動装置は、直径30ミリメートルの調速機駆動軸に調速機駆動歯車が、また、段付の太い部分を挟んでねじ歯車がそれぞれ嵌められ、ハンドル箱の船首尾に取り付けられた玉軸受によって支持されており、ねじ歯車によって90度食い違い軸の関係でかみ合う調速機を駆動するようになっていた。
 寿和丸は、およそ1箇月を一航海とする船団の操業期間中、魚群探索を行うほか、漁獲を水揚げするために5ないし7日毎に操業海域と市場との間で往復航海を行い、毎年行われる検査入渠又は合入渠に際しては主機のピストン抜きの整備が行われていた。
 ところで、主機の調速機駆動装置は、運転時間24,000時間毎に歯車を点検し、軸受を取り替えるよう取扱説明書に記載されていたところ、就航後、継続して使用されていた軸受が経年によって著しく摩耗し、カム軸歯車にかみ合う調速機駆動歯車の歯当たりが悪くなっていた。
 寿和丸は、平成13年3月合入渠に際して主機が開放され、ピストン抜き整備が行われたほか運転時間や整備間隔を考慮して、付属する機器が取り外されて陸揚げのうえ、開放整備された。
 A受審人は、寿和丸建造時の艤装員を務め、就航後も機関長として運転と整備に携わる中で、調速機駆動装置の点検は行っておらず、歯車の歯面の異状に気付かなかった。また、合入渠に際して、就航後の運転時間が45,000時間を超えることとなる主機について、ピストン抜き工事に加えて調速機、燃料供給ポンプなどの開放整備を行うこととしたが、それまで伝動歯車のトラブルが1件もなかったので調速機駆動装置に問題はないと思い、同駆動軸取外しのうえ軸受を取り替えるなど、調速機駆動装置の整備を十分に行うことなく、工事を終えた。
 寿和丸は、同年4月10日に出渠後、操業するうち、主機の調速機駆動歯車の軸心が振れ、歯当たりが更に悪化するところとなった。
 こうして、寿和丸は、A受審人ほか9人が乗り組み、船首2.6メートル船尾3.7メートルの喫水をもって、平成13年5月17日16時45分神奈川県三崎港を発し、操業の目的で伊豆諸島東方沖合の漁場に向かい、翌々19日12時30分北緯33度35分東経144度24分の地点において、主機を回転数毎分710、プロペラピッチ19.8度にかけて魚群を探索中、調速機駆動歯車の一部が欠損してカム軸歯車など各歯車にかみ込まれ、大きな異音を発した。
 当時、天候は晴で風力1の南東風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、機関室で当直中であったところ、異音を聞いて直ちに主機の調速機を手動で操作して減速し、船橋に連絡して主機を停止したのち、調速機駆動歯車の点検蓋を外して点検し、調速機駆動歯車及びカム軸歯車に欠損を生じていることを認め、主機が運転不能であることを船長に伝えた。
 寿和丸は、僚船にえい航され、翌20日三崎港に引きつけられ、精査された結果、カム軸歯車ほか各伝動歯車に欠損が、調速機駆動軸にき裂が、同軸及び調速機軸のねじ歯車にかみ込み傷がそれぞれ生じ、更に潤滑油ポンプ駆動部のケーシングも破損していることがわかり、のち損傷部が取り替えられた。

(原因)
 本件機関損傷は、入渠時の主機整備に当たり、調速機駆動装置の整備が不十分で、調速機駆動軸の軸受が摩耗限度を超えて使用され、軸心が振れて調速機駆動歯車が歯当たり不良となったまま運転が続けられたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、入渠時の主機整備に当たり、長年使用された部品を整備する場合、建造以来使用されていた軸受が摩耗限度を超えて装置に不具合を生じることのないよう、軸受を取り替えるなど調速機駆動装置の整備を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、それまで伝動歯車のトラブルがなかったので同装置については問題ないと思い、調速機駆動装置の整備を十分に行わなかった職務上の過失により、軸受が異常摩耗して軸心が振れる事態を招き、歯当たり不良となっていた調速機駆動歯車が欠損し、破片が歯車列に次々とかみ込まれ、主機の運転不能状態を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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