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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 火災事件一覧 >  事件





平成15年函審第5号
件名

漁船第二十八海宝丸火災事件

事件区分
火災事件
言渡年月日
平成15年5月27日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(岸 良彬、黒岩 貢、野村昌志)

理事官
河本和夫

受審人
A 職名:第二十八海宝丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
全焼し、沈没

原因
長期間休止されていた集魚灯用安定器の絶縁抵抗測定不十分

主文

 本件火災は、長期間休止されていた集魚灯用安定器の絶縁抵抗測定が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年9月4日18時30分
 津軽半島西方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十八海宝丸
総トン数 19トン
全長 23.45メートル
4.58メートル
深さ 1.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 809キロワット

3 事実の経過
 第二十八海宝丸(以下「海宝丸」という。)は、平成9年2月に進水した、いか一本釣り漁業などに従事する一層甲板型FRP製漁船で、上甲板下が船首方から順に、船首タンク、倉庫、3区画の魚倉、機関室、船員室、舵機庫及び倉庫となり、上甲板上が船首倉庫、船首甲板、機関室囲壁、食堂兼賄室及び船尾甲板となっていて、船橋が機関室囲壁前部上方の船体中央部に設けられていた。
 機関室は、長さ5.5メートル幅4.3メートル高さ3.0メートルで、中央部に主機が据え付けられ、その前方に主機駆動の交流電圧225ボルト容量250キロボルトアンペアの集魚灯用発電機を備え、両舷の前部外板沿いに集魚灯用安定器(以下「安定器」という。)のアングル鋼材製の格納棚が設置され、同棚の上方に機関室空気取入口が開口し、同室の通風装置として機関室囲壁天板後部に3台の通風機を装備していた。また、同室の出入口は、機関室囲壁の左舷後部のほか、同囲壁と食堂兼賄室との仕切壁左舷寄りの2箇所に設けられていた。
 安定器は、いずれもウシオマリーン株式会社製の3キロワット2灯用のもので、UMB-3030型24個及びUMB-30K22W型6個の計30個が搭載されており、左舷格納棚には12個が6列2段の状態で、右舷格納棚には18個が7列2段の上に更に4列1段の状態でそれぞれ収められていた。
 集魚灯への給電経路は、集魚灯用発電機から主配電盤(船橋に設置)、6灯10系統からなる集魚灯継電器盤(機関室中段前部右舷に設置)及び安定器を順に経て、キャブタイヤケーブルにより集魚灯に至る経路となっていた。
 ところで、安定器は、変圧器やコンデンサなどが組み込まれており、温度や湿度の高い環境に長期間休止状態で放置されると、無通電による乾燥不足もあって、これら電気部品の絶縁材料の劣化が助長されることがあり、安定器の長期間休止後の出漁準備に当たっては電路の短絡を防止するため、絶縁抵抗測定を行って絶縁劣化箇所の発見に努めることが効果的であった。
 海宝丸は、毎年5月を船体・機関の整備期間とし、6月からめばる刺網漁を始め、9月からいか一本釣り漁に従事し、12月からたら刺網漁に切り替え、翌年3月から4月までさめはえ縄漁を行っており、集魚灯が年間3箇月しか点灯されず、9箇月にわたる長期間を連続して休止していたところ、安定器が無通電による乾燥不足に加え、海水のしぶきが入りやすい空気取入口に近接していたことや高温となる機関室に置かれていたこともあって、経年とともに安定器の絶縁材料が徐々に劣化する状況となった。
 同14年9月4日10時ごろA受審人は、いか一本釣り漁の出漁準備を行うこととし、地元の電気業者を立ち会わせて前年11月末以来休止していた集魚灯の点灯試験を行ったが、全数の集魚灯が点灯したので問題ないと思い、電気業者に依頼して、安定器の絶縁抵抗測定を行うことなく、10分後に消灯して出漁準備を終えたので、安定器の絶縁材料が劣化していることに気付かなかった。
 こうして、海宝丸は、A受審人及び同人の長男が乗り組み、いか一本釣り漁の目的で、船首0.8メートル船尾2.6メートルの喫水をもって、同日15時00分青森県小泊漁港下前地区を発し、16時30分同港西方沖合の漁場に至り、パラシュート型シーアンカーを投入して船首を北に向け、主機回転数を毎分850として船内電源用発電機を駆動しながら漂泊した。
 漂泊後、A受審人は、今年初めてのいか一本釣り漁であったことから、長男と手分けしていか釣り機の調整作業を行い、18時00分日没が近くなったことから、主機を回転数毎分1,200にかけて、船内電源用発電機から集魚灯用発電機に切り替え、全数の集魚灯を点灯させ、機関室出入口を閉鎖し、通風機全数を排気状態として再びいか釣り機の調整作業に従事していたところ、絶縁材料が著しく劣化していた安定器の電路が短絡し、電線被覆が過熱発火して付近の構造物に燃え移り、18時30分小泊岬北灯台から真方位278度15.8海里の地点で、機関室内が火災となった。
 当時、天候は晴で風力4の北風が吹き、海上には少しうねりがあった。
 折から、船首甲板右舷にいたA受審人は、船尾甲板右舷でいか釣り機の調整に当たっていた長男から機関室の通風機が黒煙を激しく噴き出しているとの報告を受け、急ぎ船尾甲板に駆け寄り船体上部を見たところ、通風機からの多量の発煙と一部の集魚灯が消えているのを認め、船橋に入って付近の僚船に火災発生を無線通報した。
 このとき、A受審人は、船体外部に炎が出ていなかったものの、船橋にも煙が充満し、通風機からの発煙量も更に激しくなったことから、機関室に空気を入れると一気に火災が拡大するおそれがあると考え、機関室内を覗かずに消火作業を諦め、18時35分救命浮環を手にして長男とともに船首部に避難し、同時50分来援した僚船により救助された。
 その後、海宝丸は、安定器の設置箇所上方付近から炎が上がり、翌5日00時38分全焼して沈没した。

(原因)
 本件火災は、いか一本釣り漁の出漁準備に当たり、長期間休止されていた集魚灯用安定器の絶縁抵抗測定が不十分で、集魚灯を点灯して漁場で漂泊中、絶縁材料が著しく劣化していた安定器の電路が短絡し、電線被覆が過熱発火して付近の構造物に燃え移ったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、集魚灯用安定器が長期間休止された状態で、出漁準備を行う場合、高温多湿の機関室に格納されていた同安定器が長期間の無通電による乾燥不足で絶縁材料が劣化しているおそれがあったから、電気業者に依頼して、同安定器の絶縁抵抗測定を行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、短時間の点灯試験で全数の集魚灯が点灯したので問題ないと思い、電気業者に依頼して、同安定器の絶縁抵抗測定を行わなかった職務上の過失により、集魚灯を点灯して漁場で漂泊中、同安定器の電路が短絡して火災を招き、全焼して沈没させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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