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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 火災事件一覧 >  事件





平成15年広審第3号
件名

漁船長福丸火災事件

事件区分
火災事件
言渡年月日
平成15年4月16日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(西林 眞、佐野映一、竹内伸二)

理事官
岩渕三穂

受審人
A 職名:長福丸船長 海技免状:五級海技士(航海)

損害
操舵室内が半焼、左舷側キャビネット、天井及び航海計器等が焼損、のち焼損機器を新替

原因
火気取扱い不適切

主文

 本件火災は、操舵室を無人とするにあたり、火気の取扱いが不適切で、暖房用電気ストーブの電源スイッチが切られなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年1月28日06時50分
 鳥取県境港内
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船長福丸
総トン数 85トン
登録長 28.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 661キロワット

3 事実の経過
 長福丸は、昭和63年4月に進水した、沖合底びき網漁業に従事する船体ほぼ中央部に門型の船橋楼を設けた、一層甲板の船尾トロール型鋼製漁船で、船橋楼下は右舷側が機関室囲壁、左舷側が賄室にそれぞれなっており、上甲板下には船首方から順に魚倉、機関室及び乗組員居住区などを配置していた。
 操舵室は、後部中央を開口して一体となった無線室を含め、幅約4メートル長さ約3.7メートルで、前部には右舷側から順に主機遠隔操縦盤、GPSプロッター、1号レーダー、操舵スタンド、魚群探知機及び2号レーダーなどを設置し、後部には両舷端に出入口扉を設け、無線室との開口部両舷の後壁に、化粧合板を施した木製扉付きキャビネット(以下「キャビネット」という。)をそれぞれ備え、床面にカーペットを敷き詰め、無線室右舷側に通信機器を装備していた。
 A受審人は、竣工以来船長として乗り組み、毎年9月から翌年5月末までを漁期として日本海での操業を繰り返し、このうち12月ごろから3月にかけては、自らが無線室で寝起きすることもあって、操舵室及び無線室の暖房用として備え付けのエアコンのほかに、平成11年ごろに購入した電気ストーブを使用しており、在船中は昼夜を通して同ストーブの電源を入れたままにしていた。
 電気ストーブは、交流100ボルト消費電力400ワットの電熱管2本と反射板を有する、幅約500ミリメートル(以下「ミリ」という。)高さ約400ミリ奥行約200ミリの、転倒時には電源が切れる安全装置付きで、400ワットと800ワットに切り換えて使用できる電源スイッチを設け、電熱管前面には安全ガードが取り付けてあり、電源コードとして、公称断面積2.0平方ミリの2心ビニールキャブタイヤケーブル1.5メートルを備えていた。そして、操舵室左舷側壁前部に設置のコンセントから側壁に沿って左舷側キャビネット近くまで敷設した長さ約5メートルの延長コードとゴムプラグで接続したうえ、同キャビネット手前のカーペット上に船首を向けて据えられ、電源コードの余剰部分がその前方に置かれた状態になっていた。
 長福丸は、A受審人ほか7人が乗り組み、日本海でのかに漁を終え、同13年1月27日01時ごろ鳥取県境港に入港して水揚げを行っているとき、同港近くで同じ漁業協同組合に所属する漁船の乗組員が1人行方不明となったために共同捜索に加わることになり、水揚げ後07時ごろまで境水道内を東西に航行して捜索したのち、境港指向灯から真方位270度360メートルの通称休憩岸壁に係留し、その後は日没まで車や徒歩により乗組員全員で海岸沿いの捜索を続け、翌朝再開することになって乗組員は全員帰船した。
 帰船したA受審人は、いつものように電気ストーブで暖房したまま無線室で就寝し、翌28日朝、隣に係留している僚船の船長と2人で朝食を摂るため、徒歩で3分ほどの喫茶店に行くこととしたが、30分ぐらい船を離れるだけだから大丈夫と思い、電気ストーブの電源スイッチを切らなかったばかりか、操舵室を出るときに電気ストーブ前面に置かれた電源コードに足が触れるかして、同コードが安全ガードに寄りかかり、電熱管にさらされて強い輻射熱を受ける状態になったことにも気付かずに、船尾居住区で寝ている他の乗組員を残し、06時20分ごろ長福丸を離れた。
 こうして、長福丸は、無人となった操舵室において、電源スイッチの入ったままの電気ストーブ電熱管の強い輻射熱を受けた電源コードがやがて発火し、カーペットや背面のキャビネット化粧合板に燃え移って火災となり、06時50分前示の係留地点で操舵室から黒煙が出ているところを僚船の乗組員が発見し、食事中のA受審人に電話で連絡された。
 当時、天候は晴で風力1の北風が吹き、港内は穏やかであった。
 急ぎ帰船したA受審人は、既に他の乗組員が操舵室を取り囲んでいたものの、黒煙が充満して同室内に入れないでいるうち、しばらくして同室内が酸欠状態になって鎮火したことを認めた。
 火災の結果、長福丸は、操舵室内が半焼し、左舷側キャビネット、天井及び航海計器等が焼損したほか、無線室の通信機器も一部焼損したが、のち焼損機器を新替えするなどの修理が行われた。

(原因)
 本件火災は、鳥取県境港に着岸中、電気ストーブを暖房に使用していた操舵室を無人とする際、火気の取扱いが不適切で、電熱管にさらされた同ストーブ電源コードが強い輻射熱を受けて発火したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、鳥取県境港に着岸中、上陸のため電気ストーブを暖房に使用していた操舵室を無人とする場合、電気ストーブの電源スイッチを入れたままにしておくと、可燃物が接触するなどして火災となるおそれがあったから、電気ストーブの電源スイッチを切っておくべき注意義務があった。ところが、同人は、30分ぐらい船を離れるだけだから大丈夫と思い、電気ストーブの電源スイッチを切らなかった職務上の過失により、同室を出るとき足が触れるかして電熱管にさらされた同ストーブ電源コードが強い輻射熱を受けて発火し、カーペットや背面のキャビネット化粧合板に燃え移って火災を招き、同室天井、航海計器及び通信機器等を焼損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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