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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 転覆事件一覧 >  事件





平成14年那審第60号
件名

プレジャーボートかおり転覆事件(簡易)

事件区分
転覆事件
言渡年月日
平成15年5月29日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(坂爪 靖)

副理事官
神南逸馬

受審人
A 職名:かおり船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
船体が大破し、全損

原因
磯波の危険性に対する配慮不十分

裁決主文

 本件転覆は、磯波の危険性に対する配慮が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号  

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年8月11日21時50分
 鹿児島県沖永良部島南東岸
 
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートかおり
総トン数 1.3トン
登録長 5.36メートル
1.90メートル
深さ 0.87メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 44キロワット

3 事実の経過
 かおりは、昭和61年に進水し、船外機を備えた最大とう載人員6人のFRP製プレジャーボートで、船首部に物入れ、中央部に生簀(いけす)、中央部から後部にかけてキャビン、その後方右舷側に操縦席、船尾部に物入れをそれぞれ設けていた。
 A受審人は、平成12年8月に中古のかおりを購入し、月に5度ほど鹿児島県沖永良部島知名漁港付近で専ら一本釣りなどに使用していたところ、同船に1人で乗り組み、友人など3人を同乗させ、花火見物の目的で、船首0.3メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、平成14年8月11日20時20分同漁港を発し、21時05分同漁港北東方約6.5海里のところにある和泊港に至り、港内で漂泊して花火見物を行ったのち、同時30分同港を発し、帰途についた。
 ところで、知名漁港と和泊港間には、陸岸沿いに南西方から北東方にかけてさんご礁帯が連なって存在し、その外側は水深が急に深くなっているので、沖合からのうねりや風浪があるときには、さんご礁帯外縁に沿って高起した磯波が発生しやすい地形となっていた。
 発進するとき、A受審人は、それまで夜間航行の経験が3度ほどしかなかったので、往航と同じように、さんご礁帯外縁を十分に離す沖合に向けた針路で航行することとし、自らは操縦位置である後部右舷側に立ち、同乗者3人を後部中央、船尾部中央、同部左舷側にそれぞれ座らせ、機関を微速力前進にかけ、舵輪を握って船外機を操作し、ゆっくりと右転して南防波堤の東端に向かった。
 21時39分A受審人は、和泊港導灯(前灯)から123度(真方位、以下同じ。)800メートルの地点に達し、南防波堤東端を右舷側30メートルに航過したとき、沖合に向かう215度の針路にしようとして前方を見たところ、予定針路線上近くに漁船の集魚灯の明かりを認めたので、これを避け、針路を同明かりを左舷船首方に見る陸岸寄りの223度に定め、機関を半速力前進とし、10.0ノットの対地速力で進行した。そして、このまま続航すると、陸岸沿いのさんご礁帯外縁に著しく接近し、同外縁に沿って発生した高起した磯波により転覆するおそれがあったが、この針路でも大丈夫と思い、同明かりを右舷側に見て、さんご礁帯外縁を十分に離す沖合に向けた針路として航行するなどの磯波の危険性に対する配慮を十分に行うことなく、同外縁に著しく接近する針路で進行した。
 かおりは、同じ針路及び速力で続航中、21時50分わずか前突然高起した波高約1.5メートルの磯波を右舷正横方から受け、船体が持ち上げられて左舷側に大傾斜し、21時50分和泊港導灯(前灯)から210度3,350メートルの地点において、船首が223度に向いたまま、復原力を喪失して左舷側に転覆した。
 当時、天候は晴で風力3の東南東風が吹き、潮候は下げ潮の初期で、付近には波高約1.5メートルの磯波があった。
 転覆の結果、かおりは北西方に圧流されて間もなくさんご礁に乗り揚げ、船体が大破して全損となった。また、A受審人を含む乗船者全員は海中に投げ出されたが、無事転覆地点北西方の陸岸に漂着した。

(原因)
 本件転覆は、夜間、鹿児島県沖永良部島和泊港において、花火見物を終え、漂泊状態から発進したのち、前方の漁船を避け同島知名漁港に向けて針路を定めようとする際、磯波の危険性に対する配慮が不十分で、陸岸沿いのさんご礁帯外縁に著しく接近する針路で進行し、突然高起した磯波を右舷正横方から受けて左舷側に大傾斜し、復原力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、鹿児島県沖永良部島和泊港において、花火見物を終え、漂泊状態から発進したのち、前方に認めた漁船を避け同島知名漁港に向けて針路を定めようとする場合、陸岸沿いのさんご礁帯外縁に著しく接近する針路で進行すると、同外縁に沿って発生した高起した磯波により転覆するおそれがあったから、同波に遭わないよう、予定針路線上近くの漁船の集魚灯の明かりを右舷側に見て、さんご礁帯外縁を十分に離す沖合に向けた針路として航行するなどの磯波の危険性に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、針路を同明かりを左舷船首方に見る陸岸寄りに定め、この針路でも大丈夫と思い、磯波の危険性に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、陸岸沿いのさんご礁帯外縁に著しく接近する針路で進行し、突然高起した磯波を右舷正横方から受けて左舷側に大傾斜し、復原力を喪失して転覆を招き、さんご礁に乗り揚げ、かおりを全損させるに至った。





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