(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年5月3日15時20分
鹿児島県喜界島湾港
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートわかしお |
登録長 5.12メートル |
幅 1.47メートル |
深さ 0.60メートル |
機関の種類 電気点火機関 |
出力 29キロワット |
3 事実の経過
わかしおは、昭和62年に進水し、船外機を備えた最大とう載人員5人のFRP製プレジャーボートで、船首から順に船首庫、操舵室、長さ約0.54メートル幅約1.45メートル深さ約0.45メートルの生簀(いけす)及び長さ約0.60メートル幅約1.45メートル深さ約0.45メートルの船尾部物入れを設け、操舵室床下と、生簀を挟んで長さ約0.64メートルの中央部甲板下及び長さ約1.01メートルの後部甲板下に深さ約0.30メートルの空気室があり、生簀の底部で前後の空気室はつながっていた。
中央部甲板両舷側の生簀前端付近と、後部甲板両舷側の船尾部物入れ前方約0.30メートルのところのほぼ甲板面には直径3.5センチメートルの甲板用排水口が合計4箇所設けられ、甲板上に打ち込んだ海水を船外に排出するようになっていた。また、船尾部物入れ内部の前面下端にドレン抜きが、後面下端には船外弁が設けられ、それぞれ栓がされていた。
A受審人は、平成元年6月に一級小型船舶操縦士の海技免状を取得し、その後、鹿児島県喜界島湾港の港奥の係留地に係留されたり、物揚場に陸揚げされたりなどしていた父親所有のわかしおを釣りなどの目的で使用していたが、年に数回程度であったので、同船の中央部及び後部甲板に目視で発見困難な微小な亀裂(きれつ)が生じ、いつしか同甲板下の空気室にビルジが滞留し、乾舷の減少と遊動水の存在により復原力がかなり低下した状態にあったことに気付かなかった。
こうして、わかしおは、A受審人が1人で乗り組み、友人3人を同乗させ、魚釣りの目的で、船首0.33メートル船尾0.60メートルの喫水をもって、平成14年5月3日13時20分湾港北防波堤灯台から160度(真方位、以下同じ。)820メートルのところにある係留地を発し、その北西方約900メートルの釣場に向かった。
13時30分A受審人は、操舵室後方生簀のさぶた右舷側に腰掛け、舵輪を握り船外機を操作して釣場に至り、自らは中央部右舷側に、同乗者3人が前部中央、後部左舷側、船尾部右舷側にそれぞれ座って漂泊して釣りを始めた。その後、東方へと釣場を移動し、14時20分ごろ湾港北防波堤の東方約2,000メートルの地点で、4人とも前示の姿勢で漂泊して釣りを行っていたとき、少し右舷側に傾斜して後部甲板右舷側排水口がほとんど水面に接し、海水が人の動きや波による少しの船体動揺で同口から出入りして次第に後部甲板上に滞留していくのに気付いた。
そこで、A受審人は、後部甲板上の海水をバケツを使用して数回汲み出してみたものの、船体は右舷側に傾斜したまま、同甲板右舷側排水口からの海水の流入が続いて同甲板上に滞留し、このまま釣りを続けていると、遊動水の影響も加わり、復原力が著しく減少して少しの外力の影響などで転覆するおそれがあったが、この程度なら大丈夫と思い、釣りを打ち切り、船体姿勢に十分に気を配りながら速やかに帰港する措置をとるなどの復原性に対する配慮を十分に行わなかった。
14時50分A受審人は、湾港北防波堤南側付近の釣場に移動し、潮上りを繰り返しながら機関を中立にして漂泊して釣りを続けた。そして、15時18分船首を同防波堤南側にほぼ直角に着けて釣りを行っていたとき、後部甲板上の海水が増量しているのを認め、船尾部がそれ以上沈まないよう、後部左舷側及び船尾部右舷側に座っていた同乗者に前方に移動するよう指示しながら、自らは中央部で中腰となって同甲板上の海水を汲み出した。
わかしおは、15時20分少し前A受審人が海水の汲み出しを続け、同乗者のうち2人が船首部で湾港北防波堤に係留索をとろうと立っていて、船尾部右舷側に座っていたほかの1人が前方に移動しようとして立ち上がったとき、急激に右舷傾斜が増大し、海水が船尾から浸入して船尾部が沈み始め、15時20分湾港北防波堤灯台から121度170メートルの地点において、船首を021度に向けて、復原力を喪失して瞬時に右舷側に転覆した。
当時、天候は晴で風力2の南東風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、海上にはさざ波があった。
転覆の結果、船外機に濡損を生じたが、のち修理された。また、前底受審人を含む乗船者全員は海中に投げ出されたが、救助船に救助された。
(原因)
本件転覆は、鹿児島県喜界島湾港において、漂泊して魚釣り中、後部甲板右舷側排水口から海水が出入りして同甲板上に滞留する状況となった際、復原性に対する配慮が不十分で、釣りを打ち切り、速やかに帰港するなどの措置がとられず、釣りを続け、船尾部右舷側に座っていた同乗者が前方に移動しようと立ち上がった直後に急激に右舷傾斜が増大し、海水が船尾から浸入して復原力を喪失したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、鹿児島県喜界島湾港において、漂泊して魚釣り中、後部甲板右舷側排水口から海水が出入りして同甲板上に滞留する状況となったのを認めた場合、このまま釣りを続けていると、遊動水の影響も加わり、復原力が著しく減少して少しの外力の影響などで転覆するおそれがあったから、釣りを打ち切り、船体姿勢に十分に気を配りながら速やかに帰港する措置をとるなどの復原性に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、この程度なら大丈夫と思い、復原性に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、釣りを続け、船尾部右舷側に座っていた同乗者が前方に移動しようと立ち上がった直後に急激に右舷傾斜が増大し、海水が船尾から浸入して復原力を喪失して転覆を招き、わかしおの船外機に濡損を生じさせるに至った。