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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 転覆事件一覧 >  事件





平成15年広審第20号
件名

漁船川勝丸転覆事件(簡易)

事件区分
転覆事件
言渡年月日
平成15年5月20日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(関 隆彰)

副理事官
園田 薫

指定海難関係人
A 職名:川勝丸作業責任者

損害
機器類に濡れ損、船体各部にも損傷

原因
クレーンの操作不適切

裁決主文

 本件転覆は、クレーンの操作が不適切で、復原力を超える船体傾斜モーメントが加わったことによって発生したものである。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年1月12日07時00分
 広島県 広島市中区江波沖町沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船川勝丸
総トン数 18.72トン
登録長 14.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 90

3 事実の経過
 川勝丸は、カキ養殖漁業に従事する船尾船橋型FRP製漁船で、船長B及び作業責任者のA指定海難関係人の2人が乗り組み、カキ水揚げの目的で、船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成14年1月12日06時40分広島市中区江波南1丁目の係留地を発し、同区江波沖町沖合のカキ養殖場に向かった。
 B船長は、自身で操船に当たり、06時50分広島港西防波堤灯台から262度(真方位、以下同じ。)3,150メートルの地点に設置してあるカキ筏に到着すると、左舷着けでカキ筏に係留し、父であり、経験もあるA指定海難関係人にクレーンの操作を委ね、自身は筏に降りて、準備作業に従事した。
 ところで、カキ水揚げは、船首甲板にその基部がある旋回クレーンを使用し、長さ9.5メートル重さ数十キログラムの垂下連を複数個一緒に、舷外に振ったブームの先端から下げたフックに掛けて吊り上げ、クレーンを旋回させて船内に取り込むもので、クレーンは、有限会社ケイ.アイ.マシーン製1.5トン吊りで、13.5メートルの長いブームを持つが、船内に取り込む時には、アウトリーチの関係で、80度くらいの角度までブームを立てた状態で使用されていた。
 なお、川勝丸では、船体の割に重量の大きなクレーンが船首甲板上に設置されているだけでなく、ブームを立てて使用しているため、その先端にかかる荷重は船体の重心を上げ、重心を下げる効果を期待できる船倉は空で、舷縁の高さまで板を張った船体前部の作業場所も高い位置にあり、きわめて船体重心の位置が高く、一方、ブームの振り出し時はもちろんのこと、単に船体が傾斜するだけで、力のかかる長いブームの先端は、重心位置から離れ、傾斜モーメントのてこを増大させるため、復原性の確保に、細心の注意が必要とされる状況にあった。
 07時00分少し前、B船長が13本の垂下連をフックに掛け終え、船内でのワイヤー切断の準備のため左舷前部の作業場所に戻ると、A指定海難関係人は、その隣で遠隔装置を操作し、ブームを立てた状態で総重量が1トンに近いカキを吊り上げ、その時点で復原力はまだ残っていたが、自船の復原性に配慮した、適切なクレーン操作を行うことなく、クレーンのスイッチを押し誤り、左に旋回すべきクレーンを右旋回させ、船体がゆっくりと左舷側に傾き始めたものの、そのことに気づかなかった。
 クレーンの旋回につれて、力の作用点であるブームの先端は振り出され、船体傾斜による相乗効果も手伝って、傾斜モーメントのてこが増大し、船体傾斜は加速度的に大きくなり、A指定海難関係人が危険を感ずるいとまもない間に、07時00分広島港西防波堤灯台から262度3,150メートルの地点において、川勝丸は左舷側に転覆した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の中央期であった。
 転覆の結果、機関を始めとする機器類に濡れ損を生じ、船体各部にも損傷を生じたが、のち曳航され、修理された。

(原因)
 本件転覆は、広島県広島市中区江波沖町沖合の養殖カキ筏で水揚げをする際、クレーン操作が不適切で、復原力を超える船体傾斜モーメントが加わったことによって発生したものである。

(指定海難関係人の所為)
 A指定海難関係人が、広島県広島市中区江波沖町沖合の養殖カキ筏で水揚げをする際、船体の復原性に配慮して、適切にクレーン操作を行わなかったことは、本件発生の原因となる。





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