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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 沈没事件一覧 >  事件





平成14年那審第61号
件名

引船第3大平丸沈没事件

事件区分
沈没事件
言渡年月日
平成15年5月29日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(上原 直、坂爪 靖、小須田 敏)

理事官
濱本 宏

受審人
A 職名:第3大平丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
指定海難関係人
有限会社O建設工業 業種名:土木建設業

損害
太平丸・・・船体損傷ない。機器類が濡れ損し、のち解体

原因
ビルジ排水用船外弁の閉止確認不十分、係船する船舶の保安措置指示不十分

主文

 本件沈没は、ビルジ排出用船外弁の閉止確認が不十分で、同弁から逆流した多量の海水が、機関室内に浸入して浮力を喪失したことによって発生したものである。
 土木建設業者が、船長に対し、係船する船舶の保安措置について十分に指示しなかったことは、本件発生の原因となる。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年6月15日15時08分
 沖縄県仲田港 

2 船舶の要目
船種船名 引船第3大平丸
総トン数 19.77トン
登録長 15.00メートル
4.00メートル
深さ 1.45メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 478キロワット

3 事実の経過
 第3大平丸(以下「大平丸」という。)は、昭和54年に進水し、平成2年6月に現船舶所有者が購入した鋼製引船で、A受審人が単独で乗り組み、平成14年6月11日08時00分台風で避難していた沖縄県伊是名島勢理客漁港を台船と共に発し、11時30分同島東岸の仲田港に入港した。
 大平丸は、上甲板下に船首側から順に船首水倉、船員室、機関室及び倉庫などを配置しており、船体中央部に位置する機関室には、ビルジポンプに接続されたビルジ排出系統と、船体右舷中央部の海面上約15センチメートル(以下「センチ」という。)に、船体を貫通して溶接されたビルジ排出口に通じるビルジ排出系統との2系統を設けていた。
 ビルジ排出口は、直径約4センチ長さ約20センチの鋼管製で、機関室側の同管にはバルブ式ビルジ排出用船外弁を設け、同弁に、ビルジポンプの吐出口と接続する約3メートルのビニールホースを取り付けていた。そして、同ビニールホースは、海面より高い同室天井の電気配線の束にスチールバンドを巻き付け、それに環状のステンレス製金具を取り付け、同金具にホースを通して吊り下げた状態にされていた。
 このため、ビルジ排出用のビニールホースを吊り下げたスチールバンドが切断すると、同ホースが機関室床上に落ちてホースの他端が海面下になることから、機関室内に海水が浸入することがないようビルジ排出用船外弁の閉止確認を行う必要があった。
 指定海難関係人有限会社O建設工業(以下「O建設」という。)は、沖縄島及び周辺諸島で港湾工事などを請け負ったとき、大平丸を用いて同工事現場付近まで空の台船を曳航させ、その工事が終了するまでの間、何箇月も当地に係船することから船長を選任しておらず、曳航作業を行うときは、有資格の社員を臨時の船長として乗船させ、運航していた。
 ところで、O建設は、大平丸を無人状態にして係船させるにあたり、当該船長が船舶の運航管理に慣れているので、ビルジ排出用船外弁等の船体付弁の閉止確認などの保安措置を行っているものと思い、係船する船舶の保安措置について十分に指示していなかった。
 A受審人は、O建設が所有する他の引船の船長で、社命により仲田港に係留中の台船を勢理客漁港へ台風避難させるため、同年6月9日に初めて大平丸に乗船したもので、同船を操船して仲田港に戻ったところで、公共岸壁の南端に係留した台船に大平丸を左舷付けして係船した。
 A受審人は、機関室に入って主機を停止させたのち、係船開始にあたって機関室内を点検したとき、ビニールホースを接続したビルジ排出用船外弁が開放されており、同ホース内に海水が潜入していることが分かる状況であったが、船尾管からの漏水を認めたため、同管を増締めして浸水防止措置をとったのち、機関室内のビルジ量に変化がなかったことから、ビルジ排出用船外弁等の船体付弁は閉まっているものと思い、ビルジ排出用船外弁の閉止確認を十分に行わなかった。
 こうして、大平丸は、仲田港において無人状態で係船中、いつしか前示のスチールバンドが腐食切断してビニールホースが機関室床上に落ち、港内のうねりやフェリーなどの航走波で生じる波浪により、開放状態になっていたビルジ排出用船外弁の排出口が海中に没するたびに、同弁から逆流した多量の海水が機関室内に浸入し続け、同月15日15時08分仲田港東防波堤灯台から真方位259度510メートルの地点において、浮力を喪失して沈没した。
 当時、天候は曇で風力3の南南西風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
 沈没の結果、船体に損傷はなかったものの、機器類が濡れ損し、後日引き上げられたのち解体処理された。

(原因)
 本件沈没は、沖縄県仲田港において、大平丸を無人状態にして係船する際、ビルジ排出用船外弁の閉止確認が不十分で、港内のうねりや波浪により同弁から逆流した多量の海水が、機関室内に浸入して浮力を喪失したことによって発生したものである。
 土木建設業者が、大平丸を無人状態にして係船する際、船長に対し、ビルジ排出用船外弁等の船体付弁の閉止確認など、係船する船舶の保安措置について十分に指示しなかったことは、本件発生の原因となる。

(受審人等の所為)
 A受審人は、沖縄県仲田港において、大平丸を無人状態にして係船する場合、港内のうねりや波浪により、ビルジ排出用船外弁等の船体付弁から海水が機関室内に浸入することがないよう、同弁の閉止確認を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、船尾管の浸水防止措置をとったのち、機関室のビルジ量に変化がなかったことから、ビルジ排出用船外弁等の船体付弁は閉まっているものと思い、船体付弁の閉止確認を十分に行わなかった職務上の過失により、係船中、ビルジ排出用船外弁に接続したビニールホースを機関室天井近くまで吊っていたスチールバンドが腐食切断して同ホースが機関室床上に落ち、港内のうねりや波浪により開放状態になっていた同弁から逆流した多量の海水が、機関室内に浸入して浮力を喪失させて沈没させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 O建設が、大平丸を無人状態にして係船する際、船長に対し、ビルジ排出用船外弁等の船体付弁の閉止確認など、係船する船舶の保安措置について十分に指示しなかったことは、本件発生の原因となる。
 O建設に対しては、本件以降、係船する船舶の保安措置について、船体付弁の閉止確認を徹底させるなど、改善措置をとっている点に徴し、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





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