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平成14年神審第120号
件名

旅客船フェニックス7沈没事件

事件区分
沈没事件
言渡年月日
平成15年5月23日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(中井 勤、田邉行夫、相田尚武)

理事官
杉崎忠志

受審人
A 職名:フェニックス7船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:フェニックス7船舶所有者

損害
両舷船底外板に生じた複数の破口部から機関室などに浸水、全損

原因
漂流防止措置不十分

主文

 本件沈没は、陸岸近くにおいて漂泊中、漂流防止の措置が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年7月20日20時30分
 大阪港堺泉北区
 
2 船舶の要目
船種船名 旅客船フェニックス7
総トン数 13トン
全長 16.51メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 514キロワット
回転数 毎分2,170

3 事実の経過
 フェニックス7は、昭和58年4月に進水したクルーザー型FRP製旅客船兼交通船で、船首甲板上にキャプスタン、船体中央部に操舵室、同室下部に機関室、機関室を挟んで船首側に船室、船尾側に後部倉庫を配置し、操舵室内には操縦台及び分電盤等が、また、機関室内には2機の主機が左右対称の位置に据え付けられていた。
 機関室は、その主要寸法が長さ約4.5メートル幅約3.5メートル高さ約2メートルで、右舷主機後方に、端子電圧12ボルト容量130アンペア時の蓄電池2個を直列接続した2組の蓄電池が、各主機の始動用として設置され、そのうち1組の蓄電池から、ビニル絶縁電線が、機関室天井に沿い、さらに、操舵室床を貫通して敷設され、同室内左舷側壁面に設置された分電盤内のノーヒューズブレーカに接続されていた。
 操縦台は、主機用各計器及び遠隔始動スイッチ並びにレーダー等の航海計器などで構成され、それぞれ分電盤から供給される電源によって機能するようになっていた。
 平成12年3月B指定海難関係人は、フェニックス7を転売する目的で購入し、同年10月老朽化していた分電盤の更新工事を自ら行ったとき、新しい分電盤を前示位置にビス止めにて取り付けたものの、買い手がつかず、いつしか同ビスが脱落するなどして、同盤が同室床上に落下した状態のまま同船を長期間にわたって係留していた。
 越えて平成14年2月フェニックス7は、大阪湾での埋立て工事に携わる作業員送迎用として使用されるようになり、4月1日A受審人が前任の船長と交代して運航を請け負ったものの、同月末に工事が中断したことから、B指定海難関係人から委託を受けた同受審人の管理のもとで再び係留されることとなった。
 その後、フェニックス7は、使用されない状態が続いていたが、A受審人が大阪湾で催される花火大会を海上から見物することを思い立ち、同受審人が船長として1人で乗り組み、友人など12人を乗せ、船首0.35メートル船尾0.84メートルの喫水をもって、7月20日19時45分大阪港堺泉北区の浜寺第1号物揚場を発し、沖合に向かった。
 フェニックス7は、20時00分堺浜寺北防波堤灯台から298度(真方位、以下同じ。)750メートル水深約10メートルの地点に至って両舷主機をアイドリング状態とし、花火を見物するために漂泊を始めたところ、蓄電池から分電盤に給電する前示電線が短絡したかして機関室内で発煙し、同時05分操舵室にいたA受審人がこのことを認め、直ちに主機を停止したが、同電線が損傷したことにより、分電盤に給電されない事態となった。
 20時15分A受審人は、フェニックス7が折からの風浪により北東方向の陸岸に向け圧流され始めたことを認め、後部倉庫内に保管してあった錨及び長さ約30メートルの錨索を取り出し、圧流を止めるために、急ぎ水深約10メートルのところに投錨することにしたが、近距離に迫った護岸用消波ブロックに気をとられ、索端を船体に固縛するなどの措置をとることなく投錨したので、そのまま錨を流失した。
 こうして、フェニックス7は、主機を始動することも、また、錨泊することもできないまま、陸岸に向かって圧流される状況のもと、A受審人が付近にいた友人のプレジャーボートに救助を依頼したが間に合わず、堺市築港新町西側岸壁に設置されていた護岸用消波ブロックに左舷側を乗り揚げたのち、風浪にあおられ、両舷側が同ブロックへの衝突を繰り返すうち、両舷船底外板に生じた複数の破口部から機関室などに浸水したことにより、同受審人ほか同乗者全員が護岸に待避したのち、20時30分堺浜寺北防波堤灯台から357度1,250メートルの地点において、浮力を喪失して沈没した。
 当時、天候は晴で風力3の西南西風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
 沈没の結果、フェニックス7は、後日引き揚げられたものの、全損となった。

(原因)
 本件沈没は、陸岸近くにおいて、主機が始動不能の状態で漂泊中、錨索とともに倉庫に保管してあった錨を持ち出して投錨する際、漂流防止の措置が不十分で、風浪によって護岸用消波ブロックに圧流され、同ブロックに繰り返し衝突して船底外板に生じた複数の破口部から機関室などに海水が流入し、浮力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、陸岸近くにおいて、主機が始動不能の状態で漂泊中、錨索とともに倉庫に保管してあった錨を持ち出して投錨する場合、確実に停船させることができるよう、錨索を船体に固縛するなどの漂流防止の措置をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、近距離に迫った護岸用消波ブロックに気をとられ、同索を船体に固縛するなどの漂流防止の措置をとらなかった職務上の過失により、錨を流失し、風浪に圧流された船体を同ブロックに繰り返し衝突させ、船底外板に生じた複数の破口部から多量の海水が機関室などに流入したことにより、船体の浮力が喪失して沈没を招き、全損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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