(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年10月20日04時25分
東京湾
2 船舶の要目
船種船名 |
押船第三岬秀丸 |
被押バージ葛城 |
総トン数 |
134トン |
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登録長 |
30.15メートル |
83.5メートル |
幅 |
9.60メートル |
20.0メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関2機 |
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出力 |
2,942キロワット |
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3 事実の経過
第三岬秀丸(以下「岬秀丸」という。)は、鋼製押船で、A受審人ほか4人が乗り組み、空倉で船首2.5メートル船尾3.5メートルの喫水となった鋼製土砂運搬バージ葛城(以下「バージ」という。)の船尾凹部に、船首部をかん合して全長約100メートルの押船列を構成し、船首1.5メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、平成14年10月19日15時00分伊勢湾の中部国際空港の埋立工事現場を発し、千葉県木更津港に向かった。
翌20日03時30分A受審人は、浦賀水道航路南口南方沖で昇橋し、その後単独で船橋当直に当たり同航路を北上中、04時00分第2海堡灯台から148度(真方位、以下同じ。)3.9海里の地点に達したとき、針路を325度に定め、機関を全速力前進にかけ、9.5ノットの対地速力で自動操舵により、レーダー2台を作動させて進行した。
間もなく、A受審人は、右舷船首方の浦賀水道航路外に、白1灯表示の漁船を認め、動静を監視していたところ、同漁船が浦賀水道航路中央第5号灯浮標付近まで西航の後、いったん停止し、その後わずかな前進行きあしをもって、東方に移動し始めたことを知った。
A受審人は、前示漁船の船首方を航過する目的をもって、04時19分半第2海堡灯台から162度1,600メートルの地点で、自動操舵のまま針路を337度に転じて航行したが、その後同漁船の接近模様に気を取られ、正船首わずか右方から第2海堡灯台の灯光を浴びる状況下、同海堡までの距離を具体的に把握できるよう、レーダーにより第2海堡までの距離をとって、船位の確認を十分に行うことなく、機関回転数を少し減少させたものの、ほぼ同一の速力で続航した。
こうして、A受審人は、第2海堡南西端部への異常接近模様に気付かず、減速して左転するなどの時機を失して進行中、04時25分少し前、前示漁船がバージの左舷中央部の少し後方至近に迫ったとき、ようやく乗揚の危険を感じ、左舵一杯としたが間に合わず、04時25分第2海堡灯台から258度120メートルの地点において、ほぼ同一の針路速力のまま、第2海堡南西端部の浅所にバージの右舷船首部が乗り揚げた。
当時、天候は曇で風力3の北風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、視界は良好であった。
乗揚の結果、押船列は西方を向いて静止し、のち曳船により引き降ろされ、岬秀丸はコルトノズルに擦過傷を、バージは船底部に破口及び凹損を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、浦賀水道航路を北上中、船位の確認が不十分で、第2海堡南西端部の浅所に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、単独で船橋当直に当たり、浦賀水道航路を北上中、白1灯表示の漁船が浦賀水道航路中央第5号灯浮標付近まで西航の後、いったん停止し、その後わずかな前進行きあしをもって、東方に移動し始めたことを知り、同漁船の船首方を航過する目的をもって、針路を右方に転じて航行する場合、正船首わずか右方から第2海堡灯台の灯光を浴びる状況下、同海堡までの距離を具体的に把握できるよう、レーダーにより同海堡までの距離をとって、船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。
しかるに、同人は、漁船の接近模様に気を取られ、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、第2海堡南西端部への異常接近模様に気付かず、減速して左転するなどの時機を失し、同南西端部の浅所へ向首進行して乗揚を招き、岬秀丸はコルトノズルに擦過傷を、バージは船底部に破口及び凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。