(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年9月19日16時20分
北海道礼文島北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第18神與丸 |
総トン数 |
19.43トン |
全長 |
19.90メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
478キロワット |
3 事実の経過
第18神與丸(以下「神與丸」という。)は、いか一本釣り漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人(昭和50年6月一級小型船舶操縦士免状取得)ほか2人が乗り組み、船首0.7メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、平成14年9月19日12時05分北海道稚内港を発し、礼文島北西方沖合の漁場に向かった。
ところで、神與丸は、1月九州沖合の漁場でいか漁を開始して日本海の漁場を北上し、8月31日稚内港に入港して以来同港を基地に毎月10日と毎週土曜日の休漁日を除き、12時ごろ出港し夜間操業を行って翌朝09時過ぎ帰港する形態の出漁を繰り返していた。A受審人は、基地と漁場間の往復の船橋当直に単独で当たり、漁場では操業指揮の合間に数時間の休息をとるだけで、停泊中も水揚げ後は次の出漁準備に追われ、十分な休息をとれないまま出漁し、睡眠不足が続き疲労が蓄積した状態になっていた。
出港後、A受審人は、乗組員を休息させ、単独の船橋当直に就いて西北西進し、14時46分半海驢(とど)島灯台から068度(真方位、以下同じ。)13.8海里の地点に達したとき、折から南西風が強く海上が時化ているので、礼文島の島陰に入ってしばらく航行してから同島北側の金田ノ岬北方沖合で漁場に向け転針するつもりで、針路を礼文島北方に向く255度に定め、機関を全速力前進にかけて8.5ノットの対地速力とし、物入れ箱に腰をかけ見張りに当たって自動操舵により進行した。
15時52分半A受審人は、海驢島灯台から053度4.6海里の地点に達したとき、睡眠不足と蓄積した疲労に加え島陰に入った安堵感もあって、眠気を催したが、もう少しで漁場に到着するので眠気を我慢できるものと思い、休息中の乗組員を起こして見張りに当たらせるなど、居眠り運航の防止措置をとることなく続航するうち、いつしか居眠りに陥った。
こうして、神與丸は、居眠り運航となり、漁場に向け転針が行われず、礼文島北方の水上岩に向首し、同一針路、速力のまま進行中、16時20分海驢島灯台から357度1.7海里の地点において、原針路、原速力で、水上岩に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力5の南西風が吹き、潮候はほぼ高潮時にあたり、強風波浪注意報が発表されていた。
乗揚の結果、神與丸は、球状船首部に亀裂を伴う凹損等を生じたが、自力離礁し、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、北海道稚内港から礼文島北西方沖合の漁場に向け航行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、同島北方の水上岩に向首したまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、単独の船橋当直に就き、稚内港から礼文島北西方沖合の漁場に向け自動操舵により航行中、眠気を催した場合、連日の出漁で睡眠不足が続き疲労が蓄積していたから、居眠り運航とならないよう、休息中の乗組員を起こして見張りに当たらせるなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。ところが、同受審人は、もう少しで漁場に到着するので眠気を我慢できるものと思い、休息中の乗組員を起こして見張りに当たらせるなど、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、礼文島北方の水上岩に向首したまま進行して同岩に乗り揚げる事態を招き、神與丸の球状船首部に亀裂を伴う凹損等を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。