(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年5月8日14時39分
北海道珸瑶瑁水道
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第三十五進洋丸 |
総トン数 |
173トン |
全長 |
39.82メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
698キロワット |
3 事実の経過
第三十五進洋丸(以下「進洋丸」という。)は、さけ・ます流し網漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人ほか13人が乗り組み、出漁準備のため北海道花咲港に回航する目的で、船首1.5メートル船尾4.2メートルの喫水をもって、平成14年5月7日13時00分宮城県気仙沼港を発した。
A受審人は、北上を続け、翌8日正午ごろ落石岬の南西16海里付近に至り、船主から仕向け港を北海道根室港に変更する旨を指示され、珸瑶瑁水道を通航することとなり、昇橋して針路を同水道南口沖に向けて船橋当直者に引き継ぎ、降橋した。
ところで、珸瑶瑁水道は、根室半島東端と同端東沖に位置する貝殻島周辺の貝殻浅瀬との間を南北に通航する狭水道で、同水道南口の珸瑶瑁埼の南南東方約1海里には、猫頭礁と称する洗岩が存在していた。また、A受審人は、珸瑶瑁水道の航行経験が豊富で、猫頭礁の存在や同礁付近の定置網設置状況等を熟知しており、平素、同水道を航行する際、猫頭礁付近に設置された定置網を避けて珸瑶瑁埼を大きく離す針路をとることによって同礁を無難に航過していた。
13時00分A受審人は、落石岬灯台から168度(真方位、以下同じ。)5海里ばかりの地点で単独の船橋当直に就き、同時43分同灯台から079.5度7.3海里の地点に到達したとき、珸瑶瑁水道南口に接近するため、少し左転することとしたが、定置網漁業の漁期前で同礁付近の定置網が未だ設置されていなかったことから、航程を短縮するため、少し陸岸に寄せても大丈夫と思い、猫頭礁を十分に離す針路を選定することなく、針路を貝殻島に向首する032度に定めたので同礁が針路線上となったことに気付かないまま機関を全速力前進にかけ、12.5ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
こうして進洋丸は、猫頭礁に向首して同一針路、速力のまま続航中、14時39分納沙布岬灯台から174度2.0海里の地点において、原針路、原速力で同礁に乗り揚げ、これを乗り切った。
当時、天候は晴で風力1の南東風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
A受審人は、衝撃によって乗り揚げたことを知り、事後の措置に当たった。
乗揚の結果、進洋丸は船尾部船底外板に亀裂を伴う凹損、プロペラ翼及び同軸に曲損等を生じて自力航行不能となり、巡視船等により花咲港に引き付けられ、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、珸瑶瑁水道南口に向け北上する際、針路の選定が不適切で、猫頭礁に向首して進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、珸瑶瑁水道南口沖合において、同水道南口に向けて針路を定める場合、珸瑶瑁水道の航行経験が豊富で猫頭礁の存在を知っていたのだから、同礁に著しく接近することのないよう、猫頭礁を十分に離す針路を選定すべき注意義務があった。ところが、同人は、猫頭礁付近の定置網が未だ設置されていなかったことから、航程を短縮するため、少し陸岸に寄せても大丈夫と思い、猫頭礁を十分に離す針路を選定しなかった職務上の過失により、同礁に向首したことに気付かないまま進行して乗揚を招き、進洋丸の船尾部船底外板に亀裂を伴う凹損、プロペラ翼及び同軸に曲損等を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。