(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年3月12日02時20分
沖縄県糸満漁港沖
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第三恵比寿丸 |
総トン数 |
19トン |
登録長 |
17.39メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
360キロワット |
3 事実の経過
第三恵比寿丸(以下「恵比寿丸」という。)は、船体中央部に操舵室を設け、主に延縄(はえなわ)漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか3人が乗り組み、かんぱち一本釣り漁の目的で、船首1.0メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成14年3月12日02時00分沖縄県糸満漁港を発し、同県久米島の北西方約80海里の漁場に向かった。
ところで、糸満漁港は、東西方向に延びる糸満漁港第2防波堤と同漁港第3防波堤とによって形成され、南に向いて開口した防波堤入口を有し、同入口沖には、干出さんご礁などが拡延する水域を通ってほぼ西方に向かう長さ約1.2海里、可航幅150メートルないし200メートルの西水路とほぼ南西方に向かう長さ約1海里、最小可航幅140メートルの南水路とが設けられていた。このため、両水路を航行する船舶は、水路を逸脱して干出さんご礁などに乗り揚げることのないよう、各水路に沿って敷設された側面標識を用いるなどして船位の確認に努める必要があった。
沖縄県は、平成13年秋から翌14年3月25日までの昼間に、糸満港西水路第3号灯浮標(以下、灯浮標の呼称については「糸満港」を略す。)の西方150メートルにあたる、エージナ島三角点から323度(真方位、以下同じ。)1,980メートルの地点を北東端として、西水路に沿った長さ340メートル幅180メートルの区域内で、グラブ式浚渫船1隻による水深7メートルに掘り下げる浚渫作業を実施しており、海上保安庁発行の水路通報などで同作業区域及び実施期間等の周知を図るとともに、灯付浮標を設置して浚渫作業位置を示していた。
A受審人は、それまで専ら西水路を航行して数多く糸満漁港に寄港していたことから、同水路の状況を十分に承知していたうえに、前々日の入航時に、前示浚渫船が西水路第3号灯浮標の南南西方260メートルの西水路南側端にあたる、エージナ島三角点から320度1,810メートルの地点に位置しているのを視認していた。
離岸後、A受審人は、単独で操船に当たって糸満漁港内を防波堤入口に向けて南下し、02時10分半西水路第5号灯浮標の南東方50メートルにあたる、エージナ島三角点から356度1,780メートルの地点で、針路を254度に定め、機関を微速力前進にかけて4.0ノットの対地速力で、西水路に沿ってその中央付近を手動操舵により進行した。
A受審人は、02時16分わずか過ぎエージナ島三角点から335度1,760メートルの地点に達したとき、左舷船首10度460メートルのところに浚渫船の灯火を認めたことから、距離を保って同船の北側を航過するつもりで265度の針路に転じたところ、西水路の北側に拡延する干出さんご礁の南東端に向首進行する態勢となったが、その後浚渫船から距離を保つことに気をとられ、水路から逸脱することのないよう、西水路の側面標識を用いるなどして船位の確認を十分に行うことなく続航した。
A受審人は、02時18分半エージナ島三角点から326度1,890メートルの地点に差し掛かり、西水路の入口に向けて左転しうる状況となり、さらに同時19分わずか過ぎ西水路第1号及び同第3号両灯浮標を結ぶ線上に至って西水路を逸脱する状況となったものの、依然として船位確認不十分で、これらの状況に気付かないまま進行し、恵比寿丸は、02時20分エージナ島三角点から321度2,000メートルの地点において、原針路、原速力のまま同水路の北側に拡延する干出さんご礁南東端に乗り揚げ、これを乗り切った。
当時、天候は晴で風力1の東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
乗揚の結果、プロペラ羽根及びプロペラ軸に曲損、並びにビルジキールに破損を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件乗揚は、夜間、沖縄県糸満漁港沖の干出さんご礁などが拡延する水域に設けられた西水路を航行中、船位の確認が不十分で、同水路を逸脱して進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、沖縄県糸満漁港沖の干出さんご礁などが拡延する水域に設けられた西水路を航行する場合、水路を逸脱して進行することのないよう、同水路に沿って敷設された側面標識を用いるなどして船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、西水路南側端に位置していた浚渫船から距離を保つことに気をとられ、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、同水路を逸脱したことに気付かず、干出さんご礁に向首進行して乗揚を招き、プロペラ羽根及びプロペラ軸に曲損、並びにビルジキールに破損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。