(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年8月26日15時30分
沖縄県竹富島南岸沖(大原航路)
2 船舶の要目
船種船名 |
旅客船うみえーる |
総トン数 |
19トン |
全長 |
18.12メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
672キロワット |
3 事実の経過
うみえーるは、2機2軸を備えた船首船橋型軽合金製旅客船で、A受審人ほか甲板員1人が乗り組み、潜水用機材などを輸送する目的で、船首0.60メートル船尾1.75メートルの喫水をもって、平成14年8月26日15時15分沖縄県石垣港を発し、同県西表島仲間港に向かった。
これより先、A受審人は、平成14年8月1日にうみえーるの運航管理会社である有限会社ぱいぬ島海洋観光に入社し、同年10月下旬からの同船による仲間港を基地とする黒島及び新城島周辺における海中観光を目的とした運航開始にあたり、台風接近時の避難港を石垣港と定めていたことなどから、船内に海図W1206(八重山列島、縮尺10万分の1)及び財団法人日本水路協会発行の小型船用簡易港湾案内「南西諸島」を備えていたものの、石垣島南岸から西表島東岸にわたって拡延するさんご礁海域内に設けられた大原航路と称する水路(以下「大原航路」という。)の状況を把握しておくこととし、同航路を2往復して水路状況に詳しい元旅客船船長の指導を受けていた。
A受審人は、大原航路を航行しながら前示指導を受けたものの、干出さんご礁や洗岩などの険礁が散在する複雑な水路状況を十分に把握することができず、自らが操船して同航路を航行することに不安を覚えていたが、大原航路内の各要所に敷設されていた立標に沿って、旗竿などの標識で示された険礁を避けながら航行すれば乗り揚げることはないものと思い、同航路を航行するつもりで発航する際、海図W1285(石垣港付近、縮尺3万分の1)を入手するなどして大原航路内の険礁の所在を確認するなど、水路調査を十分に行わなかった。
A受審人は、甲板員を操舵室中央の舵輪に就け、自らがその左舷側に立って操船にあたり、竹富島南東岸沖の干出さんご礁間に設けられた竹富南航路を航行したのち、15時27分わずか過ぎ同島南岸沖にある大原航路第2号立標(以下、立標の呼称については「大原航路」を略す。)から082.5度(真方位、以下同じ。)1,090メートルの地点で、針路を同立標のわずか左側に向かう262度に定め、機関を半速力前進にかけて16.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
A受審人は、折から太陽の光を正船首方から受け、前路の海水の変色模様を見分けることが難しい状況のもと、15時29分少し過ぎ第2号立標から172度7メートルの地点に達したとき、第4号立標の手前に干出さんご礁の存在を示す発泡スチロールと旗竿を認めたので、同さんご礁を左舷側に替わしたのち、第4号立標の左側に向けるつもりで、針路を同立標のわずか右側に向く258度に転じて続航した。
転針したとき、A受審人は、300メートル前方の第2号立標と第4号立標との中間付近に存在する標識が設置されていない洗岩に向首する態勢となったが、水路調査不十分でこのことに気付かず、その後同じ針路、同じ速力で進行中、15時30分うみえーるは、第2号立標から255度300メートルの地点において、前示洗岩に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力2の南風が吹き、潮候はほぼ低潮時であった。
乗揚の結果、プロペラ羽根及びプロペラ軸などに曲損を生じたが、自力で離礁して石垣港に戻り、のちいずれも修理された。
(原因)
本件乗揚は、ほぼ低潮時、沖縄県石垣島南岸から同県西表島東岸にわたって拡延するさんご礁海域内に設けられた大原航路を航行するつもりで発航する際、水路調査不十分で、竹富島南岸沖に存在する洗岩に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、ほぼ低潮時、沖縄県石垣島南岸から同県西表島東岸にわたって拡延するさんご礁海域内に設けられた大原航路を航行するつもりで発航する場合、大縮尺の海図にあたって険礁の所在を確認するなど、水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、大原航路内の各要所に敷設されていた立標に沿って、旗竿などの標識で示された険礁を避けながら航行すれば乗り揚げることはないものと思い、発航に先立って水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、竹富島南岸沖に標識が設置されていない洗岩が存在することに気付かず、これに向首進行して乗揚を招き、プロペラ羽根及びプロペラ軸などに曲損を生じさせるに至った。