(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年10月20日06時45分
長崎県対馬東岸
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第十八海王丸 |
総トン数 |
16トン |
全長 |
19.95メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
467キロワット |
3 事実の経過
第十八海王丸(以下「海王丸」という。)は、主にいか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成13年10月19日15時30分長崎県対馬櫛湾の係留場所を発し、同湾東方沖合12海里付近の漁場へ向かった。
17時30分A受審人は、前示漁場に到着して翌20日早暁まで操業を行い、いか約210キログラムを獲たのち、発航地へ向けて帰途に就き、同日05時00分琴埼灯台から072度(真方位、以下同じ。)13.8海里の地点で、針路を235度に定め、機関を回転数毎分1,500の全速力前進にかけ、11.8ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、自動操舵によって進行した。
ところで、当時、A受審人は、連日15時ごろに出港し、夕刻、漁場に到着して翌日の早暁までいか漁を行い、07時ごろに帰港して水揚げ作業を行うという就業形態で出漁を繰り返していたのであるが、平素、水揚げを終えて11時ごろから出港前の15時ごろまで約4時間の睡眠を取っていたものの、19日は月末に控えた息子の結婚式の打合せなどの所用に追われ、13時ごろから約2時間しか睡眠を取ることができなかったので、いつもより睡眠が不足した状態であったうえ、漁港と漁場間の往復航中には、もう1人の乗組員である甲板員の実弟を休ませて自らが操舵操船に当たり、漁場においては、全く休息が取れない状況下での操業が既に4日以上に渡って連続していたことから、疲労が蓄積した状態であった。
定針したのち、A受審人は、実弟を休息させ、操舵スタンド後方の一段高くなったところに前方を向いた姿勢で腰を掛け、1人で操舵操船に当たっていたところ、20日06時10分琴埼灯台から151度4.1海里の地点に差し掛かったころ、睡眠不足であったうえ疲労が蓄積していたことなどに起因して眠気を催すようになり、そのまま1人で当直を続けていると居眠りに陥るおそれがあったが、これまで長年に渡り同様の就業形態で操業に従事していたものの、一度も居眠りに陥ったことがなかったので、まさか居眠りに陥ることはあるまいと思い、休息中の実弟を起こして2人当直とするなどの居眠り運航を防止する措置を十分に取ることなく続航した。
こうして、A受審人は、06時27分少し前対馬長崎鼻灯台から043度3.9海里の地点に達したとき、櫛湾の湾口へ向ける針路としたつもりが、依然として、居眠り運航を防止する措置を十分に取らなかったので、転針した直後、その針路の安全を確認することなく居眠りに陥り、自船が陸岸へ向首したことに気付かないまま進行中、06時45分対馬長崎鼻灯台から334度1.3海里の地点において、海王丸は、243度の針路、原速力で、対馬東岸の岩礁に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力5の北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
乗揚の結果、推進器翼に曲損、船底外板全面に亀裂を伴う凹損を生じたが、自力離礁して帰港し、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、長崎県対馬東方沖合の漁場から発航地へ向けて帰航中、居眠り運航を防止する措置が不十分で、同島東岸の岩礁へ向けて進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、長崎県対馬東方沖合において、1人で操舵操船に当たり、漁場から発航地へ向けて帰航中、眠気を催した場合、1人当直のままだと睡眠不足であったうえ疲労が蓄積していたことなどに起因して居眠りに陥るおそれがあったから、居眠り運航とならないよう、休息中の実弟を起こして2人当直とするなどの居眠り運航を防止する措置を十分に取るべき注意義務があった。ところが、同受審人は、これまで一度も居眠りに陥ったことがなかったので、まさか居眠りに陥ることはあるまいと思い、居眠り運航を防止する措置を十分に取らなかった職務上の過失により、櫛湾の湾口へ向ける針路としたつもりが、転針した直後、その針路の安全を確認することなく居眠りに陥り、自船が陸岸へ向首したことに気付かないまま進行して対馬東岸の岩礁への乗揚を招き、推進翼に曲損、船底外板全面に渡って亀裂を伴う凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。