(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年6月2日16時00分
鹿児島湾
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボート第三航純丸 |
総トン数 |
9.7トン |
全長 |
17.30メートル |
登録長 |
13.18メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
382キロワット |
3 事実の経過
第三航純丸は、FRP製小型遊漁兼用船で、A受審人が1人で乗り組み、知人5人を乗せ、釣りの目的で、船首0.50メートル船尾1.60メートルの喫水をもって、平成14年6月2日06時30分鹿児島港谷山区の定係地を発し、鹿児島市吉野町竜ヶ水沖合の釣り場に向かい、07時00分同釣り場に到着し、養殖いかだに係留して知人とともに竿釣りを始めた。
A受審人は、12時ごろから船内で昼食をとり、その際、容量350ミリリットルの缶ビール1缶とワインをコップで2杯飲み、午後も同養殖いかだに係留して釣りを続けた。
A受審人は、15時30分釣りを終え、知人5人を船尾甲板で休息させ、同時50分鹿児島港本港東B防波堤南灯台(以下「防波堤南灯台」という。)から031度(真方位、以下同じ。)3.4海里の地点を発進し、定係地に向けて帰途に就いた。
A受審人は、発進するに当たり、同日早朝から釣りに出かけることになっていつもより睡眠時間が短かく、長時間釣りをしたことに加えて昼食時に飲酒していたから、いすに腰を掛けたまま操船を続けると、疲れが出て居眠り運航となるおそれがあった。しかし、同受審人は、短時間で定係地に帰り着くので、それまで居眠りに陥ることはないものと思い、操舵室右舷側で背もたれのあるいすに腰を掛けて単独で操船を行い、いすから立ち上がって外気に当たりながら操船を行うなど、居眠り運航の防止措置をとることなく、鹿児島市三船埼東方約200メートルに向けて南下した。
15時54分A受審人は、防波堤南灯台から040度2.6海里の地点において、三船埼に並航したとき、針路を204度に定め、機関を回転数毎分2,000の全速力前進にかけ、20.0ノットの対地速力で、鹿児島港谷山区にあるガスタンクを船首目標として、いすに腰を掛けたまま手動操舵により進行していたところ、同時55分同灯台から043度2.2海里の地点に差し掛かったころ、左手で舵輪を握ったまま居眠りに陥り、間もなく、舵輪がわずかに右に回って徐々に右回頭が始まったが、このことに気付かずに続航した。
こうして、A受審人は、右舵が少しとられた状態となって右回頭しながら進行し、15時58分防波堤南灯台から037度1.4海里の地点に達して、船首が西南西方を向いたとき、右舷船首方の鹿児島市磯海岸まで約1,200メートルとなり、このまま右回頭を続けると、同海岸に乗り揚げるおそれがあったが、依然として、居眠りを続け、このことに気付かないまま更に右回頭し、やがて同海岸に向首するようになり、16時00分防波堤南灯台から011度1,990メートルの地点において、第三航純丸は、船首が270度を向いたとき、原速力のまま、磯海岸の砂浜に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力1の東南東風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
A受審人は、衝撃が少なかったことから、乗揚に気付かず、しばらくして目が覚め、乗り揚げたことを知った。
乗揚の結果、第三航純丸は、推進器翼に曲損を生じたが、のち修理された。
(原因)
本件乗揚は、鹿児島湾において、釣りを終えて定係地に向け帰航中、居眠り運航の防止措置が不十分で、右舵が少しとられた状態となって徐々に右回頭しながら、鹿児島市磯海岸に向けて進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、鹿児島湾において、釣りを終え、鹿児島市吉野町竜ヶ水沖合の釣り場から定係地に向けて帰航する場合、いつもより睡眠時間が短かく、長時間釣りをしたことに加えて昼食時に飲酒していたので、いすに腰を掛けたまま操船を続けると、疲れが出て居眠り運航となるおそれがあったから、いすから立ち上がって外気に当たりながら操船するなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、短時間で定係地に帰り着くので、それまで居眠りに陥ることはないものと思い、いすに腰を掛けたまま操船を続け、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、左手で舵輪を握ったまま居眠りに陥り、舵輪がわずかに右に回って右舵が少しとられた状態となり、徐々に右回頭しながら進行して鹿児島市磯海岸の砂浜に乗り揚げ、推進器翼を曲損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。