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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成15年長審第14号
件名

漁船漁盛丸漁船あゆみ丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年6月10日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(清重隆彦、原 清澄、寺戸和夫)

理事官
金城隆支

受審人
A 職名:漁盛丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:あゆみ丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
あゆみ丸・・・右舷船尾部を破損、船長が顔面多発骨折
漁盛丸・・・船底外板に擦過傷

原因
あゆみ丸・・・法定灯火不表示、見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守

主文

 本件衝突は、あゆみ丸が、法定灯火の点灯確認が不十分で、同灯火を適切に表示しなかったばかりか、見張り不十分で、後方から接近する漁盛丸に対して衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したものである。
 受審人Bの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年9月26日05時43分
 鹿児島県獅子島港
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船漁盛丸 漁船あゆみ丸
総トン数 4.9トン 1.98トン
登録長 12.47メートル 7.0メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 422キロワット  
漁船法馬力数   45

3 事実の経過
 漁盛丸は、船体中央部やや後方に操舵室を設けたFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、ごち網漁に従事する目的で、船首0.6メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、法定灯火を表示し、平成14年9月26日05時39分鹿児島県獅子島港御所浦地区を発し、獅子島南東方の漁場に向かった。
 A受審人は、発進後、機関を極微速力前進に掛け、暖機運転を兼ねて5.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で手動操舵により進行し、05時40分半少し過ぎ片側港西防波堤灯台から035度(真方位、以下同じ。)1,550メートルのところの104メートル三角点(以下「三角点」という。)から069度1,150メートルの地点で、針路を312度に定めて同じ速力で続航し、同時41分半少し過ぎ目視で前方を確認して他船の灯火を認めなかったので速力を10.0ノットに増速した。
 このとき、A受審人は、左舷船首2度270メートルのところにあゆみ丸がほぼ同じ方向に進行していたものの、同船が両色灯のみを表示し、物入れ室の室内灯を点灯していて僅かに(わずかに)その光芒(こうぼう)が漏れていただけであったうえ、レーダーが故障していて使用できなかったことから、同船の存在を認めることができなかった。
 A受審人は、その後、あゆみ丸に衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かないまま進行し、05時42分半わずか過ぎあゆみ丸が左舷船首2度125メートルのところまで接近したものの、依然、同船の存在に気付くことができないまま、速力を15.0ノットに増速して続航中、05時43分少し前船首至近にあゆみ丸の帆柱を認め、機関を中立にしたが、効なく、05時43分三角点から037度1,020メートルの地点において、漁盛丸は、原針路、原速力のまま、その船首があゆみ丸の船尾右舷側に後方から3度の角度で衝突した。
 当時、天候は小雨で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の中央期で、日出時刻は06時09分であった。
 また、あゆみ丸は、FRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、一本つり漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、同日05時30分獅子島港御所浦地区を発し、獅子島北方の漁場に向かった。
 ところで、あゆみ丸の灯火スイッチは、操舵室内右舷側床面から約50センチメートルのところにスイッチ盤を設置して縦2列でそれぞれ3個配置され、船首側上方及び中央が全周灯及び両色灯、船尾側3個のうち1個が作業灯で、他の3個は使用されていなかった。
 一方、B受審人は、出航するに当たり、平素どおり、前後の係留索を放し、操舵室右舷外側で、同室囲壁に右手をついて身体を支え、出入口から暗い操舵室内に左手を差し込み、灯火スイッチ2個を手探りで入れたが、航行中の動力船であることを示す法定灯火を適切に表示しているものと思い、目視してそれらの灯火が点灯しているかどうかを確認することなく、スイッチ盤船首側の下部2個のスイッチを入れていたので両色灯は点いたものの、全周灯が点いていないことに気付かず、機関を後進に掛けて発進した。
 B受審人は、御所浦地区南防波堤外側にある生け簀に寄って生き餌を積み込み、05時39分三角点から068度1,100メートルの地点で、針路を315度に定め、機関を極微速力前進に掛け、4.6ノットの速力として手動操舵により進行した。
 05時41分半少し過ぎB受審人は、右舷船尾5度270メートルのところに、漁盛丸の白、紅、緑の3灯を視認することができる状況であったが、航行中の動力船であることを示す法定灯火を適切に表示しているので、後方から接近する船が避けるものと思い、後方の見張りを十分に行わず、同船の存在に気付かなかった。
 B受審人は、その後、漁盛丸が衝突のおそれがある追い越し態勢で避航動作をとらないまま接近していたが、このことに気付かず、間近に接近したとき、左転するなど衝突を避けるための協力動作をとらなかった。
 あゆみ丸は、原針路、原速力のまま続航中、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、漁盛丸は船底外板に擦過傷などを生じ、あゆみ丸は右舷船尾部を破損するなどしたがのち修理され、B受審人が顔面多発骨折などを負った。

(原因)
 本件衝突は、夜間、小雨模様の鹿児島県獅子島港御所浦地区を出航するに当たり、あゆみ丸が、法定灯火の点灯確認が不十分で、同灯火を適切に表示しなかったばかりか、漁場に向かう際、見張り不十分で、後方から接近する漁盛丸との衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、夜間、小雨模様の鹿児島県獅子島港御所浦地区を出航する場合、法定灯火が適切に表示されているかどうかを確認すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、平素のとおり法定灯火のスイッチを入れたので点灯しているものと思い、目視による同灯火の点灯状況の確認を行わなかった職務上の過失により、同灯火が適切に表示されていないことに気付かないまま出航して漁盛丸との衝突を招き、漁盛丸の船底外板に擦過傷などを、また、あゆみ丸の右舷船尾部破損などを生じさせ、自らが顔面多発骨折などを負うに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。 


参考図





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