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平成14年那審第53号
件名

旅客船フェリーたらまランプウェイ架設台衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年6月12日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(小須田 敏、坂爪 靖、上原 直)

理事官
平良玄栄

受審人
A 職名:フェリーたらま船長 海技免状:三級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:フェリーたらま甲板員

損害
たらま・・・・・・・・・右舷船尾外板に15センチメートル四方の破口
ランプウェイ架設台・・・損傷ない

原因
たらま・・・・・・・・・船尾ブレストラインの解放状況確認不十分

主文

 本件ランプウェイ架設台衝突は、離岸する際、船尾ブレストラインの解放状況を十分に確認しなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年5月17日10時01分
 沖縄県平良港
 
2 船舶の要目
船種船名 旅客船フェリーたらま
総トン数 324トン
全長 54.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 2,059キロワット

3 事実の経過
 フェリーたらま(以下「たらま」という。)は、沖縄県宮古島平良港及び同県多良間島普天間港間の定期航路に従事する2機2軸の旅客船兼自動車渡船で、平良港を発して普天間港に向かう目的で、A受審人及びB指定海難関係人ほか5人が乗り組み、乗客32人及び車両3台を乗せ、船首2.1メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、平成14年5月17日09時45分離岸作業を開始した。
 ところで、平良港は、港奥の北東部から南西部にかけて、長さ350メートル幅220メートルの第1ふ頭、長さ220メートル幅120メートルの第2ふ頭、長さ160メートル幅120メートルの第3ふ頭及び長さ80メートル幅70メートルの第4ふ頭が、それぞれ北西方に向けて突堤状に突出しており、第1及び第2両ふ頭間には、第1ふ頭の南西側岸壁(以下「南西側岸壁」という。)基部から第2ふ頭基部に向けてほぼ南方に延びる長さ約190メートルの岸壁(以下「東岸壁」という。)が築造されていた。
 南西側岸壁基部付近には、東岸壁の法線に合わせて車両乗降用のランプウェイ架設台が据え付けられているため、同架設台の先端角が南西側岸壁前面から1.9メートル張り出していた。
 たらまは、船尾のランプウェイを使用して車両の乗降を行う構造となっており、専ら船首を187度(真方位、以下同じ。)に向け、南西側岸壁基部付近に船尾を付けて東岸壁に左舷付けすることから、着岸時に右舷錨を投入して約2節の錨鎖を繰り出すとともに、バウライン2本及び船首ブレストライン1本を東岸壁に、右舷船尾から3本及び左舷船尾から1本のスタンラインを南西側岸壁にそれぞれとって係留していた。
 A受審人は、平素から出航予定時刻の15分前に乗組員を離岸作業の配置に就かせ、バウライン及び船首ブレストライン各1本、並びに右舷船尾のスタンライン2本を解放したのち、左舷船尾のスタンラインを船尾ブレストラインとして東岸壁上のビットに取り直してシングルアップ状態としていた。そして、同受審人は、出航時刻になるとバウライン及び船尾ブレストラインを解放したのち、右舷錨鎖の巻込みとバウスラスタを併用して前進右回頭し、船尾が東岸壁から十分離れたところで、残っているスタンラインを解放するようにしていた。
 A受審人は、ランプウェイ架設台が南西側岸壁前面から張り出していたことも、船尾ブレストラインを解放することなく前進右回頭すると、同ラインの緊張により、船体が船尾ブレストラインのビットを軸として右回転することとなり、南西側岸壁などに右舷船尾を衝突させるおそれがあることも知っていた。
 A受審人は、09時50分出航に備えて昇橋し、船首配置の一等航海士及び船尾配置のB指定海難関係人からそれぞれシングルアップ状態となった旨の報告を受けたのち、10時00分操舵室から出て右舷側ウィングに立ち、いつものようにバウライン及び船尾ブレストラインを解放するように指示した。
 A受審人は、船首配置が甲板上に解放したバウラインを取り込む状況となっても、B指定海難関係人から船尾ブレストラインを解放した旨の報告がないことに気付いたが、乗組員にとって手慣れた離岸作業であったことから、指示どおりに同ラインを解放しているものと思い、B指定海難関係人に船尾ブレストラインの解放状況について報告を求めるなど、同状況の確認を十分に行うことなく、船首配置に右舷錨鎖の巻込みを指示し、バウスラスタを作動させた。
 B指定海難関係人は、A受審人から船尾ブレストラインを解放するように指示を受けたとき、ビットから外し易いように同ラインを緩めたが、船尾付近に綱放し作業員がいないため、直ちに解放することができず、バウラインを外している同作業員が船尾に来るまで仮止めして待つこととしたものの、同受審人に船尾ブレストラインの解放状況を報告しなかった。
 こうして、A受審人は、船尾ブレストラインが解放されていないことに気付かないまま、右舷錨鎖の巻込みとバウスラスタを併用して前進右回頭を始めたため、同ラインが緊張して右舷船尾を南西側岸壁に著しく接近させることとなり、たらまは、10時01分平良港北防波堤灯台から111度1,060メートルの地点において、船首が209度に向いたとき、右舷船尾が同岸壁前面から張り出していたランプウェイ架設台の先端角に衝突した。
 当時、天候は雨で風力3の北風が吹き、潮候はほぼ高潮時であった。
 衝突の結果、ランプウェイ架設台に損傷はなく、たらまは、右舷船尾外板に15センチメートル四方の破口を生じたが、のち修理された。

(原因)
 本件ランプウェイ架設台衝突は、沖縄県平良港において、船尾及び左舷付けの状態から離岸する際、船尾ブレストラインの解放状況の確認が不十分で、同ラインをとったまま右舷錨鎖の巻込み及びバウスラスタを併用して前進右回頭したことによって発生したものである。
 船尾ブレストラインの解放状況の確認が十分でなかったのは、船長が、船尾配置の責任者に同ラインの解放状況について報告を求めるなどしなかったことと、船尾配置の責任者が、同状況を報告しなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、沖縄県平良港において、船尾及び左舷付けの状態から離岸する場合、船尾ブレストラインを解放することなく前進右回頭すると、南西側岸壁などに右舷船尾を衝突させるおそれがあったから、同ラインの解放状況を十分に確認すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、乗組員にとって手慣れた離岸作業であったことから、指示どおりに船尾ブレストラインを解放しているものと思い、船尾配置の責任者に同ラインの解放状況について報告を求めるなどしなかった職務上の過失により、船尾ブレストラインが解放されていないことに気付かないまま、右舷錨鎖の巻込みとバウスラスタを併用して前進右回頭し、南西側岸壁前面から張り出していたランプウェイ架設台の先端角に右舷船尾を衝突させ、同架設台に損傷はなかったものの、たらまの右舷船尾外板に破口を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、沖縄県平良港において、船尾配置の責任者として離岸作業に従事中、船尾ブレストラインを解放するように指示を受けた際、綱放し作業員がいないため、直ちに同ラインを解放することができないことなど、船尾ブレストラインの解放状況を報告しなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告するまでもない。

 よって主文のとおり裁決する。





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