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平成15年門審第23号
件名

漁船勇進丸漁船親盛丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年6月25日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(西村敏和、長浜義昭、橋本 學)

理事官
島 友二郎

受審人
A 職名:勇進丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
勇進丸・・・船首部に擦過傷
新盛丸・・・左舷船首部に損傷、のち転覆
船長が行方不明

原因
勇進丸・・・見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
新盛丸・・・警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、勇進丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る親盛丸の進路を避けなかったことによって発生したが、親盛丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年9月10日06時30分
 山口県角島沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船勇進丸 漁船親盛丸
総トン数 11トン 3.9トン
全長 18.15メートル 13.20メートル
登録長 14.98メートル 10.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 150 70

3 事実の経過
 勇進丸は、棒受網漁業に従事するFRP製漁船で、平成11年1月交付の一級小型船舶操縦士免状を有するA受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.7メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同14年9月10日01時30分山口県角島港を発し、角島北北西方の漁場に向かった。
 A受審人は、発航時から単独で操船に当たり、角島港を出たところで、機関を回転数毎分1,400の全速力前進にかけ、角島西方を通過して漁場に向けて北上し、02時15分角島北西約10海里の地点に差し掛かったところで、半速力前進に減速して魚群探知機により魚群の探索を始めた。
 A受審人は、漁場を移動しながら魚群の探索を続け、魚影を探知すると、水中集魚灯1個を点灯して集魚を試みたものの、思うようにいわしが集まらなかったことから、一度も網を入れることができないまま夜明けを迎え、操業を打ち切って角島港に向けて帰途に就くことにした。
 05時30分A受審人は、角島灯台から339度(真方位、以下同じ。)19.0海里の地点を発進し、乗組員に休息をとらせ、操舵室右舷側でいすに腰を掛け、左斜め前方を向いた姿勢で操船に当たり、法定の灯火を表示し、針路を角島西方に向く160度に定め、機関を全速力前進にかけ、15.0ノット(対地速力、以下同じ。)の速力で、自動操舵により進行した。
 ところで、角島の北西方約5海里には、最浅部の水深が約11メートルの岩場が広範囲に拡延していて、汐巻(しおまき)と呼ばれる好漁場となっており、早朝からひき縄漁が行われるほか、昼間には多くの小型漁船が漂泊して一本釣りを行うなど、操業が活発な海域となっていた。
 A受審人は、自らも同漁場でぶりひき縄漁を操業した経験があり、同漁場での操業実態を良く知っていたので、定係地と漁場との間の往来時に汐巻付近を通過する際には、日ごろから目視による見張りはもとより、レーダーを0.75ないし1.5海里の短距離レンジで使用し、操業漁船を見落とすことのないよう、十分に注意を払っていた。
 A受審人は、機関を全速力前進にかけていたことから船首が浮上し、右舷側でいすに腰を掛けた状態では、正船首から右舷側に約5度及び左舷側に約10度の範囲にわたって死角を生じていたので、うねりで船首が下がったときに船首方向を確認しながら、汐巻のほぼ中央部に向けて南下した。
 06時10分ごろA受審人は、角島灯台から336度9.0海里付近に差し掛かったとき、6海里レンジとしたレーダーで、右舷前方約5海里に3隻と左舷前方約5海里に5ないし6隻の映像を探知し、その大きさなどからいずれも汐巻付近で操業中の小型漁船であることが分かったものの、まだ距離が遠かったことと、船首方向には映像を認めなかったことから、その後は汐巻付近の漁船に注意を払うことなく続航した。
 A受審人は、いすに腰を掛けて右肘を右舷側の窓枠に置き、左斜め前方を向いて背を側壁にもたせ掛けた姿勢で操船にあたり、既に周囲が明るくなってレーダー画面が見えにくくなっていたものの、画面の輝度調整を行わず、汐巻付近に接近しても6海里レンジから短距離レンジに切り替えることもせずに進行した。
 06時27分A受審人は、角島灯台から333度4.7海里の、汐巻の北端付近に達したとき、右舷船首14度1,500メートルのところに親盛丸を視認し得る状況となり、その後、同船の方位に明確な変化がなく、前路を左方に横切り、衝突のおそれのある態勢で接近したが、レーダーで汐巻付近に小型漁船の映像を探知したとき、船首方向には映像を認めなかったことから、接近する他船はいないものと思い、目視によって周囲の状況を確認することも、レーダーを短距離レンジに切り替えて使用することもせず、いすに腰を掛けて左前方を向いた姿勢のまま、ただぼんやりとしていて、見張りを十分に行っていなかったので、右舷側から接近する親盛丸に気付かず、右転又は減速するなどして親盛丸の進路を避けることなく続航した。
 こうして、A受審人は、汐巻のほぼ中央部を南下し、06時29分角島灯台から332.5度4.2海里の地点に至ったとき、親盛丸が同方位500メートルのところに接近したが、依然として、このことに気付かず、親盛丸の進路を避けないまま進行中、06時30分角島灯台から332度4.0海里の地点において、勇進丸は、原針路、原速力のまま、その船首が親盛丸の左舷船首に前方から80度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力1の東北東風が吹き、潮候は上げ潮の初期に当たり、視界は良好で、日出時刻は05時55分であった。
 A受審人は、衝撃を感じて衝突したことを知り、事後の措置に当たった。
 また、親盛丸は、ひき縄漁に従事するFRP製漁船で、船長Bが1人で乗り組み、操業の目的で、同日05時50分山口県大浦漁港を発し、汐巻付近の漁場に向かった。
 B船長は、油谷湾を出たところで汐巻付近の漁場に先行していた僚船と無線で交信し、漁模様を確認して同漁場に向かい、06時20分ごろ同漁場に至って、船尾から擬餌針(ぎじばり)を付けた長さ約100メートルのひき縄を流し、4.0ノットの速力として、操縦性能を制限しない状態でびんながまぐろの漁獲を目的としたひき縄漁を始めた。
 B船長は、操舵室右舷側で立って手動操舵に当たり、06時27分角島灯台から329度4.0海里の地点に差し掛かり、針路を060度に定めてひき縄を引いていたとき、左舷船首66度1,500メートルのところに勇進丸を視認し得る状況となり、その後、同船の方位に明確な変化がなく、前路を右方に横切り、衝突のおそれのある態勢で接近した。
 06時29分B船長は、角島灯台から331度4.0海里の地点に達したとき、勇進丸が同方位500メートルのところに避航の気配を示さないまま接近したが、船尾方のひき縄の状態を見ていて同船の接近に気付かなかったものか、避航を促す警告信号を行わず、間近に接近しても行きあしを止めるなど、衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行中、親盛丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突して転覆し、B船長が海中に投げ出された。
 衝突の結果、勇進丸は、船首部に擦過傷を生じたが、のち修理され、親盛丸は、左舷船首部に損傷を生じて転覆した。また、A受審人は、B船長が見当たらなかったので、直ちに勇進丸乗組員をして親盛丸操舵室内を素潜りにより捜索したが、B船長(昭和9年1月21日生、平成11年12月交付の一級小型船舶操縦士免状受有)を発見することができず、その後、巡視船艇及び地元漁船により周辺海域の捜索が行われたが、発見に至らなかった。

(原因)
 本件衝突は、山口県角島沖合において、両船が互いに進路を横切り、衝突のおそれのある態勢で接近中、南下する勇進丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切り、衝突のおそれのある態勢で接近する親盛丸の進路を避けなかったことによって発生したが、東行する親盛丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、山口県角島沖合において、角島北北西方の漁場から同島西方に向けて南下する場合、接近する他船を見落とすことのないよう、目視によるなり、レーダーを短距離レンジに切り替えて使用するなりして、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、6海里レンジとしたレーダーで数隻の小型漁船の映像を探知したものの、船首方向には映像を認めなかったことから、接近する他船はいないものと思い、操舵室右舷側でいすに腰を掛け、左斜め前方を向いた姿勢のままぼんやりとしていて、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を左方に横切り、衝突のおそれのある態勢で接近する親盛丸に気付かず、同船の進路を避けることなく進行して衝突を招き、勇進丸の正船首及び左舷船首部に擦過傷を生じさせ、親盛丸の左舷船首部に損傷を生じさせて転覆させ、親盛丸船長が行方不明となるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。 


参考図





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