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平成15年門審第27号
件名

旅客船べっぷ2漁船修栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年6月24日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(長谷川峯清、西村敏和、小寺俊秋)

理事官
上中拓治

受審人
A 職名:べっぷ2一等航海士 海技免状:二級海技士(航海)
B 職名:修栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
べっぷ2・・・右舷船首部外板に擦過傷、右舷後部外板にも擦過傷
修栄丸・・・・船尾部を圧壊、船長及び甲板員が腰部及び臀部等の打撲傷

原因
べっぷ2・・・横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
修栄丸・・・・警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、べっぷ2が、前路を左方に横切る修栄丸の進路を避ける時機が遅れたことによって発生したが、修栄丸が、汽笛不装備で警告信号を行うことができず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年7月29日02時28分
 別府湾
 
2 船舶の要目
船種船名 旅客船べっぷ2 漁船修栄丸
総トン数 2,167トン 4.9トン
全長 112.91メートル 14.83メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 6,619キロワット  
漁船法馬力数   15

3 事実の経過
 べっぷ2は、一般旅客定期航路事業に従事する船首船橋型の鋼製旅客船兼自動車渡船で、2機2軸2舵を備え、船長O及びA受審人ほか9人が乗り組み、旅客60人を乗せ、車両23台を積み、船首3.70メートル船尾4.20メートルの喫水をもって、平成14年7月29日00時21分愛媛県八幡浜港を発し、大分県別府港に向かった。
 ところで、べっぷ2は、同13年7月八幡浜・別府両港間の航路に新造船が就航したことに伴って係船されていたが、他の就航船の入渠時や夏季の臨時増便時に、同航路に片道約3時間で1日3往復の運航が行われていた。同船の船橋当直は、片道ごとに交代するもので、昼間には航海士と操舵手各1人、20時から翌日04時までの夜間には航海士2人と操舵手1人、あるいは航海士1人と操舵手2人の3人体制がとられていた。
 こうして、A受審人は、発航時に三等航海士及び操舵手とともに夜間の船橋当直に就き、速吸瀬戸を経由して別府湾に向け西行し、02時01分臼石鼻灯台から120度(真方位、以下同じ。)10.3海里の地点に達したとき、針路を270度に定め、機関を半速力前進にかけ、17.2ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、航行中の動力船の灯火を表示し、自動操舵によって進行した。
 02時18分A受審人は、臼石鼻灯台から142度6.4海里の地点に差し掛かり、別府航路第2号灯浮標を右舷正横0.6海里に認めたとき、双眼鏡を使用して右舷船首19度4.0海里のところに、上下に表示された緑、紅2灯を初めて認め、白灯を確認できなかったものの、トロールにより漁ろうに従事している船舶(以下「トロール従事船」という。)が表示する灯火を掲げて操業中の漁船の灯火のように見えたことから、まだ遠いので様子を見つつ進行して必要に応じて避航することとし、このとき三等航海士が約20分間を要する船内巡検のために降橋したのち2人当直となり、操舵手を操舵室中央の操舵スタンド後部に立たせ、自ら同室中央前面に立って周囲の見張りに当たり、同灯火の動静を監視しながら続航した。
 02時25分A受審人は、臼石鼻灯台から159度5.4海里の地点に達したとき、右舷船首22度1.2海里に修栄丸が表示した緑、紅2灯を再び認め、同灯火の方位に明確な変化が認められず、その接近模様から同船が航行中の船舶で、前路を左方に横切り、衝突のおそれがある態勢で接近することを知ったが、このとき右舷船首方約1海里に、トロール従事船が表示する灯火を掲げて操業中の6隻の漁船が修栄丸と重なるように点在していたこともあり、もう少し接近してからでも修栄丸の進路を避けることができるものと思い、十分に余裕のある時期に、大幅に右転するなどして修栄丸の進路を避けることなく、同じ針路、速力のまま進行した。
 02時27分半少し前A受審人は、臼石鼻灯台から165度5.3海里の地点で、修栄丸が右舷船首23度510メートルに接近したとき、ようやく避航動作をとることとし、操舵手に右舵15度を令したものの、修栄丸に対して同動作を明らかにするための操船信号を行わず、ゆっくり右回頭が始まって間もなく、同船が左転を始めたことに気づき、慌てて右舵一杯を令したが、間に合わず、02時28分臼石鼻灯台から167度5.2海里の地点において、右に回頭中のべっぷ2は、船首が315度に向いたとき、ほぼ原速力のまま、その船首が修栄丸の右舷船尾に前方から45度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の南風が吹き、潮候は下げ潮の中央期に当たり、視界は良好であった。
 O船長は、A受審人から衝突の報告を受けて直ちに昇橋し、事後の措置に当たった。
 また、修栄丸は、周年にわたって小型機船底びき網漁業に従事する中央船橋型のFRP製漁船で、昭和51年7月二級小型船舶操縦士の免状を取得したB受審人ほか1人が乗り組み、はも漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.4メートルの喫水をもって、平成14年7月29日01時40分大分県守江港を発し、同港南東方沖合約6海里の別府航路第2号、同第3号両灯浮標間の漁場に向かった。
 ところで、B受審人は、汽笛を設備していなかったことから、夜間、自船の存在を明らかにするため、漁ろうに従事していない時でもマスト上部に取り付けた緑色全周灯を点灯していた。
 01時48分B受審人は、臼石鼻灯台から267度2.4海里の地点で、針路を144度に定め、機関を全速力前進にかけ、9.0ノットの速力で、法定灯火に加えてマスト上部の緑色全周灯のスイッチを点灯状態にしたものの、法定灯火の警報装置が装備されておらず、同灯が消灯しても確認できないまま、自動操舵によって進行した。
 02時18分B受審人は、臼石鼻灯台から176.5度3.8海里の地点に差し掛かったとき、左舷船首35度4.0海里のところに、べっぷ2の客室照明の明かりを初めて認めたが、まだ遠いので近づいてから対処することとし、操舵室中央の操舵スタンド後部に立って周囲の見張りに当たるとともに、同船の動静を監視しながら続航した。
 02時25分B受審人は、臼石鼻灯台から170度4.7海里の地点に達したとき、左舷船首32度1.2海里にべっぷ2が表示する白、白、緑3灯及び客室照明の明かりを再び認め、同灯火の方位に明確な変化が認められず、前路を右方に横切り、衝突のおそれがある態勢で接近することを知ったが、汽笛不装備で警告信号を行うことができず、同船に避航義務があるものの、これまで別府湾を運航する大型の旅客船が避航動作をとることが少なかったこともあって、もう少し接近してからべっぷ2の船尾方に転針して同船を替わせばよいと思い、直ちに同船に避航を促すためのサーチライトの照射あるいは有効な音響による注意喚起信号を行うことなく、更に接近した際に行きあしを止めるなり右転するなりして同船との衝突を避けるための協力動作をとることもなく、同じ針路、速力のまま進行した。
 02時28分少し前B受審人は、べっぷ2が左舷船首29度約200メートルに接近したとき、既に同船が避航動作をとってゆっくり右回頭を始めていたが、べっぷ2が操船信号を行わなかったうえ、間近に接近していてその船首方向の変化に気づかないまま、手動操舵に切り替えて左舵をとり、針路を090度に転じて続航中、修栄丸は、原速力で、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、べっぷ2は右舷船首部外板に擦過傷を生じたのち、修栄丸が右舷側外板に沿って船尾方に替わっていく際、その右舷後部外板にも擦過傷を生じ、修栄丸は船尾部を圧壊したうえ、プロペラ及び舵に各曲損を生じたが、のちそれぞれ修理された。また、衝突の衝撃で、B受審人及び修栄丸甲板員中根修生がそれぞれ1週間の加療を要する腰部及び臀部等の打撲傷を負った。

(原因)
 本件衝突は、夜間、別府湾において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、西行するべっぷ2が、前路を左方に横切る修栄丸の進路を避ける時機が遅れたことによって発生したが、南下する修栄丸が、汽笛不装備で警告信号を行うことができず、更に接近した際に衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、別府湾において、前路を左方に横切り、衝突のおそれがある態勢で接近する修栄丸を避航する場合、避航時機が遅れて同船に著しく接近しないよう、十分に余裕のある時期に避航動作をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、もう少し接近してからでも修栄丸の進路を避けることができるものと思い、十分に余裕のある時期に避航動作をとらなかった職務上の過失により、修栄丸が間近に接近してようやく操船信号を行わずに右転を始めたものの、避航時機が遅れ、回頭しながら進行して同船との衝突を招き、べっぷ2の右舷船首部及び後部各外板に擦過傷を、修栄丸に船尾部の圧壊、プロペラ及び舵の各曲損をそれぞれ生じさせるとともに、B受審人及び修栄丸甲板員中根修生にそれぞれ1週間の加療を要する腰部及び臀部等の打撲傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、夜間、別府湾において、前路を右方に横切り、衝突のおそれがある態勢で接近するべっぷ2を認めた場合、汽笛不装備で警告信号を行うことができない状況であったので、直ちに同船に避航を促すためのサーチライトの照射あるいは有効な音響による注意喚起信号を行い、更に接近した際に行きあしを止めるなり右転するなりして同船との衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、べっぷ2に避航義務があるものの、これまで別府湾を運航する旅客船が避航動作をとることが少なかったこともあって、もう少し接近してからべっぷ2の船尾方に転針して替わせばよいと思い、注意喚起信号を行わず、更に接近した際に同船との衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、べっぷ2が間近に接近した際、左舵をとって針路を同船の船尾方に転じ、同じ速力のまま進行してべっぷ2との衝突を招き、前示の事態を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 


参考図





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