(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年4月1日11時45分
山口県宇部港
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船鳳運丸 |
油送船第十一金昭丸 |
総トン数 |
391.00トン |
99トン |
全長 |
69.92メートル |
32.76メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
250キロワット |
3 事実の経過
鳳運丸は、ばら積み貨物の輸送に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか3人が乗り組み、石炭1,200トンを積み、愛知県衣浦港に向かう前に燃料油補給を行う目的で、船首3.25メートル船尾4.05メートルの喫水をもって、平成14年4月1日11時20分山口県宇部港沖の山桟橋を発し、宇部港西防波堤灯台(以下「宇部西灯台」という。)から233度(真方位、以下同じ。)1.30海里の同港内に設定した補給船との会合地点に向かった。
ところで、宇部港宇部興産大橋(以下「興産大橋」という。)下を経由して同港に入出航する船舶は、のり養殖施設が秋季から冬季にかけて宇部港西第1号灯浮標(以下「宇部港」を冠した灯浮標名についてはこれを省略する。)及び西第3号灯浮標を結ぶ線の西側、並びに西第2号及び西第4号両灯浮標を結ぶ線の北東側陸岸寄りの各水域に設置されており、他の時季でも同施設の一部が残されているため、西第1号、西第2号、西第4号及び西第3号各灯浮標で囲まれる水域(以下「水路」という。)を通航していた。
こうして、A受審人は、発航時に、一等航海士及び次席一等航海士を船首に配置して自ら単独の船橋当直に就き、霧のため視程が約800メートルの視界制限状態であったので、操舵室両舷の扉を開放したうえ、汽笛の自動吹鳴装置による霧中信号を開始したが、周囲が明るかったことから法定灯火を表示しないまま、操舵室前部に設けられたコンソール中央の舵輪後部に立ち、発航したのち、同舵輪の左舷船首側に設置されたレーダーを0.75海里レンジに設定し、周囲の状況を監視しながら操舵操船に当たった。
11時30分半A受審人は、宇部西灯台から284度0.83海里の地点に差し掛かり、興産大橋橋梁灯(L3)に寄せて同大橋の下を南西方向きに航過したとき、視程が約50メートルになったが、折から西第4号灯浮標付近を北東方に向かって入航する第三船のレーダー映像を探知したので、西第3号灯浮標を右舷方近くに航過したのち、水路から西方に少し出るように航行して同船を替わすこととし、機関をしばらく極微速力前進にかけては停止することを繰り返し、2.6ノットの対地速力(以下「速力」という。)で南下した。
11時38分半A受審人は、宇部西灯台から265度1.00海里の地点に達し、入航中の第三船と無難に航過したとき、針路を会合地点付近に向く180度に定め、機関を微速力前進にかけて増速しながら、手動操舵によって進行した。
11時40分半少し過ぎA受審人は、宇部西灯台から259度1.02海里の地点に至り、速力が6.4ノットになったとき、レーダーによって右舷船首15度0.76海里で西第1号、西第2号両灯浮標の中間の地点に、第十一金昭丸(以下「金昭丸」という。)の映像を初めて探知し、その後、同船が水路に沿って入航する船舶で、著しく接近するおそれがあることを認めたが、このまま会合地点付近に向けて水路の東側を航行すれば金昭丸を何とか替わすことができるものと思い、引き続きレーダー画面を見てはいたものの、同船に対するレーダープロッティング等による系統的な動静監視を十分に行うことなく、同じ針路、速力のまま進行した。
11時43分半わずか前A受審人は、宇部西灯台から244度1.11海里の地点に達したとき、金昭丸が右舷船首4度530メートルのところで水路に沿う針路に転じ、このまま続航すると同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、依然、レーダーによる動静監視が不十分で、このことに気づかず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、また、必要に応じて行きあしを止めることもせずに進行中、同時45分少し前船首配置の一等航海士から右舷前方に船が見えた旨の報告を受けると同時に、間近に金昭丸の船体を認め、衝突の危険を感じ、急いで左舵約30度にとり、機関を全速力後進にかけたが間に合わず、11時45分宇部西灯台から237度1.20海里の地点において、鳳運丸は、原針路のまま、速力が2.0ノットになったとき、その右舷前部に、金昭丸の船首が前方から10度の角度で衝突した。
当時、天候は霧で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の初期にあたり、視程は約50メートルであった。
また、金昭丸は、周防灘周辺諸港において、燃料油輸送に従事する船尾船橋型の鋼製油送船で、B受審人ほか2人が乗り組み、A重油220キロリットルを積み、宇部港宇部化学桟橋に係留中の船舶に燃料油給油の目的で、船首1.8メートル船尾3.2メートルの喫水もって、同日10時35分山口県小野田港を発し、宇部港に向かった。
B受審人は、発航後間もなく、視程が約50メートルの視界制限状態になったため、汽笛による霧中信号を始めたものの、周囲が明るかったので法定灯火を表示しないまま、0.75海里レンジに設定したレーダーを監視しながら、山口県本山岬沖合に向かった。
11時27分B受審人は、宇部西灯台から245度2.65海里の地点に達し、本山岬南方に設置された沖ノ瀬灯浮標の映像を左方200メートルに探知してこれに並航したことを認めたとき、針路を098度に定め、機関を半速力前進にかけ、6.0ノットの速力で、ときどきレーダーレンジを1.5海里、3.0海里に切り換えて監視しながら、自動操舵によって進行した。
11時32分B受審人は、宇部西灯台から238.5度2.25海里の地点に差し掛かったとき、左舷船首方約1.7海里で興産大橋南西側のところに、鳳運丸の映像を初めて探知し、引き続き同映像を監視しながら、同じ針路、速力で続航した。
11時34分半B受審人は、宇部西灯台から234度2.06海里の地点に至り、本山第4号灯浮標の映像を左舷正横約60メートルに探知したとき、針路を西第1号、西第2号両灯浮標間に向く058度に転じ、同じ速力で進行した。
11時36分半B受審人は、宇部西灯台から233度1.86海里の地点に達したとき、左舷船首31.5度1.23海里の地点に鳳運丸の映像を再び探知し、同船が低速で水路を南下していることを認めたので、甲板員に汽笛が聞こえたらその方向を報告するよう指示して船首に配置するとともに、機関を微速力前進に落とし、5.0ノットの速力で、同じ針路のまま続航した。
11時40分半少し過ぎB受審人は、宇部西灯台から232度1.51海里の地点で、西第1号、西第2号両灯浮標間に至ったとき、鳳運丸の映像を左舷船首43度0.76海里のところに探知し、水路内で著しく接近するおそれがあることを認めたが、このままゆっくり左転して水路の東側を北上すれば、同船と左舷を対して無難に航過できるものと思い、引き続き0.75海里レンジに設定したレーダー画面を見てはいたものの、同船に対するレーダープロッティング等による系統的な動静監視を十分に行うことなく、小舵角をとって左転を開始し、同じ速力で進行した。
11時43分半わずか前B受審人は、宇部西灯台から233度1.30海里の地点に達し、針路を見当で水路に沿って西第3号灯浮標付近に向く010度に転じたとき、鳳運丸が左舷船首6度530メートルのところにおり、このまま続航すると同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、依然、レーダーによる動静監視が不十分で、このことに気づかず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、また、必要に応じて行きあしを止めることもせずに進行中、同時45分わずか前船首至近に鳳運丸の船体を認め、慌てて機関を全速力後進にかけたが間に合わず、金昭丸は、転じた針路で、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、鳳運丸は右舷船首部の舷側厚板上縁部及びハンドレールに曲損を生じ、金昭丸は船首部に凹損を生じたが、のちそれぞれ修理された。
(原因)
本件衝突は、霧のため視界制限状態となった山口県宇部港において、鳳運丸が、同港内に設定した燃料油補給船との会合地点に向けて南下中、レーダーによる動静監視不十分で、前路に探知した金昭丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めなかったことと、金昭丸が、同港宇部化学桟橋に係留中の船舶に燃料油給油の目的で入航するため北上中、レーダーによる動静監視不十分で、前路に探知した鳳運丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、霧のため視界制限状態となった山口県宇部港において、同港内に設定した燃料油補給船との会合地点に向けて南下中、レーダーで右舷前方に金昭丸の映像を探知した場合、同船と著しく接近することを避けることができない状況となるかどうかを判断できるよう、同船に対するレーダープロッティング等による系統的な動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、金昭丸と水路内で著しく接近するおそれがあることを認めたものの、このまま会合地点付近に向けて水路の東側を航行すれば同船を何とか替わすことができるものと思い、レーダーによる動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、金昭丸と著しく接近することを避けることができない状況となったことに気づかず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、また、必要に応じて行きあしを止めることもせずに進行して衝突を招き、鳳運丸の右舷船首部の舷側厚板上縁部及びハンドレールに各曲損を、金昭丸の船首部に凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、霧のため視界制限状態となった山口県宇部港において、同港宇部化学桟橋に係留中の船舶に燃料油給油の目的で入航するため北上中、レーダーで左舷前方に鳳運丸の映像を探知した場合、同船と著しく接近することを避けることができない状況となるかどうかを判断できるよう、同船に対するレーダープロッティング等による系統的な動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、鳳運丸と水路内で著しく接近するおそれがあることを認めたものの、同水路の東側を北上すれば、同船と左舷を対して無難に航過できるものと思い、レーダーによる動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったことに気づかず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、また、必要に応じて行きあしを止めることもせずに進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。