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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成15年門審第16号
件名

瀬渡船七福丸防波堤衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年6月5日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(橋本 學、安藤周二、長谷川峯清)

理事官
上中拓治

受審人
A 職名:七福丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船首部を圧壊、のち廃船
釣り客5人が重軽傷

原因
船位確認不十分

主文

 本件防波堤衝突は、船位の確認が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年3月10日05時10分
 山口県羽島南岸
 
2 船舶の要目
船種船名 瀬渡船七福丸
総トン数 9.89トン
登録長 13.32メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 330キロワット

3 事実の経過
 七福丸は、最大搭載人員が14人のFRP製瀬渡船で、A受審人が1人で乗り組み、釣り客8人を乗せ、瀬渡しの目的で、船首0.1メートル船尾1.1メートルの喫水をもって、平成14年3月10日05時00分山口県萩漁港浜崎地区を発し、同漁港北方沖合に点在する同県羽島、櫃島及び大島の各島へ向かった。
 出港後、A受審人は、操舵輪後方のいすに腰を掛けて操舵操船に当たり、最初の瀬渡し場所であった羽島北岸へ向かっていたところ、間もなく、船首方の観音喰合瀬沖合付近に、釣り船らしき小さな灯火を2灯視認したので、安全を慮り、1.5海里レンジとして作動していたレーダーを0.5海里レンジに切り替え、同灯火を点灯した2隻の動静監視を行いながら北上した。
 A受審人は、前示2隻の船舶が左舷後方に替ったことを確認したのち、05時05分半虎ケ埼灯台から207度(真方位、以下同じ。)2,000メートルの地点で、針路を羽島南岸の防波堤に向く340度に定め、当夜は煙霧がかかっていたうえ月明かりのない暗夜であったことから、機関回転数を毎分1,900の全速力前進より減じた毎分1,500に掛け、平素より4ノットばかり遅い15.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、法定灯火を表示して、手動操舵によって進行した。
 ところで、当時、羽島は、既に何年も前から無人島となっており、送電が停止されて夜間は全く明かりのない状態であったが、そのような状況下であっても、約1海里離れた地点から同島の輪郭をぼんやりと視認することができ、更に月明かりや漁船の漁り火があるときは、同島から約200メートルのところまで接近すれば、海岸線をはっきりと視認することが可能であったが、月明かりなどがないときには、それを視認することは困難な状況であった。
 また、A受審人は、平素から、萩漁港を出港して羽島北岸への瀬渡しを行う際、夜間は、同島南岸の防波堤から200メートルばかりの地点まで接近して同防波堤を視認したのち、右転するなり左転するなりして北側の瀬渡し場所へ回り込んでいたことから、同夜、月明かりも漁船の漁り火もない状況下、いつものように同島に向首して北上したものであった。
 05時08分半わずか過ぎA受審人は、虎ケ埼灯台から250度1,490メートルの地点に達して同灯台が右舷に並航したとき、羽島南岸まで750メートルとなり、そのまま北上すれば前示防波堤に衝突するおそれがある状況となったが、正船首方に同島の輪郭をぼんやりと視認していたうえ、速力を全速力前進に比して4ノットほど減じていたことなどから、同防波堤から約200メートルの地点に至るまで、未だ十分な時間的余裕があり、月明かりも漁船の漁り火もない状況を認識していたが、同地点に至れば平素通りに同防波堤を視認できるものと思い、目視での見張りを優先させたまま、0.5海里レンジに切り替えて作動中のレーダーを活用して船位の確認を十分に行うことなく続航した。
 こうして、A受審人は、その後も、目視での見張りを優先させ、依然として、レーダーを活用して船位の確認を十分に行うことなく進行中、前示防波堤を視認する間もなく、05時10分虎ケ埼灯台から277度1,650メートルの地点において、七福丸は、原針路、原速力のまま、羽島南岸の防波堤に衝突した。
 当時、天候は煙霧で風力3の南南東風が吹き、潮候は上げ潮の初期にあたり、月齢25.7、月出時刻04時34分及び同方位118度並びに日出時刻06時32分であった。
 衝突の結果、船首部を圧壊し、のち廃船処分とされるとともに、船尾甲板に居た釣り客の内5人が、最長全治約3箇月に及ぶ重軽傷を負った。

(原因)
 本件防波堤衝突は、夜間、山口県萩漁港から同県羽島北岸の瀬渡し場所へ向かって北上中、船位の確認が不十分で、同島南岸の防波堤へ向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、山口県萩漁港から羽島北岸の瀬渡し場所へ向かう際、同島南岸の防波堤から200メートルばかりの地点で、同防波堤を視認したのち北側へ回り込むつもりで北上する場合、同島が無人島で明かりのない状態であったから、同防波堤の至近に接近して衝突のおそれを生じさせないよう、レーダーを活用して船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、正船首方に同島の輪郭をぼんやりと視認していたうえ、速力を全速力前進に比して4ノットほど減じていたことから、同防波堤から約200メートルの地点に至るまで未だ十分な時間的余裕があり、同地点に至れば平素通りに同防波堤を視認できるものと思い、目視での見張りを優先させたまま、レーダーを活用して船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、同防波堤に向首接近して衝突を招き、船首部を圧壊し、のち廃船処分とされるとともに、船尾甲板に居た釣り客の内5人に、最長全治約3箇月に及ぶ重軽傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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