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平成15年広審第37号
件名

漁船秀勝丸漁船久美丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年6月27日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(西田克史)

理事官
岩渕三穂

受審人
A 職名:秀勝丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:久美丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
秀勝丸・・・左舷船首部いか釣ネットスタンションに曲損
久美丸・・・船首部木製手摺に折損

原因
久美丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
秀勝丸・・・警告信号不履行(一因)

裁決主文

 本件衝突は、入航する久美丸が、見張り不十分で、防波堤内側で待機中の秀勝丸を避けなかったことによって発生したが、秀勝丸が、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年5月14日15時20分
 鳥取県網代港
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船秀勝丸 漁船久美丸
総トン数 8.34トン 4.92トン
登録長 14.99メートル 11.09メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 70 70

3 事実の経過
 秀勝丸は、FRP製漁船で、A受審人(昭和49年12月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、いか釣りの目的で、船首0.3メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、平成14年5月14日15時10分鳥取県網代港東部の船だまりを発し、余部埼北東方沖合の漁場に向かった。
 ところで、船だまりは、第1防波堤基部の北防波堤と導流堤に続く南防波堤とにより囲まれて西南西方に出入口を有していた。そして、第1防波堤は、ほぼ東西方向に約400メートル延び、その西端に網代港第1防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。灯高15メートル、構造物の高さ9.3メートル。)が設けられ、その西端から北側にわたって約20メートル幅で防波堤高さに並ぶように多数の消波堤が取り囲んでいた。(以下、第1防波堤西端に消波堤を含んだ先端を「第1防波堤突端」という。)また、第1防波堤突端の北方には、ほぼ東西方向に約265メートル延びた第4防波堤の東端が位置し、両防波堤間の幅員が約75メートルであった。
 発進後、A受審人は、機関を微速力前進にかけ、操舵室に立った姿勢で遠隔操舵装置を使い操舵と見張りにあたり、船だまりの出口を航過し第1防波堤に沿って西行する途中で速力5ノットの半速力前進に上げ、同防波堤突端に差し掛かったところで第1、第4両防波堤間に向かうため右回頭を始め、15時18分半少し前防波堤灯台から227度(真方位、以下同じ。)115メートルの地点で350度に向首したとき、第1防波堤突端を介して右舷船首40度235メートルのところに久美丸を初めて認め、両防波堤間で同船と行き会うおそれがあると判断し、久美丸を先に通過させるつもりで直ちに機関を止め、少しばかり後進を使って同船を初認した地点で待機した。
 15時19分半A受審人は、000度に船首を向けていたとき、両防波堤間を通過した久美丸が左舷船首12度75メートルばかりのところから左回頭を始め、その後衝突のおそれがある態勢で接近したが、いずれ自船の船首尾のどちらかを替わしていくものと思い、速やかに備え付けのモーターホーンを鳴らして警告信号を行うことなく、久美丸の動静を見守った。
 こうして、A受審人は、15時20分少し前久美丸が自船を避ける気配がないまま回頭を続けて至近に迫り、衝突の危険を感じ叫び声を上げながら機関を後進に操作したが効なく、15時20分前示待機地点において、秀勝丸は、000度に向首したその左舷船首部に、久美丸の船首が前方から45度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力2の北東風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
 また、久美丸は、木製漁船で、B受審人(昭和49年10月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、ひらめ釣りの目的で、船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同14日08時05分前示船だまりを発し、網代港北東方沖合約1海里の黒島付近の漁場に向かい、同時半ごろ目的の漁場に到着して操業を開始し、ひらめ及びはまち数十匹を獲て、15時ごろ帰途に就いた。
 ところで、B受審人は、帰途にあたり、16時ごろ網代港から多くの大型のいか釣り漁船がほぼ一斉に出漁することを知っていたので、同港内が混雑する前に帰港できるよう漁場を離れたものであった。
 発進後、B受審人は、機関を全速力前進にかけ、操舵室のいすに腰を掛け操舵と見張りにあたって南下を続け、網代港港界を越えて間もなく、15時17分半防波堤灯台から030度245メートルの地点で、第1、第4両防波堤間を見通したところ出漁船など他船を認めなかったので、針路をほぼその中間に向けて226度に定め、機関を半速力前進とし、5.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
 15時18分半少し前B受審人は、防波堤灯台から015度130メートルの地点に達したとき、左正横の第1防波堤との航過距離に留意していたので、第1防波堤突端を介して左舷船首16度235メートルのところの秀勝丸を見落としたまま続航した。
 間もなく、B受審人は、第1、第4両防波堤間を通過し、15時19分半防波堤灯台から268度100メートルの地点に至ったとき、第1防波堤突端を付け回し船だまりに向かうつもりで、小舵角により左回頭を始めた。このとき、左舷船首58度75メートルばかりのところに北方に船首を向けて待機中の秀勝丸を視認でき、その後衝突のおそれがある態勢で接近したが、左方の第1防波堤突端との航過距離やその突端を介して次第に見え始める港奥からの出漁船の有無に気を取られ、依然として前路の見張りを十分に行わなかったので、そのことに気付かず、速やかに左右どちらかに大きく転舵するなど衝突を避けるための措置をとらなかった。
 こうして、B受審人は、同じ舵角で回頭を続けるうち、15時20分少し前叫び声を聞いて船首方を見たところ、目前に秀勝丸を初めて視認して驚き、直ちに機関を後進に操作したが及ばず、久美丸は、船首が135度に向いたとき、わずかの行きあしをもって前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、秀勝丸は、左舷船首部いか釣ネットスタンションに曲損を生じ、久美丸は、船首部木製手摺に折損を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、鳥取県網代港において、久美丸が、第1防波堤突端を付け回して入航する際、見張り不十分で、防波堤内側で待機中の秀勝丸を避けなかったことによって発生したが、秀勝丸が、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、鳥取県網代港において、左方の第1防波堤突端を付け回して入航する場合、防波堤内側で自船が入航するため待機中の秀勝丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、第1防波堤突端との航過距離やその突端を介して次第に見え始める港奥からの出漁船の有無に気を取られ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、秀勝丸に気付かず、これを避けないまま回頭を続けて秀勝丸との衝突を招き、同船の左舷船首部いか釣ネットスタンションに曲損及び久美丸の船首部木製手摺に折損を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、鳥取県網代港において、第1、第4両防波堤間に向かって入航する久美丸を認め機関を止めて防波堤内側で待機中、両防波堤間を通過した同船が近距離のところから左回頭しながら衝突のおそれがある態勢で接近する場合、速やかに警告信号を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、いずれ自船の船首尾のどちらかを替わしていくものと思い、警告信号を行わなかった職務上の過失により、久美丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 


参考図
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