(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年8月5日15時00分
広島県三原市能地漁港
2 船舶の要目
船種船名 |
押船第二十七久栄丸 |
起重機船第12久栄 |
総トン数 |
19トン |
1,495トン |
全長 |
13.40メートル |
55.00メートル |
全幅 |
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22.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
1,117キロワット |
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3 事実の経過
第二十七久栄丸(以下「久栄丸」という。)は、株式会社Q建設が借り入れて運航している鋼製押船で、A受審人(一級小型船舶操縦士平成2年5月免許取得)が1人で乗り組み、船首1.6メートル船尾2.0メートルの喫水で、また、非自航型鋼製起重機船第12久栄(以下「起重機船」という。)は、B指定海難関係人ほか3人が乗り組み、久栄丸の船首を起重機船の船尾凹部にかん合して長さ69メートルの押船列(以下「久栄丸押船列」という。)とし、錨運搬船を起重機船に横付けし、平成14年8月5日06時00分広島県佐伯郡大柿町を発し、漁港築造工事に従事する目的で同県能地漁港に至り、12時00分三原瀬戸に面した護岸に到着して船首付けし、起重機船にコンクリートブロック5個300トンを積載して船首2.2メートル船尾2.0メートルの喫水で、同漁港内の工事現場に移動することとなった。
これより先、A受審人は、5年前からB指定海難関係人と共に久栄丸押船列に乗り組んで港湾作業を行うようになり、同作業を行うときには同人の指示を受けており、また、久栄丸船橋において操舵するときには、起重機船のクレーン操縦室や積荷によって前方に大きな死角が生じる状態であったから、工事現場に移動することも港湾作業とみなしてB指定海難関係人に操船指揮を執らせており、起重機船船首部に配置した同人からトランシーバーで指示を受けるようにしていた。
ところで、能地漁港は、築造工事に伴ってその南側に052度(真方位、以下同じ。)方向に延びる新しい東及び西両防波堤が既に完成し、両防波堤間が同漁港入り口(以下「入り口」という。)となっており、その幅は約40メートルであった。
A受審人は、事前に工事発注業者から入り口の幅は60メートルである旨の連絡を受け、発航に当たりB指定海難関係人と入航方法を打ち合わせた際、今まで久栄丸押船列で左右舷側の余裕が少ない狭い入り口を入航するときには、低速力で保針が困難であったことから、その手前で起重機船船尾錨を投入して一旦停止し、錨運搬船により船首錨を港内まで運んで投入したうえ、機関と両錨を併用して保針しながら進行するようにしていたので、起重機船船尾及び船首錨を使用して入航するよう伝えたところ、同人から60メートルあれば船尾錨だけの使用でよい旨の返事を受けたのでこれに従うこととした。
このようにして、14時47分A受審人は、錨運搬船を同漁港内に待機させるために先航させ、B指定海難関係人を起重機船船首部に配置して操船指揮を執らせ、高根島灯台から270度1.9海里の幸陽船渠株式会社工場北西角(以下「基点」という。)から258度390メートルの積地を発して工事現場に向かい、機関を後進にかけて一旦西方に向首し、機関を2.0ノット(対地速力、以下同じ。)の微速力前進にかけ、入り口に向けて徐々に左回頭しながら手動操舵により進行した。
14時57分A受審人は、基点から207度145メートルの地点に久栄丸の船橋が達し、船首がほぼ北に向き、起重機船船首から入り口まで120メートルとなったころ、目視によりその幅が40メートルばかりであることが分かり、B指定海難関係人が計画している入航方法では保針が困難であり、偏位すると防波堤に衝突するおそれがあったが、経験豊富な同人に任せておけばよいものと思い、自ら操船指揮を執らないで続航した。
そのころB指定海難関係人も、入り口の幅が40メートルばかりであることが分かったが、A受審人に操船交替を申し出ることなく、計画した入航方法のまま入り口に接近した。
14時57分半A受審人は、B指定海難関係人の指示により起重機船船尾左舷錨を投入して錨索を延出しながら進行し、同時58分入り口まで70メートルの地点に達したころ、針路を入り口中央に直角に向首する322度とした。
14時59分B指定海難関係人は、入り口まで30メートルとなったころ、久栄丸押船列が右方に偏位して東防波堤先端に接近していることに気付き、A受審人に機関を停止するよう指示し、錨索のブレーキをかけさせたが、偏位が止まらないまま惰力で続航し、起重機船船首部が東防波堤を替わって港内に入ったので、港内で待機していた錨運搬船に起重機船右舷船首部を押させたが及ばず、15時00分久栄丸押船列は、基点から289度130メートルの地点において、312度に向首し、1.0ノットの速力で、起重機船の右舷側中央部が、東防波堤先端に後方から80度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はなく、潮候は上げ潮の初期であった。
衝突の結果、起重機船に損傷はなく、東防波堤先端の上部L型ブロックが15センチメートル移動したが、後修理された。
(原因)
本件防波堤衝突は、広島県能地漁港の入り口に入航する際、保針措置が不十分で、入り口付近で右方に偏位したことによって発生したものである。
運航が適切でなかったのは、船長が自ら操船指揮を執らなかったことと、起重機船乗組員が船長に操船交替を申し出なかったこととによるものである。
(受審人等の所為)
A受審人は、押船船橋で操舵しながら広島県能地漁港の入り口に入航する場合、入り口の幅が事前の連絡より狭かったから、偏位して防波堤に衝突しないよう、自ら操船指揮を執るべき注意義務があった。しかるに、同人は、起重機船船首部に配置して操船指揮を執らせている乗組員に任せておけばよいものと思い、自ら操船指揮を執らなかった職務上の過失により、入り口手前で起重機船船尾錨を投入して一旦停止し、錨運搬船により船首錨を港内まで運んで投入したうえ、機関と両錨を併用した保針措置を十分にとることができないまま進行し、右方に偏位して防波堤との衝突を招き、防波堤上部のL型ブロックを移動させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、広島県能地漁港の入り口に入航する際、入り口の幅が事前の連絡より狭かったが、船長に操船交替を申し出なかったことは本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、本件後は船長と話し合って保針措置をとっていることに徴し、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。