(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年6月14日21時49分
備讃瀬戸東部
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第六十一龍丸 |
漁船新進丸 |
総トン数 |
499トン |
19トン |
全長 |
76.583メートル |
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登録長 |
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19.01メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,176キロワット |
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漁船法馬力数 |
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190 |
3 事実の経過
第六十一龍丸(以下「龍丸」という。)は、本邦各地に寄港し主として塩などバラ荷輸送に従事する船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、塩1,500トンを積載し、船首4.10メートル船尾4.65メートルの喫水をもって、平成14年6月14日11時05分広島県三ツ子島を発し、兵庫県東播磨港高砂地区に向かった。
A受審人は、船橋当直体制を単独4時間3直制とし、発航から来島海峡通峡まで船橋当直にあたり、いったん下橋して自室で休息を取ったのち、19時30分六島付近で再び昇橋し、その後の船橋当直に就いて備讃瀬戸を東行した。21時40分小槌島灯台から174度(真方位、以下同じ。)1海里の地点で、針路を077度に定め、機関を全速力前進にかけて10.0ノットの対地速力(以下速力は対地速力である。)で自動操舵により備讃瀬戸東航路を進行した。
ところが、21時46分A受審人は、前路約0.5海里に新進丸の赤色回転灯や特にオレンジ色の回転灯を認め得る状況であったが、折から航路内を次々に反航してくる西行船との航過模様が気になる状況の下で、前方を一見した折に特に目に付かず、前路で停止した状態で漁ろうに従事中の漁船などいないものと思い、前路に対する見張りを十分に行わなかったので、その後新進丸と衝突のおそれがある態勢で接近する状況に気付かず、同船を避けないまま続航中、ようやく同時49分わずか前右舷船首至近に迫った同船に気付き、慌てて自動操舵のまま左舵をとったが及ばず、21時49分小槌島灯台から064度2.4海里の地点において、龍丸は、その船首がほぼ原針路、原速力のまま、新進丸の右舷船尾5度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は西流の最強時であった。
また、新進丸は、込瀬網漁に従事するFRP製漁船で、操業の目的で、B受審人(一級小型船舶操縦士 昭和51年5月19日免許取得)ほか2人が乗り組み、船首0.3メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、同日11時00分香川県高松市女木港を発し、大槌島から東方約2海里付近の漁場に向かった。
ところで、込瀬網漁は、袖網と袋網から成る網を錨止めして袋口を潮流に向けて敷設し、流れに乗って遊泳する魚を捕獲する漁法で、網を仕掛けたのち袖網の末端上部に自船の船首索を繋いで機関を停止した状態で操業を続け、当時4時間ごとに揚網を繰り返して明け方まで操業を行う予定であった。
B受審人は、適宜漁場を変えて操業を続け、20時ころ備讃瀬戸東航路内にあたる前示衝突地点付近に漁場を移動して網を敷設し、白色全周灯1個を前部にそして1個の赤色及び2個のオレンジ色の各回転灯を操舵室上部にそれぞれ点灯して、折からの西流に抗し船首を082度に向けた状態で機関を停止して操業を行っていた。
ところが、B受審人は、多数の船舶が航行する備讃瀬戸東航路内での操業であったが、航路航行船の方で漁ろうに従事中の自船を避けて行くものと思い、航路航行船に対する見張りを十分に行わなかったので、21時46分右舷船尾5度約0.5海里に龍丸の白白緑3灯を認めることができ、その後同船が衝突のおそれがある態勢で自船に接近する状況であったが、網を敷設したのち次の揚網まで時間があり操舵室内のベッドに横になっていたので、これに気付かず、船尾方から自船を避けずに接近する同船に対して警告信号を行わないまま機関を停止した状態を続け、新進丸は、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、龍丸は右舷側船首外板に擦過傷を、新進丸は左舷船尾部外板に破口をそれぞれ生じた。
(原因)
本件衝突は、夜間、備讃瀬戸東部において、備讃瀬戸東航路を東行中の龍丸が、見張り不十分で、同航路内で漁ろうに従事中の新進丸を避けなかったことによって発生したが、新進丸が、見張り不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、単独で船橋当直に就いて備讃瀬戸東航路を東行する場合、前路航路内で漁ろうに従事中の漁船の灯火を見落とすことのないよう、前路に対する見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、折から航路内を次々に反航してくる西行船との航過模様が気になる状況の下で前方を一見した折に特に目に付かず、前路で停止した状態で漁ろうに従事中の漁船などいないものと思い、前路に対する見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で停止した状態で漁ろうに従事中の新進丸に気付かず、これを避けないまま進行して、同船との衝突を招き、龍丸の右舷側船首外板に擦過傷を、また新進丸の左舷船尾部外板に破口をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、多数の船舶が航行する備讃瀬戸東航路内において、仕掛けた込瀬網の上端部に船首索を繋いで機関を停止した状態で操業する場合、航路内を衝突のおそれがある態勢で接近する航行船を見落とすことのないよう、特に航路航行船に対する見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、航路航行船の方が停止した状態で漁ろうに従事中の自船を避けて行くものと思い、航路航行船に対する見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、航路に沿って自船を避航しないまま接近する龍丸に気付かず、同船に対して警告信号を行わないまま機関を停止した状態を続け、同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。