(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年6月26日01時20分
伊予灘北部
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船泉翔 |
引船伊勢丸 |
総トン数 |
744トン |
97.04トン |
全長 |
80.73メートル |
26.81メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
2,206キロワット |
1,176キロワット |
船種船名 |
台船KD-60 |
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全長 |
60.0メートル |
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幅 |
18.0メートル |
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深さ |
2.5メートル |
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3 事実の経過
泉翔は、専ら関門港小倉区から大阪港堺泉北区への鋼材輸送に従事する船首船橋型のロールオン・ロールオフ貨物船で、船長C及びA受審人ほか3人が乗り組み、空倉のまま、船首2.8メートル船尾3.9メートルの喫水をもって、平成14年6月25日12時00分大阪港堺泉北区を出港し、関門港小倉区に向かった。
A受審人は、22時00分来島海峡を通航し終えたころ、C船長から引き継いで単独の船橋当直に就き、航行中の動力船の灯火を掲げて伊予灘に至り、平郡水道第2号灯浮標(以下「第2号灯浮標」という。)に向けて西行し、翌26日01時06分半同灯浮標の北方に差し掛かって左転を始め、同時07分舵掛岩灯標から090度(真方位、以下同じ。)1.6海里の地点で、針路を234度に定め、機関を全速力前進にかけて13.7ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で自動操舵により進行した。
針路を定めたとき、A受審人は、正船首わずか左4.5海里のところに、伊勢丸引船列の伊勢丸が掲げる3個のマスト灯を1個の明かりとして初めて視認し、間もなく同灯のほかその上方に黄色回転灯と下方に両舷灯も視認するようになり、反航船であることを知ったものの、もう少し近づいてから様子を見るつもりで、01時10分同引船列が3.4海里となったのち、操舵室左舷側後部のカーテンで仕切られた海図室に入り、海図台上で荷役装置の点検簿の記入を始めた。
01時14分少し過ぎA受審人は、舵掛岩灯標から166度1.0海里の地点に達したとき、伊勢丸引船列が正船首わずか左2.0海里となり、その後同引船列とほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近することを認め得る状況であったが、点検簿の記入に気をとられ、伊勢丸引船列に対する動静監視を十分に行っていなかったので、この状況に気付かず、同引船列の左舷側を通過することができるように針路を右に転じることなく、依然として海図室に入ったまま同じ針路で続航した。
A受審人は、01時19分半間近に接近した伊勢丸が汽笛で短音2回を吹鳴したのと相前後して、海図室から操舵室に戻り、同時20分わずか前船首至近に伊勢丸が曳航するKD-60(以下「台船」という。)を視認し、操舵を手動に切り替えて左舵一杯をとるも効なく、01時20分舵掛岩灯標から209度1.9海里の地点において、泉翔は、原針路、原速力のまま、その右舷船首部が台船の右舷側前部に前方から19度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力3の北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
C船長は、自室で就寝中、衝突の衝撃で目覚め、直ちに昇橋して事後の措置にあたった。
また、伊勢丸は、船体の前部に操舵室を設けた引船で、船長F及びB受審人ほか2人が乗り組み、船首1.85メートル船尾3.40メートルの喫水をもって、船尾から延出した長さ50メートルの化学繊維製曳航索を、空倉で船首尾0.7メートルの等喫水となった無人の台船の船首両舷付近から延出した長さ17メートルの鋼索とY字状に結合して、伊勢丸船首から台船船尾まで約150メートルの伊勢丸引船列を形成し、同月25日16時00分関門港門司区を出港し、広島県呉港に向かった。
B受審人は、23時15分周防灘東部を東行中、F船長から引き継いで単独の船橋当直に就き、伊勢丸のマスト頂部に黄色回転灯とその下方にマスト灯3個のほか、舷灯、船尾灯及び引船灯を、台船には甲板上7箇所に点滅灯をそれぞれ掲げて伊予灘に至り、第2号灯浮標に向けて北東進するうち、翌26日01時05分船首方5.0海里のところに、同灯浮標の北側を西行する泉翔が掲げるマスト灯2個と左舷灯を初めて視認し、間もなく同船が左転を始めたことを認めた。
01時07分B受審人は、舵掛岩灯標から217度3.3海里の地点で、針路を053度に定めたところ、左転を終えた泉翔のマスト灯と両舷灯を正船首わずか右に視認するようになり、同船の動静を監視しながら、機関を全速力前進にかけて7.0ノットの速力で自動操舵により進行した。
01時14分少し過ぎB受審人は、舵掛岩灯標から212度2.5海里の地点に至ったとき、泉翔が正船首わずか右2.0海里となり、その後同船とほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近することを認めたが、自船が引船列であるので泉翔が避けてくれることを期待し、同船の左舷側を通過することができるように針路を右に転じることなく、同じ針路で続航した。
B受審人は、01時19分半泉翔と間近に接近してようやく危険を感じ、汽笛で短音2回を吹鳴すると共に針路を048度に、更に同時20分少し前035度に転じ、探照灯でせん光2回を発するも効なく、伊勢丸は衝突を免れたものの、台船は、船首を035度に向け、前示のとおり衝突した。
F船長は、自室で就寝中、食堂で待機していた機関部当直者から台船が衝突した旨の報告を受け、直ちに昇橋して事後の措置にあたった。
衝突の結果、泉翔は球状船首右舷側に破口を伴う凹損を生じ、台船は右舷側前部に凹損及び同中央部に亀裂を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、夜間、伊予灘北部において、両船がほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがあるとき、泉翔が、動静監視不十分で、伊勢丸引船列の左舷側を通過することができるように針路を右に転じなかったことと、伊勢丸引船列が、泉翔の左舷側を通過することができるように針路を右に転じなかったこととによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、伊予灘北部を南西進中、正船首わずか左に伊勢丸引船列のマスト灯と両舷灯を視認した場合、衝突するおそれがあるかどうか判断できるよう、同引船列に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、もう少し近づいてから様子を見るつもりで海図室に入って荷役装置の点検簿の記入をするうちこれに気をとられ、伊勢丸引船列に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、その後同引船列とほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず、伊勢丸引船列の左舷側を通過することができるように針路を右に転じないまま進行して伊勢丸が曳航する台船との衝突を招き、泉翔の球状船首右舷側に破口を伴う凹損を、台船の右舷側前部に凹損及び同中央部に亀裂をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、伊予灘北部を北東進中、泉翔とほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近することを認めた場合、同船の左舷側を通過することができるように針路を右に転じるべき注意義務があった。しかし、同人は、自船が引船列であるので泉翔が避けてくれることを期待し、同船の左舷側を通過することができるように針路を右に転じなかった職務上の過失により、自船が曳航する台船と泉翔との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。