(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年7月21日10時46分
富山県伏木富山港東側港界付近
2 船舶の要目
船種船名 |
遊漁船第2伊登勢丸 |
プレジャーボートタイタニック |
総トン数 |
7.99トン |
|
全長 |
14.83メートル |
7.21メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
169キロワット |
139キロワット |
3 事実の経過
第2伊登勢丸(以下「伊登勢丸」という。)は、船体ほぼ中央に操舵室があるFRP製小型遊漁兼用船で、夏季のみ遊漁船業務に従事し、A受審人が単独で乗り組み、釣客6人を乗せ、船首0.7メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成14年7月21日05時00分伏木富山港富山区に隣接する漁船船だまりを発し、同港東方の常願寺川沖合で魚釣りを行ったのち、10時30分富山東防波堤灯台(以下「東防波堤灯台」という。)から092度(真方位、以下同じ。)2.9海里の地点を発進して帰途に就いた。
発進時A受審人は、岩瀬浜の海岸付近に多数のプレジャーボートや釣船を認めたので、その沖合を航行することとし、針路を281度に定め、機関を全速力より少し低い回転数毎分1,200の前進にかけ、8.0ノットの対地速力で進行した。
発進後A受審人は、舵輪後方に立って周囲の見張りをしながら操舵にあたり、回転数毎分800を越えると船首が浮上して正船首方向の左右それぞれ約5度の範囲が死角となることから、平素、航行中ときどき船首を左右に振って死角を補う見張りをするように努めていたものの、このときプレジャーボートや釣船の沖に向けたので安心し、船首を左右に振らないまま、海岸近くの水上オートバイなどに留意しながら、海岸から約600メートル沖合を続航した。
10時44分A受審人は、東防波堤灯台から077度1.2海里の地点に達したとき、正船首500メートルにタイタニックを認めることができ、その後衝突のおそれがある態勢で同船に接近し、船首から延びているアンカーロープから錨泊中であることが分かったが、海岸から離れていたので、進行方向に他船はいないものと思い、船首を左右に振って死角を補う見張りを十分に行わなかったので、錨泊中のタイタニックに気付かず、同船を避けることなく進行中、10時46分伊登勢丸は、東防波堤灯台から070度1,670メートルの地点において、原針路、原速力のまま、その船首が、タイタニックの右舷前部に前方から20度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の東風が吹き、潮候はほぼ低潮時であった。
A受審人は、衝撃とタイタニックの操舵室前面窓ガラスの割れる音で衝突したことに気付き、直ちに停船して事後の措置にあたった。
また、タイタニックは、簡易ホーンを備えたFRP製プレジャーボートで、専ら魚釣りに使用され、B受審人が単独で乗り組み、同人の次男及び知人3人が同乗し、船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日09時00分伏木富山港富山区内の富山マリーナを発し、東防波堤灯台西方1.3海里の同港内に錨泊して魚釣りを始めた。
その後B受審人は、釣場を移動して魚釣りを続け、10時15分伏木富山港東側港界から200メートル東方の、水深約10メートルの前示衝突地点で、船首から重さ20キログラムの錨を投下してアンカーロープを25メートル延ばし、船内に備えていた、錨泊中の船舶が表示する形象物を掲げないまま、同乗者とともに魚釣りを行った。
10時41分B受審人は、081度に向首し、船尾甲板上で次男の釣道具を点検していたとき、右舷船首20度1,230メートルに、自船に向かって西行中の伊登勢丸を初認した。
B受審人は、初認後も伊登勢丸の監視を続け、10時44分500メートルに接近し、その後衝突のおそれがある態勢となり、同時45分同船が自船に向首したまま250メートルに近づいても自船を避ける様子が認められなかったが、そのうちに錨泊中の自船を避けるものと思い、備付けの簡易ホーンを使用して注意喚起信号を行わなかった。
そしてB受審人は、機関を始動して移動するには時間がかかり、次男を船尾甲板で保護しながら見守るうち、同船が至近に近づいて衝突の危険を感じ、同乗者とともに大声で注意を促したが効なく、タイタニックは、081度に向首したまま錨泊中、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、伊登勢丸は右舷船首部に擦過傷を生じたが、のち修理され、タイタニックは右舷前部外板に破口を生じるとともに操舵室を損傷した。
(原因)
本件衝突は、多数のプレジャーボートや釣船が散在する伏木富山港東側港界付近において、伊登勢丸が、見張り不十分で、錨泊中のタイタニックを避けなかったことによって発生したが、タイタニックが、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、伏木富山港東側港界付近において、多数のプレジャーボートや釣船が散在する岩瀬浜海岸沖合を航行する場合、船首が浮上して船首方向に死角が生じていたのであるから、船首を左右に振って死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、海岸から離れていたので進行方向に他船はいないと思い、死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、錨泊中のタイタニックに気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、伊登勢丸の右舷船首部に擦過傷を、タイタニックの右舷前部外板に破口及び操舵室に損傷をそれぞれ生じさせるに至った。